9月30日から放送が始まったドラマ10「シバのおきて~われら犬バカ編集部~」。
犬や猫をはじめとした動物たちは、ペットというより家族の一員と思っている人は多いだろう。本作の主人公である相楽俊一もそのひとりだ。柴犬の愛犬・福助を溺愛しているが、仕事ではそのワンマンぶりから部下にボイコットされ、社内失業状態に。柴犬専門誌という新雑誌の企画を立ち上げ、起死回生を狙うことになる。
崖っぷちのアラフォー編集者を演じる大東駿介は、どのような思いで相楽を演じたのだろうか。名演技を連発する柴犬たちから気付かされることも多かったという。
相楽は、面白いものを作ろうという熱量が高い人
――今回、編集者・石森玲花を演じる飯豊まりえさんは、映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』で共演されていましたね。
お互いの映画の撮影現場は拝見していたんですが共演シーンはなく、その時、一度みんなで食事をしたくらいでした。「今度はご一緒できたらうれしいですね」って言っていたら、すぐ共演が決まりました。うれしかったです。
――大東さんが演じる相楽は、周囲の顔色を伺ったり、空気を読んだりすることなく、こうだと決めたら突っ走るようなキャラクターです。大東さんと共通する部分や、共感するところはありますか?
僕と重なるところはありました。相楽はパワハラ上司に見られますが、本質は仕事熱心で、面白いものを作ろう、見たことないものを作ってやろうという熱量が高い人なんです。
ひとりではモノづくりができないのに、相楽は自分の思っていることを言語化したり、協力を仰いだりすることができない。人付き合いにおいて不器用な人だという実感があります。20代の頃の自分に重なるというか……。使命感というか、こうしなければならないっていう思いはあっても先走り、周りを置いてきぼりにしちゃう。そういうところは昔、自分にもあったんです。「お前らもできるやろ。文句言わずやれ」みたいな。だから、相楽のことも理解はできるけど、生きづらいよなって思います。
――そういうキャラクターだからこそ、一歩間違うと、単に嫌な編集長になりかねないですよね。
大人になると注意してくれる人もいなくなるし、あいつはダメだとか、極論で片付けられることが多いですよね。人って常に成長過程のはずなのに、そこで否定されて終わってしまうところがあって、今の時代だったら生きづらかったでしょうね。
相楽は編集長という役職だから余計に注意してくれる人がいないんですけど、それを気付かせてくれたのが犬だったのかな。「仕事ではめちゃくちゃ嫌なやつやけど、人としては実は……」という彼の本質みたいなものを、周りが気づく隙を作ってくれたのが福ちゃん(福助)だったと思うんです。そして、言葉の通じない犬と分かり合うためにしていることって、対人でも同じことが言えるんじゃないかって相楽も気づいていくと思うんです。
――本作は『平成犬バカ編集部』(集英社・片野ゆか)というノンフィクションが原作で、今も発行されている日本犬専門誌を立ち上げた編集長が、相楽のキャラクターの参考になっているんですね。
原作に登場される編集長と、飯豊さんが演じる石森役の参考になった編集者の方が、撮影の中盤に現場へいらっしゃいました。その時のお二人の掛け合いを見ていたら、ドラマの相楽と石森のままでした(笑)。編集長は不器用な感じで、毒舌っぽく聞こえるんだけど、それを編集者さんがジョークに変えてくれ、「編集長は、実はチャーミングな人なんですよ」って教えてくれたんです。コンビ感があって、それを見て、「相楽は石森に救われたんだな。そのきっかけをくれたのが福ちゃんなんだな」ということを実感できました。

――相楽は不器用で人付き合いが苦手ですが、売れるパチンコ雑誌を出したり、今までにない柴犬の雑誌を作ろうとしたり、と編集長としてはかなりの実力者です。そんな彼を演じる上で意識したことはありますか?
相楽は発想力、ユーモアがしっかりあって、それを形にして結果も出せる熱量があります。新しいことをやるならリスクを選ぶ覚悟も必要で、人を引っ張る上で大事な能力だな、っていうのはすごく感じたので、そこは意識しました。そして、物語のはじめの段階では、相楽は自分の思いを同じように受け取ってくれる仲間の存在にまだ気づいていません。そういったところも意識して演じていました。
自然体の犬たちに学ぶところがたくさんありました
――今回は、福助演じるのこちゃんをはじめ、たくさんの柴犬と一緒に撮影を行いましたが、犬との共演はいかがでしたか?
犬を主題にした作品ということで、映像の中の犬たちが、自由度が低く、要求に沿った仕草をしているように見えたら嫌だなと思って撮影に臨みました。もちろん、演出的にこうしてくれ、というのはあるんだけど、本来、動物は自由に動くのが一番だから、予定調和じゃなくて、いかに自然に演じてもらえるか、そこで生きているように見えるかが気になっていました。
のこのリードを持ちながら演技している時、のこが好き勝手に動くんです。最初、撮影では犬と“自由”にセッションできたらいいなと思っていたので、犬の動きに合わせて芝居にしてみると、ちゃんと犬も返してくれるんです。それはすごいな、と思いましたし、自然体の犬たちに学ぶところもたくさんあり、とても楽しい時間でした。
――現場には、プロのドッグトレーナーや飼い主さんがいて、犬たちのケアや演技指導などを行っていたんですよね。
「犬たちの良さを引き出すのに、どのように芝居に臨めばいいか?」と、僕たち出演者、スタッフみんなで常に相談していました。ドッグトレーナーさんはプロフェッショナルで、こちらの要望に応えようとしてくれました。チーフ演出がのこに求めてくる芝居と、普段のチャーミングなのことの塩梅を大切に考え、みんなで試行錯誤し、撮影を進めました。それが少しでも映像で伝わるとうれしいです。
――大東さんは犬を飼った経験はありませんが、ウサギと一緒に過ごしていたことがあるんですよね。
人間と動物の間には言語がない分、お互いの表情や仕草、わずかな感情の機微に敏感になります。それを感じることによって愛情が生まれます。これは人間関係の基本だと思っていて、そのことを教わることができるのが、動物とのコミュニケーションだと思うんです。今思うと、10代の頃にウサギと過ごした時間が役立っています。そのとき、孤独だった僕とウサギの間で、言葉では伝えられませんが、間違いなく“分かり合っていた”という実感がありました。だから、その時の経験が、初めましてのワンちゃんと、絶対に心のどこかがつながれるはずと信じ、コミュニケーションを取って撮影に臨んでいました。
20代の時に、インドネシアの裸族の村に行ったことがあります。そこのおばあちゃんが別れ際に、「地球の裏側の全く違う人種のあなたと出会い、言葉もわからないけど、間違いなく家族になれた。私の人生であなたに出会えたことは本当に幸せ。ともに生きるのに言語はいらない。でも、あなたを知れば知るほど、同じ言語でより語り合いたい」って言われたんですよ。すごく哲学的で、未だにこの言葉を大切にしています。たとえ動物が相手でも、言語以前の関係性は作れると思うんです。だから、ドラマの現場は短い期間ですけど、そういう関係性ができたらいいなって常に思いながらやっています。
――名演技を見せる犬たちはもちろんのこと、相楽や石森をとりまく登場人物たちも、かなり個性的ですね。
キャスティングの妙というか、個性が溢れている人たちばかりで渋滞するかなと思ったら、犬が瞬時につなげてくれました。特別な会話は一言もなかったのに、犬がいることでみんなの気持ちがつながっていて、そのことがすごく印象に残っていますね。

――今回、犬たちの心身の健康を優先するために、暑くなる前に、先に屋外での撮影を行ったんですよね。
犬の体調を一番に考え、暑くなる前にロケ部分を終わらせようと、順番はバラバラで撮影に臨みました。そのため、演じる上での気持ちの整理が大変だったのですが、この作品は犬が中心にいるわけで、背負うべくして背負うことだし、考えても仕方がない。そう割り切れたことで、スタッフさんに「ごめんなさい、脳みそがごちゃごちゃになってるんで、順を追って説明してもらってもいいですか?」と相談しやすくなったんです。みんなで協力して作り上げていく実感があったし、どんどん支え合っていこうよという一体感も生まれてきました。
――これからドラマを観るみなさんにメッセージをお願いします。
令和の今って、自分の言動1つが人生の失敗になってしまうかのような、ちょっと恐ろしい時代やなと思うんです。でも、人と出会ったり、動物と暮らすことで変わっていくこともあるはず。特に犬は、ただいるだけでいろんなことを教えてくれるんです。だから、この作品も難しく考えないで、ただ楽しんでいただきたいし、その中で、生きやすい道筋も見えてくるんじゃないかなと思っています。
撮影では、ペットはそんな役割を果たすための“道具”ということは全くなくて、人と同じく命ある生き物であり、そのことにも責任を持つべき。だからこそ、そういうことを伝えるコンテンツが必要なはず。このドラマが、動物とともに暮らす豊かさと、命を預かる必要な覚悟のどちらも届けられればいいなと思いながら演じました。ぜひ楽しんでください。

【プロフィール】
だいとう・しゅんすけ
1986年生まれ、大阪府出身。雑誌モデルを経て、2005年俳優デビュー。以後、テレビ、映画、舞台など幅広く活躍。NHKでは、「アナウンサーたちの戦争」「大奥 Season2」「仮想儀礼」、連続テレビ小説「ウェルかめ」、大河ドラマ「平清盛」「花燃ゆ」など。2026年「豊臣兄弟!」前田利家役で出演。
【物語のあらすじ】
「人の人生に足りないものは、犬 !?」
自分のエゴの追求だけを追い求めたアラフォー雑誌編集職の男は、気づいたら職場はボロッボロ。
寄り添うものは誰もおらず、恨みと怒りを買うばかり。
そんな中でふと思いついた、柴犬専門の雑誌。
というのも、彼のそばには柴犬しか残っていなかったから。
押しつけられたはみ出し者や変わり者たちが集まって雑誌を立ち上げようとするが、ギスギスグサグサ、喧々囂囂。
だけど、それを見つめる美しい瞳の犬。
そして、犬によって企画が生まれ、そのことで人間たちの病んだ心が一つ一つ、ほぐれてゆく!殺伐とした、寄る辺なき令和の人間関係を癒やし導くのは、穢れなき心のお犬様。
絡まりもつれた人の心を優しく解きほぐしてゆく、ヒューマン&ケイナイン(犬)ストーリー!
ドラマ10「シバのおきて~われら犬バカ編集部~」(全9回)
9月30日(火)スタート
毎週火曜 総合 午後10:00~10:45
毎週金曜 総合 午前0:35~1:20 ※木曜深夜(再放送)
原作:片野ゆか 『平成犬バカ編集部』
脚本:徳尾浩司
音楽: YOUR SONG IS GOOD
出演:大東駿介、飯豊まりえ、片桐はいり、こがけん、篠原悠伸、やす、黒田大輔、水川かたまり/柄本時生、津田健次郎/瀧内公美、勝村政信、松坂慶子 ほか
制作統括:高橋練(NHKエンタープライズ)、渡邊悟(NHK)
プロデューサー:内藤愼介(NHKエンタープライズ)
演出:笠浦友愛、木村隆文、加地源一郎、村田有里(NHKエンタープライズ)
兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。
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