松江随一の秀才、“大盤だいばんじゃく”の異名を持ち、レフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)が松江に来てから、通訳のみならず公私ともにサポートを続けている錦織にしこおり友一。ヘブンに「本当の友人」と言ってもらえ、よろこびに浸っていたのもつかの間、島根県知事・江藤(佐野史郎)から、ヘブンが熊本への引っ越しを考えていることを知らされる。理由を確かめにヘブンのもとを訪ねると、「マツエ、フユジゴク」という言葉を聞き、呆然ぼうぜんとしてしまう。そんな錦織を演じる吉沢亮に、錦織というキャラクターやヘブンとの関係性、共演者の印象などについて話を聞いた。


錦織は“おいしい”キャラ。2人の間で気まずい錦織にご注目(笑)

──回を追うごとに、どんどん魅力があふれてきている錦織ですが、物語が進んできた今、改めて役についての思いを聞かせてください。

“松江の神童”“大盤石”はどこに行っちゃったんだ、という感じですが(笑)、彼の不器用さや人間臭さ、かわいげのある部分が表現できていたらうれしいです。一応先生なのに、中学校の生徒たちにいじられるシーンが多かったり、ヘブンさんや江藤知事、松野家など自由な人々の間で板挟みになってばかりでびんというか、もはや存在自体がネタになっているというか。そういう意味では“おいしい”キャラだなと思いながら、演じています。

特にヘブン先生とトキ(髙石あかり)が結ばれてからは、2人がいいムードになっているその場に、なぜか錦織もいるんですよね。いや、もういなくていいんじゃない? って思うんですけど(笑)。彼らの肩越しに、気まずい顔の僕が映り込んでいる、というシーンがけっこうあるんですよ。ぜひ注目してみてください。

──そういえば、第14週の稲佐の浜でのシーンもそんな感じでした。錦織はあそこで初めてヘブン先生とトキの関係に気づいたんですね。

そうです、あのシーンは実際に稲佐の浜に行って撮影しました。休憩中には出雲そばを出していただいて、島根のみなさんの応援をじかに感じることができて、思い出深いシーンですね。

最初は、日本滞在記を書き終えたヘブン先生がアメリカに帰るかどうか、という話を3人でしていたはずなのに、いつの間にか2人の世界に。撮影現場でも、いつの間にか、髙石さん、トミーさん、監督たちが僕から離れたところで打ち合わせしているんです。あれ? さっきまで僕も一緒だったのに! って(笑)。錦織としても僕としても、ちょっとさみしいやら、面白いやら、でした。

──ほかにも印象的なシーンはありましたか?

結婚挨拶パーティーの撮影も印象的でした。相当長いシーンを一連で撮っていたのでかなりの集中力が必要でしたが、トキやヘブンをはじめ、皆さんのお芝居に非常に胸を打たれました。ただ、「ダラクソがー!」と叫ぶ前にフミさん(池脇千鶴)が「なら皆で一緒にやりません? “家族”一緒に」と言った時は、錦織役の僕は「帰ろっかな……」と思いましたね(笑)。(写真を見返しながら)こうしてみると楽しいシーンばかりでした。

──物語も中盤を過ぎましたが、大河ドラマ「青天をけ」(2021年)で座長経験のある吉沢さんから見て、ヒロインの髙石あかりさんの様子はいかがですか?

髙石さんは、カメラが回っている時はもちろん、回っていない時も非常にヒロイン然としているな、という印象です。すごくピュアな部分と大人のたたずまいを両方持っている。そのピュアさを見ていると、みんなで支えてあげなくちゃ、と思うんですけど、結果的にはみんなの方が支えてもらっているのかも。撮影が長くなるとつらくなってくる瞬間があるのですが、出番が多くていちばん疲れているはずの彼女がいちばん楽しそうにしている。それに救われているスタッフも多いと思います。

一緒にお芝居していると、すごく安心感があります。お芝居は言うまでもなく抜群に上手ですし、思いついちゃったアドリブをやると、絶対返ってくるので、仕掛けた僕のほうが笑っちゃったりして。素晴すばらしいと思います。
僕自身は大河の時よりは、のんびりやれている気がします。英語に関するしんどさはありましたけど、やっぱり自分より大変な人がいると思うと、それだけで精神的に違います。

──一方、トミー・バストウさんはいかがですか? ヘブン先生と錦織のように、関係が深まっていると感じますか?

トミーさんとは共通の趣味の話で盛り上がったりして、すごくスムーズにコミュニケーションが取れています。単純に仲がいいので、彼がいると現場に行くのも楽しい。
錦織がヘブン先生に抱いている感情よりは、たぶん、少しフランクです。錦織の場合はどこまでいっても、尊敬の対象だと思うので。僕たちは、本当に友達みたいになってきました。クランクイン前には、これを機に英語を勉強して、英語で話せるようになったらいいなと思っていたのに、彼の日本語がとても上手なので、会話はぜんぶ日本語です。

──錦織とは松江中学校時代の同級生で、今は同僚となった庄田多吉を演じる濱正悟さんとは、どんなお話をしていましたか?

濱さんは、庄田という役に非常にひたむきに向き合われていて、素晴らしいなと思います。よく覚えているのは、英語の苦労について話したことです。庄田も錦織のように英語で話すシーンがあったのですが、かなり練習されていました。だから、「わかるよ、難しいよね」と。これだけで仲間意識が上がりました(笑)。

──錦織の事情を知っている江藤知事を演じる佐野さんとはいかがですか?

いつも楽しくやらせていただいていますし、佐野さんは、なんといってもご自身が松江のご出身ですから、出雲ことばを使ったセリフもそうですし、マインドにその“松江魂”をすごく込めてくださっていて、お芝居にリアリティを足してくださっていると感じます。それって、とても素敵すてきなことだなと思います。


ヘブン先生に恋する乙女のような

──錦織とヘブン先生の関係も、いろいろな展開がありました。2人の関係をどのように受け止めて演じていらっしゃいますか?

錦織にとってヘブン先生は、初対面から変わらず「尊敬の対象」ではあると思うんです。それゆえに、その態度や言葉ひとつに左右されてしまう。でも、だんだんそのニュアンスは柔らかくなってきているというか。いまや恋する乙女状態ですよね(笑)。

一度、「恋人だろうと友人だろうと、もう誰とも深く関わらない」とヘブン先生が言った時にはスネてしまったし、「友人」とはっきり言ってもらった時には素直に大喜びする。大好きなんですよね、ヘブン先生が。日本滞在記が書き終わった時のお祝いのパーティーの時も、とにかくうれしそうだったし。ヘブン先生の成功は、錦織にとってのよろこび。いや、めちゃめちゃかわいいですよね、錦織さん(笑)。


教壇に立つ時は、少し低めの声を出すように意識

──ヘブン先生の通訳としてのシーンに始まり、徐々に松江中学校の英語教師として、また校長候補として生徒たちと接するシーンが増えていきました。演じ分けなど、意識したところはありますか?

教壇に立つ時は、少し低めの声を出すように意識しています。教師としての威厳を保って、“大盤石”としての地位を頑張って守ろうと。すでに生徒たちにも、錦織の素の不器用さはバレているわけですが、彼の場合、その空回りがまた、“おいしい”ので。錦織は、真面目にやれば真面目にやるほど、面白いですよね。

──そんななか、“大盤石”時代の自分の姿を知る庄田が帰ってきたわけですよね。

そうなんです。そこが難しいところです。錦織にとっても僕にとってもやりづらい(笑)。

実は、錦織という人物について「東京編」と「松江編」とで、かなり意識して演じ分けをしています。つまり、東京編──かつての錦織は、日本を変えたいという思いを強く持つ、ギラギラした若者でした。試験を目前にみなぎる自信と“大盤石”としての自負もあった。佇まいや態度も落ち着いた感じになるよう、意識して演じました。

ところが、試験の結果は不合格。代わりに庄田が合格して、帝大卒と教師の資格を得ました。“大盤石”と、“半分弱”だった庄田の立場が逆転してしまったんです。だから、錦織にとって庄田はある種、コンプレックスの対象なんです。

そして、松江編では──江藤知事に呼んでもらって、周りに隠しごとをしながら教師として働いている今の錦織は、教育に対する熱量はあれど、やっぱり、もとの“大盤石”ではいられない。本当なら自分がいてはいけない場所に立っているという負い目が、一歩後ろに下がった、控えめな雰囲気を作り出している。それでもヘブン先生の通訳という大切な役割を果たすことによって失った自信を取り戻し、ひたむきに前に進もうとしているわけです。
……と、再登場以来、錦織の変化を大事に演じてきたつもりです。

そこへ、ぐに出世コースを歩んできた庄田の登場ですから。コンプレックスの対象でありながらも、友達ではある。その絶妙な距離感を上手に演じられていたらいいなと思います。

──第19週では、そんな大好きなヘブン先生が、熊本への引っ越しを考えていることが明らかになりました。一生懸命引き留めている錦織ですが、ヘブン先生がいなくなってしまうことを知った時の心情は、どんなものだったのでしょうか?

当初、錦織は松江の教育改革のために、たぶん誰よりもヘブン先生を必要としていました。しかし、ともに過ごす時間が増えていく中で、当初の思いもありつつ、それ以上に、日本滞在記をはじめとした面白いものを、2人で一緒に作っていきたい、彼のお手伝いをしてその成果をいちばん近くで見ていたいという思いが強くなっていったのだと思います。もちろん、友達として隣にいたいという思いも。

だからこそ、「通りすがり」を自称していたヘブン先生が、滞在記が書き終わったタイミング(第14週)で、トキと結婚して松江に残ることになった時には、心の底から安心したし、これからも今の楽しい生活が永遠に続くんだろう、よかったよかった……と、思い込んでしまったのでしょう。彼が松江を離れるなんてことは錦織の頭から消えていたはず。

ですから、突然、ヘブン先生から熊本に行くと聞かされた時は、もう意味が分からなかったはずです。ある種パニックで思考停止というか。悲しいとか、そんなこと考える間もないくらいの心境だったんじゃないでしょうか。