このところ良作続きの「ドラマ10」(NHK総合 午後10時~)が次に選んだテーマは何と柴犬。今や猫のほうが飼育数が多く、しかも犬種を限定……「思い切ったテーマ選びだな」と驚かされました。
はたして「シバのおきて〜われら犬バカ編集部〜」とはどんなドラマなのか。「かわいい柴犬を愛でる」というシンプルな癒やしドラマなのか。そして、柴犬の飼い主はこのドラマをどう見ているのか。
全9話の序盤3話が終了したこのタイミングで掘り下げていきます。
変わる人間と変わらない柴犬

物語は、パチンコ雑誌の編集長・相楽俊一(大東駿介)が部下のボイコットで職を追われ、愛犬・福助をベースにした柴犬専門の雑誌『シバONE』を立ち上げるところからスタート。編集部に若手編集者・石森玲花(飯豊まりえ)、ベテラン編集者・清家めぐみ(片桐はいり)、カメラマン・三田博之(こがけん)らが集まり、獣医師・滑沢(松坂慶子)の協力を仰ぎながら雑誌作りに奮闘していく。
相楽や石森らは「売上30万部を達成しなければ廃刊」という出版社社長のミッションをクリアするべく雑誌作りに挑み、1話1号のペースで発刊。第3話では第3号が発売されたものの、ミッションをクリアできず廃刊か……と思いきや、福助の人気に火がついたことから存続が決定したところまでが描かれました。
この間、がさつで暴言を連発していた相楽が部員たちに感謝や謝罪を口にするようになり、犬が苦手だった石森は子ども時代のトラウマを克服。柴犬はいつも変わらずそこにいる一方で、人間たちが少しずつ変わっていく様子が描かれています。
ただ、「シバのおきて」は雑誌作りや部員の成長物語だけがメインの作品ではありません。

毎回さまざまな柴犬のコスプレが盛り込まれるほか、犬のぬいぐるみとのデート、柴犬紅白歌合戦などの柴犬を愛でるシーンが満載。さらに「脱走癖」「雷に驚いて逃げる」「好きなしっぽのタイプは?」などの“飼い犬あるある”、首輪が抜けたときの対処法などの学びも盛り込まれています。
私は2匹の犬を飼っていて、散歩のときに毎日10匹前後の柴犬と交流していますが、飼い主に「シバのおきて」について聞くと反応は上々。「柴犬のエピソードも表情の愛らしさもけっこう芯を食っている」というニュアンスの言葉が返ってきます。
しかし、そのあとに必ず添えられるのが、「柴犬はもっとマイペースだけどね」などの言葉。「『呼んだらすぐ来る』『お座りしてなでられたがる』『犬同士が近い距離感で仲よくする』などのシーンはそうでない柴犬も多く美化しすぎ」とのことでした。「イメージアップしすぎで気軽に飼いはじめる人が増えたら心配」という声もありましたが、このあたりは今後の物語で調整されるのかもしれません。
犬との暮らしが一変した平成の物語

あまり気にしていない視聴者が多いかもしれませんが、当作を語る上で重要なのが「20年前の平成真っただ中」の物語であること。つまり、令和の今ではないのです。
「シバのおきて」の原作はノンフィクション作家・片野ゆかさんの『平成犬バカ編集部』。
こちらは「かつて“番犬”として外につないで飼われていた日本の犬が、平成になって家族の一員として室内で過ごすようになるなど、人間との関わり合い方が変わった」という“犬の現代史”を雑誌『Shi-Ba』の歩みとともに描いたノンフィクション作品です。
なかでも象徴的なのは、起床時間から、食事、家、スケジュール、外出先や旅行先なども犬優先で決め、多額を使う“犬バカ”が大量に発生したこと。

実際、「シバのおきて」の相楽も福助を溺愛するあまり編集長ながら公私混同を繰り返し、それでいて愛犬の気持ちをまったく理解していない飼い主として描かれています。さらに劇中に登場する福助(柄本時生)、ボム(津田健次郎)、ひとみ(MEGUMI)などの柴犬たちが「実はしゃべれる」という設定ため、彼らから見た人間の是非もポイントの1つでしょう。
そんな平成における飼い主の悲喜こもごもを令和の今見ると風刺的であり、「自分もヤバイかも……」と身につまされる人も多そうです。
風刺的なところのある作品だからこそ今後の物語で描いてほしいのが、犬を飼うということの難しさや怖さ。犬をメインで扱う以上、病気や永遠の別れは避けられないシーンでしょうが、さらに薬や保険、悪質ブリーダーによる飼育放棄、災害時対応などに踏み込めるのか。原作ではこれらも含めて“犬の現代史”がつづられていただけに、ドラマも「かわいい」だけでなく「悲しい」ところも描く勇気が求められるところでしょう。
局地的な人気を誇る「ドラマと柴犬」

前クールに「初恋DOGs」(TBS系)というドラマがあったように、癒やしとして犬を起用する作品は多くても、「シバのおきて」のような犬がメインの作品はほとんどありません。
その点、ドラマを見ていて安心させられるのは、犬に配慮した制作スタンス。犬と人間を絡めたカットを極力減らし、犬の自然な仕草を生かしたカットを増やすなど、犬の負担を減らすような配慮が感じられるだけに、最終的には「犬のドラマと言えばこれ」という到達点が期待できそうです。
最後に、「ドラマと柴犬」と言えば、かつて「幼獣マメシバ」(2009年、独立局系で放送)という作品がありました。同作は中年ニートの引きこもり・芝二郎(佐藤二朗)がひょっこり現れた柴犬の存在によって小さな一歩を踏み出していく姿を描いた知る人ぞ知る名作。「マメシバ一郎」「マメシバ一郎 フーテンの芝二郎」「幼獣マメシバ望郷篇」とシリーズ化され、すべて映画版が公開されたことからも局地的な人気の高さがうかがえます。
その後、2019年にも「柴公園」というドラマも放送されました。同作は“柴犬+飼い主の中年男性3組”による会話劇であり、こちらも独立局系での放送と映画化。やはり局地的な人気があったものの、犬種限定のドラマは独立局系に留まっていることから、プライム帯で全国放送されている「シバのおきて」の特異性は際立っています。
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。