現在放送中のドラマ10「シバのおきて~われら犬バカ編集部~」の舞台は、柴犬しばいぬ専門誌『シバONE』編集部。相楽編集長(大東俊介)を筆頭に、個性豊かなスタッフとともに雑誌作りに奮闘する物語だ。本作では、相楽編集長の愛犬・福助をはじめとする柴犬がたくさん登場し、名演技を見せている。そこで、ドラマの撮影現場に潜入し、“犬のプロ”たちの仕事ぶりとドラマの魅力について迫った。

※撮影現場潜入リポート①はこちら


犬たちに演技をさせるのではなく、楽しんでもらう

福助役・のこは、撮影のある日は飼い主さんとともに自宅を出発し、動物プロダクションのドッグトレーナー・細波麻裕美さんと合流して、現場入りする。楽屋では和気あいあいと楽しく遊び、撮影の準備が整えば、「福助、入ります〜」というスタッフの声とともにスタジオに入る。

通常のドラマ撮影では、同じ場面をさまざまな角度から繰り返し撮影するが、犬は集中力が欠けると動かなくなってしまうこともあるため、本番一発撮りに勝負をかけている、と話す細波さん。

細波 出演する犬たちに撮影で嫌な思いをさせたくはないし、楽しんでほしい。犬も人もハッピーな現場にしたいと思っています。特に柴犬はこだわりが強く、犬によってそのこだわり部分も違います。どんな子かを見極めつつ、とにかく褒めて、楽しい思いをしてもらうことを大切にしています。

細波さんはドッグトレーナー歴10年のベテラン。専門学校のドッグトレーナー科で学び、卒業後はしばらく母校で働いていた。自分が飼っていた犬が動物プロダクションに所属したことから今の仕事に興味を持った。

細波 ドラマなど、1つの作品を作ることに携われるのは大きなよろこびです。演技に見えないような自然な動きやしぐさで、その子の魅力を伝えたいし、見ている人の癒やしになればと思っています。1匹でも多くの子たちが、みんなの記憶に残ればいいなと思いながらやっていますし、動物たちにとっても、「現場に来るといいことがある!」という記憶が残るよう、日々を積み重ねています。

細波さんが担当しているのこは、“柴犬界の芦田愛菜”という異名を持つほどの、人気俳優犬。芸歴は約3年で、「母の待つ里」(NHK)や「今日のさんぽんた」(フジテレビ)など、数々のドラマに出演してきた。

ドラマなどに出演する動物の大半は、「動物プロダクション」に所属している。見た目のかわいらしさは大事だが、それだけでは務まらないという。一般向けのオーディションを開催して選抜されるのは2〜3割。犬の場合、おすわりや待てなどの基本動作ができる、大勢の人がいてもものじしない、車などでの移動ができる、といったことができたとしても、実際の現場で“演技”ができるとは限らない。

細波 動物プロダクションのドッグトレーナーは、ワンちゃんをあずかってしつけをするわけではありません。所属タレント犬が現場で要望に合わせてうまく立ち回れるようにサポートするのが仕事です。

例えば、犬がおびえるシーンを撮影する場合、犬を本当に怖がらせるわけにはいかない。そう見えるように、どう動きをつけるかはトレーナーの腕のみせどころとなる。

細波 例えば、落ち込んでいるように見せるには犬の目線を下げる、もっと目線を下げると具合が悪そうに見える、というように、台本に合わせて動きを考え、飼い主さんと一緒に動きをつけていきます。自然な動きや表情を引き出し、ドラマを観ている人に、演技をやらされている感じではなく、「犬ってこういう表情をするよね」と思ってもらえるような自然な動きになることを心がけています。


撮影は“犬ファースト”を徹底

犬の登場シーンが多い作品は、犬たちに長時間待機させない、何度も演技させない、居心地のいい環境を整える、といったことが特に求められる。本作撮影中も、トレーナー、撮影スタッフ、俳優陣が一丸となって“犬ファースト”を貫いてきた。飼い主も常に犬に寄り添っていて、仕事に来た、というよりは、楽しい遊び場に来た、と思ってもらえるように心を砕いている。

細波 飼い主さんにとっては、その子の成長が間近で見られるし、しかも映像に残るので、犬との濃い思い出が残っていくことになります。このドラマでは、柴犬たちがどんな気持ちなのか、ということを丁寧に描いていて、犬を飼っている人なら、「あるある!」と共感してくれるシーンが散りばめられています。ドラマを観た人に、犬たちの魅力が伝わればうれしいです。

内藤プロデューサーは、犬が中心となって、犬にも人にも優しく、温かい現場になったと振り返る。

内藤 時は令和になり、コロナを経て、人と人が直接会わずにやりとりすることも増えました。それでも仕事や人との交流はできますが、何か置いてきてしまったものもあるような気がします。このドラマは平成に起きた出来事を描いていますが、当時のようにフェイス・トゥ・フェイスだからこそ得られるものもあったと思うんです。

ドラマの撮影前に、全9回の台本を仕上げ、まだ気温が高くなる前に外での撮影を進め、暑くなってからはスタジオ中心での撮影を行うことで、犬たちの負担を軽減。多くの柴犬が登場する屋外でのシーンでは、グループに分けて休息時間を十分に取り、獣医師などが待機して、犬たちの体調管理を徹底した。犬ファーストで撮影を進めたため、撮影の順番がバラバラになってしまい、出演者にとって大変なことも多かったが、犬の“笑顔”がそのことを可能にし、犬だけでなく人にも“優しい”現場になった。

内藤 柴犬といえば、かつては番犬のイメージが強かったかもしれません。それが今では、犬は家族であり、同僚であり、時には先生にもなる、人にとって欠かせないパートナーです。『シバONE』編集部は、相楽編集長をはじめ、みんなデコボコで、欠点もありますし、心が強い人もいれば、弱い人もいます。その中心に犬という存在があることで、犬にも人にも思いやりの気持ちを持つことができるし、お互いの欠点を補い、とんでもない力が発揮できるようになります。ドラマを通して、そんな化学反応の面白さや、犬と人間の関わり方が伝わればと願っています。


【物語のあらすじ】

「人の人生に足りないものは、犬 !?」

自分のエゴの追求だけを追い求めたアラフォー雑誌編集職の男は、気づいたら職場はボロッボロ。
寄り添うものは誰もおらず、恨みと怒りを買うばかり。
そんな中でふと思いついた、柴犬しばいぬ専門の雑誌。
というのも、彼のそばには柴犬しか残っていなかったから。
押しつけられたはみ出し者や変わり者たちが集まって雑誌を立ち上げようとするが、ギスギスグサグサ、喧々囂囂けんけんごうごう
だけど、それを見つめる美しい瞳の犬。

そして、犬によって企画が生まれ、そのことで人間たちの病んだ心が一つ一つ、ほぐれてゆく!殺伐とした、寄る辺なき令和の人間関係を癒やし導くのは、けがれなき心のお犬様。

絡まりもつれた人の心を優しく解きほぐしてゆく、ヒューマン&ケイナイン(犬)ストーリー!


ドラマ10「シバのおきて~われら犬バカ編集部~」(全9回)

毎週火曜 総合 午後10:00~10:45
毎週金曜 総合 午前0:35~1:20 ※木曜深夜(再放送)

原作:片野ゆか 『平成犬バカ編集部』
脚本:徳尾浩司
音楽: YOUR SONG IS GOOD
出演:大東駿介、飯豊まりえ、片桐はいり、こがけん、篠原悠伸、やす、黒田大輔、水川かたまり/柄本時生、津田健次郎、MEGUMI/瀧内公美、勝村政信、松坂慶子 ほか
制作統括:高橋練(NHKエンタープライズ)、渡邊悟(NHK)
プロデューサー:内藤愼介(NHKエンタープライズ)
演出:笠浦友愛、木村隆文、加地源一郎、村田有里(NHKエンタープライズ)

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。