毎週日曜日午後5時から、Eテレでアンコール放送中のアニメ「青のオーケストラ」Season1。9月21日と28日にオンエアされる第23話、第24話では、主人公の青野はじめが所属する海幕高校シンフォニック・オーケストラ部の定期演奏会の様子が、2回にわたって描写されます。Season1のクライマックスをさらに楽しむため、7/20に東京の文京シビックセンター大ホールで開催され、アニメ「青オケ」の作品世界をリアルに“追体験”できたフィルムコンサートの様子をお知らせしておきます。


アニメ「青オケ」Season1を彩った名曲を生演奏で

それにしても、約2年前の「青のオーケストラ」Season1の本放送、熱かったですねぇ……(遠い目)。
極私的な各回レビューや、キャストの方々、原作者・阿久井真先生のインタビュー記事は、こちらを参照していただくとして。今読むと気恥ずかしくなる部分もあるけれど、これが当時の私のうそ偽りない印象でもあります。

そんなアニメ「青オケ」の名場面の映像と、劇中で演奏された名曲の生演奏を堪能できるファン待望のイベントが、ことし7月20日、東京・文京シビックセンター大ホールで行われました。題して「『青のオーケストラ』フィルムコンサート~海幕高校オーケストラ部定期演奏会〜」!
えっ、「海幕高校オーケストラ部」って、どういうこと? 海幕高校って、作品の中に登場した架空の学校名でしょ? そう思われた方のために、補足しておきましょうか。

Ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

アニメ「青オケ」の劇中で、海幕高校オーケストラ部全体の合奏場面で実際の演奏を担当していたのは、吉田行地さん指揮による洗足学園フィルハーモニー管弦楽団(Heartbeat Symphony)。劇中の演奏曲を収録する際には数多くのカメラを設置、演奏者の指の動きまでつぶさに撮影しました。アニメの演奏シーンは、その収録映像をもとに作画されています。つまり、アニメ内で指揮をする鮎川広明先生がタクトを振る姿は、吉田行地さんの動きが映像化されている、というわけですね。

つまり今回のフィルムコンサートに登場したのは、海幕高校オーケストラ部の、演奏における「中の人」たち。アニメ本編の演奏を担当したメンバーが劇中曲を披露するという意味では、唯一無二の演奏会と言えるでしょう。
という前置きはさておき、早速、このフィルムコンサートの内容を紹介していきましょうか。


映し出された映像は、単なる名場面集ではなく……

ということで、ざっと演奏会の感想を。

圧倒的に良かった!!!

え、それだけ!?
だって私は「あっ!」「うわー!」「おおお」と(心の中で)叫びながら音に身を任せて、「すっげぇ、良かったぁ」という感想しか出てこないくらい放心状態だったんだもの。でも、それではリポートにならないので、記憶の欠片かけらすくい上げながら文章にしてみます。

Ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

今回のフィルムコンサートは、昼・夜公演があり、私が鑑賞したのは夜の部。

客席に開演間近を知らせる鐘の音が響き、着席を促すアナウンスが。そして漏れ聞こえてくる、楽団員たちが個人練習をする楽器の音。オーケストラの演奏会によくある風景です。ただ、その音が通常よりも長く、はっきりと聞こえていた気がして……。あ、そうか。すでに「定期演奏会」としての演出が施されているのか、と思い至りました。そしてステージが暗転して、オーケストラのメンバーが入場。あれ? みんなが着ている衣装も、アニメと同じなんじゃない?

そして聞こえてきたのは、アニメ第1話の最初に流れた「たった4本の弦。そこから奏でられる音が、俺をつかんで離さない……」という青野一のモノローグ。それは舞台袖に控えた青野役・千葉翔也さんによる生ゼリフでした。その直後、奏でられた曲は、「青オケ」Season1のオープニング・テーマ「Cantabile」の、オーケストラ・バージョン!!!

Ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

おお、こうきたか! メロディアスな曲調からマーチ風に転調していくアレンジには、思わずうならされました。ステージの背景にはアニメのタイトル・ロゴや「青オケ」全体のダイジェストが投影され、この演奏会がアニメの流れと完全に歩調を合わせていることがはっきりと伝わってきます。演奏された「Cantabile」は、約90秒。アニメのオープニングとほぼ同じ長さという点に、思わずニヤリとしてしまいました。

曲が終わり、ホールが大きな拍手に包まれると、演奏会の案内役として、千葉翔也さんと佐伯なお役の土屋神葉さんがステージに登場。今回の「定期演奏会」のコンセプトを紹介していきます。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション
Ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

そして演奏されたのは、海幕高校の新入生を歓迎する部活動紹介イベントで上級生たちが披露していた、F・V・スッペの『軽騎兵』序曲。映し出されたアニメ映像は、この曲が登場した第3話のシーンを中心としたもので、それに合わせてステージ両サイドの壁も色鮮やかにライトアップされています。その色味は投影されている場面シーンに合わせて変化するという芸の細かさでした。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション
Ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

続いては、アニメの定期演奏会でも演奏された、チャイコフスキーのバレエ組曲『くるみ割り人形』から「花のワルツ」。この場面でクローズアップされているのは、この曲が大好きな小桜ハル。アニメでは、曲の冒頭にハルちゃんが自分を鼓舞するようにつぶやく「いち、に、さん。いち、に、さん……」というモノローグが入っていて、その声がめちゃめちゃ可愛かわいかったのですが、そこは脳内で補完しておきました(笑)。彼女が敬愛する3年生・町井美月の背中を追いかけるように演奏に挑むシーンも登場! 各キャラクターのプロモーション映像かと思えるほど、それぞれの個性が際立つように映像が再編集されています。

Ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

さらに、疾走感あふれるビゼーの『カルメン』序曲の演奏。この曲では『カルメン』を練習するシーンが多かった、りっちゃんこと秋音律子の姿が。中学校のときに受けたいじめを過去のものとして、未来に向かって走り続けているりっちゃんの笑顔に(劇中の青野くんと同様に)背中を押してもらえた気持ちになりました。

3曲の演奏が終わると、MCの千葉さんと土屋さんが再登場。演奏の感想を語りつつ、アフレコ時の裏話として、演じるときのポイントなどを語ってくれました。土屋さんは、「佐伯直はドイツで少年時代を過ごしていたため、言葉を紡ぐときにドイツ語で思考を巡らせるタイムラグを意識していた」とのこと。また千葉さんは、いろんな葛藤を抱えた青野くんの気持ちを作るために、アフレコ前にひとりで過ごしたり、自分が思い悩んでいたころに書いた文章や写真を見返して、それを思い出すようにしていたそうです。

そして2人は、アニメで青野くんのヴァイオリン演奏を担当している東亮汰さんをステージに迎え入れました。東さんと言えばアニメ「青オケ」に携わる前から新進気鋭のヴァイオリニストとして注目されていましたが、出演後にJ.ブラームス国際コンクールやイザイ国際音楽コンクールで上位入賞を果たすなど、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの飛躍ぶり。その演奏に、期待が高まります。


アニメ本編とは違う趣向の曲も

Ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

東さんを中心に、ステージ上は室内楽編成となり、ヴィヴァルディの『四季』から「春」と「夏」を演奏。アニメでは、コンサートマスターを務める3年生の原田蒼が中心となっていた曲でした。今回は、そのポジションに東さんが入っての「春」と「夏」。確かに青野くんも劇中で「春」を弾いていたけれど、それは佐伯とのデュオ演奏で互いに激しく自分の音を主張して「音のケンカ」と評されたシーンだったから、今回は他者と音を合わせることを知った青野くんが弾いたバージョンなのかも。がもし、青野くんが成長して原田のような立場に立ち、この曲を弾いていたら……、という“if”に満ちた演奏を楽しめたわけで、それもまた感慨深いものがありますね。

Ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

そして東さんがソロ演奏で奏でたのは、ドヴォルザークの「ユーモレスク」。第21話で、青野くんが自らの心の中を旅するかのように音を模索して弾いていた、あの曲です! 劇中で青野くんが弾いたとき以上に、ドラマチックに“歌い上げる”東さんのヴァイオリン。この曲ではアニメの映像が流れず、曲の解釈が観客に委ねられたかのような演出も印象的でした。
ここで演奏会の前半が終了。15分間の休憩に入ります。


放送での定期演奏会は胸熱の展開に

後半は、アニメの定期演奏会と同様、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」。本日のメイン・ディッシュとなります。

まずは場内が暗転して、誰もいないステージに千葉さんと土屋さんが登場。阿久井真先生が描き下ろした青野くんと佐伯くんがステージの袖に立つカットが映し出される中、この公演限定のオリジナル朗読劇が始まりました。あっ、これって、アニメ本編にも、原作にも描かれていない、「新世界より」演奏直前の“青野と佐伯の2人だけの会話”ということですね!

脚本を書いたのは、阿久井先生自身。青野くんと佐伯くんが演奏会前半を振り返り、その会話がそのまま「新世界より」の楽曲解説になっていくという巧みな構成。青野と佐伯の演奏に込める思いや考え方の違いも明らかになっていきます。
朗読劇が終わると同時に、後半開演のアナウンス。そこに2人の「よし、行くぞ!」「うん」の生ゼリフが(このセリフは、アニメにもあった!)重なり、オーケストラのメンバーが入場してくるという胸熱の展開。没入感、半端なしです。

Ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

第1楽章は、ドイツから日本という「新世界」にやってきた佐伯直のエピソードから、不穏な曲調に転じたところで青野龍仁が登場して、佐伯くんの過去や青野くんが再びヴァイオリンを手にするまでの葛藤、りっちゃんとの出会いなどをとおして、揺れ動く心情が描き出されていきます。

ああ、もう単にハイライトシーンを並べただけの“名場面集”じゃないな。アニメを見ていなかった人にも「それぞれがどんな気持ちで時間を過ごしていたか」がわかるよう、楽曲に合わせた映像が丁寧にピックアップされていて。膨大な映像をもとに、作品をリブートしていると言ったら、言い過ぎか? そのくらい精魂込めて再編集されていると感じました。すっげぇな、これ!

「家路」の名で知られる、あまりにも有名な旋律が奏でられる第2楽章から、弦楽器と管楽器の掛け合いが印象的な第3楽章へ。あ、ティンパニーの音が、劇中のマレットの動きと完全にシンクロしている! こ、これ生演奏だよね?(きょうがく)そしてメインの登場人物だけでなく、2年生の羽鳥葉や姫ちゃん(裾野姫子)ほか、サブ・キャラクターもしっかり“立って”います。

Ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

最後は、圧倒的なスピード感で“疾走”する第4楽章。定演演奏会でオケ部を引退する3年生の思い、部長を務める立石真理や弦楽パートリーダーたちの心情が描かれていて、その映像と演奏の融合は、まさに“一音一会”。万感の思いに圧倒されつつ、充実度満点の演奏が終了しました。

ブラボー!!!

鳴りまない拍手の雨が注がれているステージ。そのとき、吉田行地マエストロのタクトが一閃いっせんして、奏でられたのは、演奏会冒頭とは別バージョンによる「Cantabile」オーケストラ演奏!!!
感動的なアレンジが施された演奏に、これまでの映像のハイライトがアンコール的に重ねられて……。ああ、これはもう脳がフリーズして、言葉が出ないじゃないですか!

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション
Ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

そして、アンコールは、満を持してのパッフェルベルの「カノン」!
第2話の、夕暮れの河川敷で青野くんが数年ぶりにヴァイオリンを弾いたシーンと同じように、東さんがこの曲をソロで弾き、そこに千葉さんの生ゼリフが重なり、さらにオーケストラ・バージョンに“進化”するという……! 映像はもちろん、あの感動的な名シーンですよ。あかん、こんなん絶対泣くやん!

再び、ブラボー!!!

この熱量、とんでもないですね。アニメの世界が現実に飛び出してきた感のあるフィルムコンサートは、アニメ「青のオーケストラ」Season1全話を見返したかような満足感。「青オケ」ファンにとっては、記憶に刻まれた1日となりました。
私も行きたかったな……、と思ったあなた。残念に思わなくても大丈夫。アニメSeason1アンコール放送での定期演奏会は、これから放送ですから! そして、そのままSeason2の物語へとつながっていきますから!!!
演奏会の会場に足を運んだつもりで開演を待ち、映像と音楽に身を委ねてしまってください。
最後の最後まで、お見逃しなきよう!

Ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

追記 オーケストラの生演奏で「青オケ」の世界を楽しみたい方には、こんな演奏会もあります。NHK交響楽団と「青のオーケストラ」がコラボしたスペシャル・コンサートの第2弾(ステラnetを離れます)。

こちらでは、Season2放送の中で大きな鍵を握るであろう名曲がずらり。

おおお、めちゃくちゃ楽しみだ―!!!


アニメ「青のオーケストラ」Season2

2025年10月5日スタート 
毎週日曜 NHK Eテレ 午後5:00 [再放送]毎週木曜 NHK Eテレ 午後7:20

【NHKホームページ】はこちら(ステラnetを離れます)

【アニメ「青のオーケストラ」公式サイト】はこちら(ステラnetを離れます)

カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。