現在放送中のドラマ10「シバのおきて~われら犬バカ編集部~」。サッカー雑誌担当を希望している石森玲花は、配属の条件として、相楽編集長(大東駿介)率いる新雑誌『シバONE』編集部で働くよう、社長から求められる。幼少期のトラウマから犬が苦手な石森は、事あるごとに相楽と衝突するが……。石森を 演じる飯豊まりえさんに、撮影現場の裏側や犬に対する思いを聞いた。
サッカーをやっているようには見えないので、髪をばっさりカット。
――飯豊さんは、2022年から続くNHKドラマ「岸辺露伴は動かない」で、漫画家の担当編集者をしていますが、今回は雑誌編集者ですね。
子どもの頃、最初にこの業界でお仕事したのが、ファッション雑誌の仕事でした。編集部の人と一緒に雑誌を作っていたので、雑誌編集部には馴染みがありました。なので、今回の『シバONE』編集部の設定についても想像もできたし、とまどうことはなかったです。
NHKのドラマは美術がすごく、リアリティがあって、見ているだけでワクワクするんです。相楽編集長の自宅のシーンでは、本棚にさりげなく共演者が出演されたドラマの原作小説が差し込まれていましたし、私がモデルをやっている女性ファッション誌が再現され、編集長の家のリビングルームに置いてあった時は驚きました! ただ置いているだけで、美術さんは何も言わないんです。その職人気質なところと、そういうコミュニケーションの取り方は、私的にはぐっときます。
――ドラマの舞台は平成。衣装や美術も少し古さがレトロでおしゃれなところも見どころの一つですね。
携帯はガラケー、石森が普段着ている服も懐かしい感じがしました。私はデニムが好きなのですが、ハイウエストが主流の今と違って、当時は股上が短いローライズが人気。しゃがむたびに腰の部分が見えてしまうのにヒヤヒヤしながら、「これがあの時代のデニムだったな」と感じられるのが面白かったです。衣装や美術などの形から入ってタイムスリップすることも役作りの一貫になっていて、みなさんが石森玲花役を作ってくださっているという実感がありました。
――髪型もかなり短いボブで、普段の飯豊さんとは違ったイメージなのが印象的でした。
実は40cmくらい切りましたが、これには理由があります。石森はサッカーが好きでフットサルをやっているのですが、実際、私は帰宅部でした。サッカーをやっているという説得力が感じられないので少し取材し、ドラマの石森役の参考になった実在の編集者の方が、髪型が短かかったことを知り、思い切って髪を切ってみました。
長くファッション誌などでモデルをやらせていただいていた手前、髪を短くする機会がなかったので少し不安でしたが、今回、思い切って役作りのため髪を切って撮影に臨みました。周りの人からもとても新鮮で良いと言っていただいて、ホッとしています。

――そもそも、なんでサッカーだったのでしょうか。
私も、テニスとかの方が似合うんじゃんないですか? みたいな提案もしたのですが、石森役の参考になった編集者の方が、サッカー好きだったそうなんです。ここにもちゃんと理由があったんですね。
実在の編集性と編集者のかけあいが、台本のまま!
――本作は、実在の日本犬専門雑誌の編集部員たちと愛犬を中心にしたノンフィクションが原作です。ドラマでは、原作でのモデルとして描かれている編集長や編集部員、カメラマン、スタイリストなどが現場を訪れたり、ドラマをサポートしてくれたりしていたんですよね。
カメラマンを演じているのはこがけんさんですが、当時の日本犬専門雑誌のカメラマンさんがずっと現場に付いてくださり、実際、犬の撮影も担当されていました。犬の撮り方を間近でみていたのですが、その方と犬を見ているだけで“犬愛”が自然と伝わってきました。撮影をしていた3ヶ月の間、改めて関わった多くの人たちから”犬愛“を学ばせていただき、感謝しています。
相楽編集長や、私が演じた石森役の参考にさせていただいた方々も、撮影現場に見学に来てくださいました。台本を読んだ時は、少しやりすぎかと思いましたが、実際にお二人とお会いして、お二人のかけあいが台本のままで、私たちが演じていたことは間違っていなかったんだ! と実感しました。
――原作やモデルがいる人物を演じるのは、プレッシャーにはなりませんか?
実在されている方を参考にして演じるので、やりすぎてその方たちに迷惑をお掛けしないことを心がけ、取材を重ねて撮影に臨みました。20年ぐらい前の話でもあり、演じるヒントもたくさんある分、想像を膨らませやすかったです。原作者の片野先生から「みなさんの“犬愛”が伝わり、とても面白く観させていただきました」と言っていただいた時は少しホッとしました。。
――石森は勝ち気で、相手が目上であっても、思っていることをズバズバという女性です。飯豊さんと共通する部分や、共感するところはありますか。
セリフで相楽さんに「クソ野郎」と言う場面があったのですが、人に対してそんなことを思ったことがないので、言葉で発することに違和感がありました。そのため、チーフ演出に「変えてもいいんですか?」と相談したこともありました。
チーフ演出に「編集長と編集部員の関係性が面白かったから、よりリアルに描きたい」と言われ、昔の編集部の人たちとお話をさせていただく中で、本音で付き合うから思い切ったことが言えるんだと言っていただき、「じゃあやってみようか」ということになりました。でも、私にとってはひとつギアを入れて演じないといけないところだったので、慣れるまで少し時間がかかりました。

――ドラマでも、相楽編集長とのかけあいの場面は見どころの一つになっていますね。
大東さん演じる相楽は、強いことを言う割に、「ごめんな」みたいな部分も感じました。それは、大東さんの人柄がにじみ出ていたんじゃないかな、と思いますね。台本だけを見たら、相楽を嫌な奴として演じることはできますが、大東さんが演じたことですごく人間味が感じられました。
実は悩んでいたりもするし、本当は相手のことを信頼しているんだけど、素直になれなくて、天邪鬼みたいなところもある。そういう部分が垣間見える瞬間があるからこそ、編集部のみんなが「この人と一緒にやっていこう」「支えていきたい」などと思うようになったんだろうな、と想像しながら演じることができました。
大東さんとは映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』のヴェネツィアロケでご一緒したのですが、なかなかお話をする機会がなかったんです。この作品でご一緒することになって、こんなに物腰が柔らかくて、気さくな方だと知れたのが本当によかったです。人柄も含め、一緒に作っていく仲間としても頼もしく、信頼できる先輩でした。
犬たちがどう動いても対応できるよう、みんなでフォローし合いながら撮影
――このドラマではたくさんの柴犬が登場しますが、飯豊さんも犬を飼っているんですよね。
19歳のミニチュアダックスフンドがいます。私はミニチュアダックスフンドのフォルムや顔つきが大好きで、他の犬種にはなびかなかったんです。うちの子が一番かわいい! って思っていました。今回、柴犬と一緒に撮影して、柴犬はマイペースで我が道をいくような性格の持ち主で、シバの魅力は底なしだなって思いましたね。
――実際に、犬と一緒に演じてみてどうでしたか?
人間がカメラの前に立つと、こんな風に見られるだろうな、とか、どこか俯瞰で見てしまうことがありますが、犬はそういうことを一切考えずに自然体でいられる。そういうところがすごいし、私もこういう風にお芝居したいと思いました。
しかも、予定調和にはいかないので、犬たちの行動に合わせ、私たちがどうお芝居を作っていくかが課題でした。何回か同じ撮影をしていると犬も慣れてくるので、リハーサルはぬいぐるみで行い、なるべく本番だけにしました。また、犬が全く動かなかった場合、犬が慌ててしまった場合など、演技を何パターンか考えておいて、犬たちがどう動いても対応できるよう、みんなでフォローし合いながら撮影していきました。

――このドラマでは、犬は“道具”ではなく、共に生きる仲間や家族であるとして描かれていますが、実際に犬を飼った経験がある飯豊さんも、共感できる部分はありますか?
今だとSNSでバズらせるためにワンちゃんを利用する人もいますが、本当に犬好きの人たちはそうじゃないですし、ワンちゃんのかわいいだけじゃない部分は、飼っている人ならわかると思うんです。
ワンちゃんはずっと元気なわけではなく、気分の浮き沈みがあるし、飼い主さんの機嫌にも影響されます。彼らの限られた人生に責任を持って向き合うべきですし、私もそういう気持ちで一緒にワンちゃんと生活しています。
最初のきっかけは相楽編集長みたいに自分の犬がかわいいとか、人気者にしたいということであったとしても、向き合っていく中で、犬からいろんなことを教えてもらうことになります。ワンちゃんを飼っている人たちなら大いにあることだし、私もその一人です。犬の存在は、本当に人生を豊かにしてくれると感じています。
このドラマは柴犬が主役なので、シバの魅力がたっぷり詰まっています。犬と人間たちの生き様や、時には思った通りにいかないところも面白いんじゃないかなと思っています。ぜひ楽しんでください!

【プロフィール】
いいとよ・まりえ
1998年、千葉県出身。2008年、小学生向けファッション誌『ニコ☆プチ』でモデルデビュー。『ニコラ』『Seventeen』を経て『Oggi』専属モデルを務める。12年に俳優デビュー。15年放送の連続テレビ小説「まれ」で注目を集める。近年の主な出演作に、「何曜日に生まれたの」(23年/朝日放送)主演、「オクトー~感情捜査官心野朱梨~」シリーズ(22年・24年/読売テレビ)主演、など。20年からNHKドラマ「岸辺露伴は動かない」に泉鏡花役で出演。また、11月12月に舞台竹生企画「マイクロバスと安定」が控えている。
【物語のあらすじ】
「人の人生に足りないものは、犬 !?」
自分のエゴの追求だけを追い求めたアラフォー雑誌編集職の男は、気づいたら職場はボロッボロ。
寄り添うものは誰もおらず、恨みと怒りを買うばかり。
そんな中でふと思いついた、柴犬専門の雑誌。
というのも、彼のそばには柴犬しか残っていなかったから。
押しつけられたはみ出し者や変わり者たちが集まって雑誌を立ち上げようとするが、ギスギスグサグサ、喧々囂囂。
だけど、それを見つめる美しい瞳の犬。
そして、犬によって企画が生まれ、そのことで人間たちの病んだ心が一つ一つ、ほぐれてゆく!殺伐とした、寄る辺なき令和の人間関係を癒やし導くのは、穢れなき心のお犬様。
絡まりもつれた人の心を優しく解きほぐしてゆく、ヒューマン&ケイナイン(犬)ストーリー!
ドラマ10「シバのおきて~われら犬バカ編集部~」(全9回)
毎週火曜 総合 午後10:00~10:45
毎週金曜 総合 午前0:35~1:20 ※木曜深夜(再放送)
原作:片野ゆか 『平成犬バカ編集部』
脚本:徳尾浩司
音楽: YOUR SONG IS GOOD
出演:大東駿介、飯豊まりえ、片桐はいり、こがけん、篠原悠伸、やす、黒田大輔、水川かたまり/柄本時生、津田健次郎/瀧内公美、勝村政信、松坂慶子 ほか
制作統括:高橋練(NHKエンタープライズ)、渡邊悟(NHK)
プロデューサー:内藤愼介(NHKエンタープライズ)
演出:笠浦友愛、木村隆文、加地源一郎、村田有里(NHKエンタープライズ)
兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。