ついに日本へやってきた、外国人教師のレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)。その通訳としてヘブンの公私をサポートするのは、松江随一の秀才、“大磐石”の異名を持つ錦織友一だ。のちにヒロイン・松野トキ(髙石あかり)とも深く関わることとなる錦織を演じるのは、吉沢亮。彼に、ヘブンへの想いや撮影現場の様子、作品の魅力を聞いた。
英語のセリフは、思っていた量の3倍あった!
──朝ドラへのご出演は「なつぞら」(2019年)以来ですね。
もう6年前になるんですね。久しぶりにお声がけいただいて、素直に嬉しかったです。前回は東京制作でしたが、今回は大阪。でも、現場には知っているスタッフさんも多くて、おかげで温かい空気感の中で楽しくやらせてもらっています。
──演じる錦織友一は、「大磐石」と呼ばれるほどの秀才。でも、松江ではヘブンに振り回されていました。吉沢さんは錦織をどんな人物だと捉えていますか?
台本を読む前は、すごくかっこいい役なんだろうなと思っていました。実際、第4週の東京での初登場シーンでは、それなりに神童らしくドシンと構えていましたし。でも、第5週、松江でヘブン先生に出会ってからは、毎日がとにかくドタバタ。思っていた以上にコメディなキャラクターになっていますよね(笑)。そこがすごく人間臭くて面白いなと思っています。秀才ではあるんですが、うまくいかないことも多い。そんな彼のチャーミングな部分をもっと出していけたらいいなと思っています。
──ところで、これほど英語のセリフが多いとは驚きでした。どんなご苦労がありますか?
ほんとですよね(笑)。「結構、英語のセリフがあるよ」とは聞いていたのですが、いざ蓋をあけてみたら、思っていた量の3倍はありました。特に第5週では、ヘブン先生が来日したてで日本語がほとんどわからないという設定なので、彼との会話はすべて英語。最初に台本を読んだ時は、正直ビビりました。
僕自身はもともと英語が得意でもなんでもないので、出演が決まってから英会話のレッスンに通って、必死に勉強して準備はしていたんです。ひたすら読んで、聞いて、頭に入れました。でも、できれば、あまり厳しい目でみないでやってください(笑)。
例えば、(第23回で)旅館の部屋にこもってしまったヘブン先生を説得しようと話しかけるシーン。やっぱり、普段使っていない言語での会話を、お芝居として成立させるのは難しい! と痛感しました。

──ヘブン役のトミー・バストウさんとは、どうやってコミュニケーションをとっているのでしょうか?
トミーさんは、ヘブン先生とは違って日本語が本当にお上手なんです。最初は、僕の英語の特訓として「ぜひ英語でお話させてほしい」と思っていたのですが、彼の日本語がうますぎるのと、ゲームという共通の趣味があるとわかってからは、気づくと日本語でゲームの話ばかりしています(笑)。もちろん、英語のシーンのあとには、「今の発音、大丈夫だった?」とお聞きすることも。すると、いつも「素晴らしい」と褒めてくださるので、嬉しいです。とても素敵な方です。
ヘブン先生は、想像よりすごく厄介な人だった(笑)
──錦織はヘブンをどんなふうに見ていると思いますか?
錦織は、「日本を変えたい」というはっきりした志を持っている人間。だから、ヘブン先生との出会いが、自分を、日本を変えてくれるのではないかと真剣に期待していたはずです。ところが出会ってみたら、想像よりすごく厄介な人だった(笑)。不満とまではいかないでしょうが、ちょっと思っていたのと違う……という気持ちはあるかもしれません。
そんなヘブン先生を、錦織はきちんと理解し、深いところで繋がることができるのか。第5週のラスト(第25回)でも、その片鱗はありましたけど、これからも2人の関係の変化を期待して見守っていただきたいと思います。
人々の強さや生命力を伝える「ばけばけ」の魅力
──初登場となる東京での場面で、印象的だったエピソードがあれば教えてください。
まず素晴らしかったのは、我らが下宿先のセットです。4人で寝泊まりするには狭い部屋なのですが、それぞれのエリアにキャラクター性が出ているんです。錦織のエリアは張り紙がたくさん貼ってあって、たくさん勉強しているのが一目でわかるようになっていた。そういう細かい作り込みが面白かったです。
あと、受験日の朝、錦織が、銀二郎(寛一郎)と根岸(北野秀気)、若宮(田中亨)から同じお守りを2つもらった時に言う、「イッツサプライズ」というセリフ。それまで普通に日本語で話していたのに、急に英語を入れるというのが、とても気恥ずかしくて。だから、これはコメディ的なセリフだと捉えていたのですが、当時、英語文化が入ってきたての頃には、こういう話し方をする人が実際にいたそうなんです。日本語で説明するより早いからと、普通に英語を織り交ぜて話していたと。でも、今の感覚からすると違和感があるし、どうしても面白く、勝手にツボってしまって(笑)。笑いをこらえるのに必死だったのをよく覚えています。

──東京の下宿先は、トキと錦織が初めて出会った場所でしたね。錦織から見て、松江で再会したトキの印象は変わりましたか?
東京では、錦織の存在や言葉がトキを導き、助けるような間柄でした。これからは、錦織のほうがトキに助けてもらうことが多くなりそうです。それは、彼女がただ明るいだけじゃない、肝が据わった人だと知ったうえでの信頼なんじゃないかと思っています。つまり、わざわざ松江から東京まで、一人で銀二郎に会いにくるわけですから、もともと「たくましい人だな」という印象があったのだろうと。それは変わらないんじゃないでしょうか。
──トキを演じる髙石あかりさんと共演しての印象はいかがですか?
本当に素晴らしい俳優さんです。たまにお芝居なのか素なのかわからない瞬間があるんです。それくらい反応がナチュラル。作品の世界観に入り込んでいるんですよね。
髙石さんとは特にコメディシーンが多いのですが、演技の相性が良くて、テンポも合う。とにかく楽しくお芝居させていただいています。
──錦織のモデルは、明治時代の松江の偉人・西田千太郎です。事前に調べたり、それを役に活かしたりしたことはありますか?
松江で西田さんが暮らしていたという家を見学させていただきました。2階に物置部屋みたいな暗くて狭い空間があったのですが、西田さんはそこでずっと勉強されていたらしく、そこで彼の根本的な部分を感じたんです。壁に当時の新聞がびっしり貼ってあって、そのせいかところどころ、壁が変色していたりして。本当に勉強熱心だったのだろうし、ある種そこにしがみついているというか、学問への執念、凄みが感じられました。ほかにも資料を読んだり、生前彼がよく通ったという道を歩いてみたりして、自分なりの錦織像を作っています。

──「ばけばけ」の魅力について、どう思われていますか?
笑えるシーンが多い一方、登場人物はそれぞれ、つらい過去や家庭の事情、お金の問題など、何かしらの苦労を抱えています。でも、彼らは重いものを抱えつつも笑っている。日々のちょっとしたことをピックアップして笑いに変え、そして一生懸命生きている。そんな人々の強さやたくましさ、生命力を、厚かましくない温度で伝えてくれる、そんな素敵なドラマだと思います。僕が演じる錦織も、ヘブン先生や周りの人たちに振り回されながら、彼なりに成長していく姿を見ていただけたら嬉しいです。