Eテレで放送中のアニメ「青のオーケストラ Season2」。高校のオーケストラ部を舞台にした作品の大きな注目点は、劇中で登場人物たちが奏でるクラシックの名曲の演奏を、新進気鋭の演奏家たちが担当していることだ。NHKのさまざまなクラシック・コンテンツが紹介されたイベント「NHK Classic Fes.2025」でも、この「青オケ」がピックアップされた。
会場となった東京・渋谷駅前のSHIBUYA TSUTAYAの特設ステージで10月に行われたトーク&ライブの模様を、「青オケ」をさらに楽しむ手がかりとして紹介していこう。

アニメ「青のオーケストラ」ならではの取り組みとは?
今回の「青オケ」イベントは、前半がアニメに携わった人々によるトークショー、後半が弦楽演奏のライブという2部構成。そのトークショーには、「青オケ」の主人公・青野一の演奏を担当しているヴァイオリニストの東 亮汰、楽団オーガナイザー(音楽部分のコーディネートや、演奏する楽団のディレクション担当)を務める鳥越 濯、アニメの制作統括である坂田 淳チーフ・プロデューサーが登壇した。

3人は、楽曲の収録風景を記録したメーキング映像や完成したアニメを見ながらトークを展開。どのような行程を経て「青オケ」の音楽が作られていったのか、舞台裏が明かされることになった。
アニメ「青のオーケストラ」では、演奏シーンの絵を描き始める前に、そこで使われる音楽を収録したという。練習シーンも含めて、どんな曲が必要なのかを精査することから始められた。当然ながら、通常のコンサートのように上手な演奏を録音すればいいわけではなく、「登場人物がどこで、どんな心情で弾いていて、それがうまくいくのか、いかないのか」など、それぞれの演奏にも“お芝居”が求められたという。今回のアニメで、オーケストラ部分の演奏を担当しているのは、吉田行地指揮のHeartbeat Symphony(洗足学園フィルハーモニー管弦楽団)。そのメンバーを選んだのが、鳥越だ。
鳥越:基本的には、20代中盤から後半くらいの若手メンバーを中心に集めました。というのも高校オーケストラの話なので、高校時代の記憶が鮮明な人たちに演奏してもらった方が、青春の感じであったり、「あのとき、熱中していたよね」という、気持ちの部分で音に出るものが表現できるのではないかなと考えたからです。
坂田:東さんも青野として演奏しながら、自分の高校時代を思い出すこともありましたか?
東:僕の場合は高校から音楽専門の学校に通っていましたので、青野くんと環境は違いますが、同じように音楽が好きな仲間に囲まれていたので、高校に入って音楽に向き合う時間も意識もすごく変わりました。切磋琢磨しながら音楽に向き合う、僕にとってターニングポイントのひとつだったかなと思っています。そういう意味では、青野くんと重なる部分も感じて、自然と「あ、こういう気持ちなのかな」と思えました。

演奏する音を“合わせない”という難しさも
トークでは、「音を合わせない難しさ」についても語り合われた。物語のなかで「演奏者たちが、まだ音を合わせるという意識になっていない」という場面があったが、どう表現したら視聴者に理解してもらえるか、という問題に直面したそうだ。
東:我々が演奏するときは合わせないことを求めて演奏することは、まずありません。どうやったら自分たちが思う理想の形に近づけるか、自然と合わせていく意識が根付いているというか。「Season1」でも佐伯くんと演奏するシーンで、ヴィヴァルディの「四季」をまったく噛み合わないで弾くシーンがあったのですけど、自分たちで弾いているときは「相当ズレているなぁ」と思いながら弾いていても、「もっとズラしてください」というリクエストを監督からいただいて。音楽的に崩壊寸前、というようなところを目指してやっていたんです。普段は、ズラして弾くということを意識したことがなかったので、簡単なようで本当に難しくて、とても印象的でした。
もうひとつ、坂田プロデューサーが苦労した点として挙げたのは、演奏家の何気ない行動、楽器を演奏していないときの姿を「絵」で表現することだ。演奏している様子は、映像や写真資料として世の中にたくさん存在しているが、楽器の置き方やヴァイオリンの弓の扱い方などの表現に困ったという。
坂田:練習風景の描写として、楽器を横に置いて話している姿が、たくさん出てくるのですが、高校生たちが何気なく楽器を扱うときに無意識にやっている行動が、なかなかわからない。これを描くのにものすごく困って、「season1」でもそうでしたが、海幕高校のモデルになった千葉県立幕張総合高校のシンフォニックオーケストラ部に、アニメーションの制作チームが何度も足を運んで、「こういうときは、どうしていますか」と取材させていただきました。効果さんが音も録っているのですが、学校での練習シーンの環境音には、幕総の皆さんの音も入っているんです。

アニメ「青のオーケストラSeason2」は、ここに注目!
さまざまなこだわりが詰まった「青のオーケストラ Season2」。これからの物語は、オーケストラ部のメンバーが、全国コンクール9連覇に向けて課題曲の音作りを深めていくことになる。そして新たな展開が……。その見どころについて、3人はそれぞれ、こんなメッセージを口にした。
東:演奏を担当している側として注目していただきたいのは、それぞれのキャラクターの心情や成長を我々なりに解釈して、表現しているところ。そこはこだわった部分ですので、ぜひ感じ取っていただけたらと思っています。「Season1」で演奏を収録していたときは、出来上がる絵や声優さんの声がまったくわかっていなくて、台本や原作を読んだ僕の解釈でやらせていただいたのですが、実際の放送を見て、鳥肌が立ったというか。自分が想像していた以上に、声や絵が揃ったときに伝わってくるメッセージ性が大きかったので、今回の「Season2」も一視聴者としても楽しみにしています。
坂田:「Season1」で、演奏シーンの収録を一度やってみてようやくわかってくるんじゃないかと話していたんですが、「やっぱりそうだった」という感じでした。「Season2」では、さらによくしようと、みんな頑張って作っています。
アニメーションもオーケストラと同様に集団で作っていくもの。今、この瞬間も数十人、もしかすると百人以上の方が手を動かして、絵を作ってくれています。絵だけでなくそれぞれがいろんな情熱、熱意を持って作ってくれているので、その成果として出来上がったものを、楽しみにしていただければと思います。
鳥越:オーケストラが代替わりして、メンバーが代わる中、どんな演奏になっていくのか。個々がどういうふうに成長して、人間関係がどうなっていくのかというところに合わせて、音がどう変わっていくのか。そういったところも注目していただけたら、と思っています。また、原作をお読みになっている方はわかると思うのですが、これから合唱のシーンも登場します。その歌声も録っていますので、ぜひ楽しみにしていてください。

ライブでは、ここでしか聴けない曲が次々と
続いて行われたライブに出演したのは、東 亮汰+青オケ・スペシャルカルテット。カルテットのメンバーは、1stヴァイオリン・池田開渡、2ndヴァイオリン・菅野千怜、ヴィオラ・村松ハンナ、チェロ・荒木匠登の4人の演奏家。
最初に演奏されたのは、パッヘルベルの「カノン」。
「Season1」の第2話、夕暮れの河原でのシーンで久しぶりにヴァイオリンを手にした青野 一がソロで弾いたあの曲を、今回は弦楽四重奏団との共演で。演奏ステージエリアの横は塀もなく、歩行者の通路という環境の中で、東のヴァイオリンの音色が鮮烈に響く。そのインパクトに、思わず立ち止まった人たちは、会場後方の立見席に移動。気がつけば、鈴なりの観客がそこにいた。
続いては、バッハの「G線上のアリア」。
「Season1」の第8話、夜の公園で秋音律子と思いをぶつけ合って和解した小桜ハルが、律子のリクエストで弾いた曲だ。ハルの演奏は小川恭子が担当して、物語では切なさに満ちた音色を響かせていたが、それを東の演奏で聴けることで、新たな解釈を楽しめる喜びが。それにしても、ステージと客席の近さに、改めて驚く。最前列の人は、少し手を伸ばしたら届くのではないか? 思うほどだ。
さらには、ドヴォルザークの「ユーモレスク」。
「Season1」の第21話のサブタイトルにもなったこの曲は、自分の音を探し続けた青野が、それをつかみかけるシーンで流れた、物語のターニングポイントでもある大事な曲。放送では、東が奏でる音色から青野の成長を感じさせる演奏を披露していた。ちなみに、東が「青オケ」関連のイベントに登場する際は、「カノン」とともに演奏する機会が多く、今回も豊かな色彩感に満ちた演奏が楽しめた。

そして、ヴィヴァルディ「四季」。
「Season1」の第5話では「春」が、第23話では「春」と「夏」が演奏されていたが、「秋」と「冬」は「青オケ」には登場していないので、貴重な演奏と言えるかもしれない。第5話では、奏者たちの視線がコンマス・原田蒼の弓に集まっていく描写があったが、今回のカルテットのメンバーの視線も東へ。東もメンバーとの呼吸を合わせ、「四季」を軽やかに紡いでいく。それを見守る聴衆の幸せそうな表情といったら!(それもそのはず、目の前で弾いているのは、去年のブラームス国際コンクールで第2位に入賞した人だもの)
最後に演奏されたのは、ドヴォルザークの交響曲第9番ホ短調「新世界より」の第2楽章と第4楽章(弦楽アレンジ版)。
「Season1」の第24話、定期演奏会のメイン曲として演奏されたあの名曲に、管楽器・打楽器なしで挑むという、チャレンジングな演奏となった。されど、東が奏でる力強い主旋律、低音部を担うチェロ・荒木の熱演で、「新世界」らしさが随所に感じられる。例えば、本来ならイングリッシュホルンが奏でる主旋律を、今回はヴィオラが担当する形にアレンジ。「Season1」で、この第2楽章でヴィオラ奏者の葛藤が描かれていたことを思い出し、そのアレンジの妙に唸らされる。さらに第4楽章でも、金管楽器の咆哮の代わりを弦楽器で巧みに担い、その特別な味わいに感慨もひとしお。生で聴く機会のほとんどなさそうな演奏に出会えたことは、まさに一期一会の出来事だった。

繁華街にあるSHIBUYA TSUTAYA店内の特設ステージでのライブで、クラシック音楽を楽しむ環境としてはかなりハードなものではあったが、奏でられていた音楽は、正しく本物。フランクな場でありながらも、楽章の間の拍手は控えるというクラシック・コンサートのマナーも守られ、聴衆の意識の高さも感じられた。それは「青オケ」という作品への理解もあるのかもしれない。
これからの「青オケ」の物語が原作どおりに描かれていくとすれば、全国コンクール後は、クリスマス、お正月、そして3年生たちが卒業する桜の季節へ……。劇中で描かれる季節が、現実とほぼシンクロしていくと思われるので、ぜひ季節を感じながら楽しんでほしい。
ステラnetでは、東 亮汰の単独インタビューを近日公開予定です。
アニメ「青のオーケストラ」Season2
毎週日曜 Eテレ 午後5:00~5:25
再放送:毎週木曜 Eテレ 午後7:20~7:45
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カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。