「コント×ドキュメンタリー 笑う会社革命」(NHK総合)の「令和の会社にありがちな課題をコントとドキュメンタリーで楽しく解決のヒントを探る番組」というコンセプトを聞いたとき、「NHKらしいまじめなバラエティだな」と感じました。

ただ実際に番組を見てみると、洒脱しゃだつというか、しゃているというか、とにかく見やすく、ためになる。「通勤電車で見たくなる」「居酒屋で同僚に話したくなる」ような番組と言っていいかもしれません。

民放で言うと、2004年から21年超にわたって放送し、多くの熱狂的なファンを持つ「がっちりマンデー」(TBS系)のムードに近いような……いや、NHKの番組らしく、もっと贅沢ぜいたくに作り込まれ、それでいて年齢不問で見られる間口の広さを感じさせられます。

では具体的にどんな番組なのか。


コントの振りとドキュメントの解決策

ここまで放送された週替わりのテーマは、「配属ガチャ」「“子持ち様”論争」「ゆるブラック」「サイレント減点」。多くの会社に当てはまりそうな、ほとんどのサラリーマンがどこかで聞いたような身に覚えのあるテーマ選びに関心を誘われます。

これらのテーマを「ホンネたっぷりのコント」と「解決を探るドキュメント」の2本立てで掘り下げていくのですが、両者のバランスが絶妙で、まじめなテーマなのに全く飽きさせず、アッという間の30分間。3日放送の「サイレント減点」(業績と関わりなく評価を下げられてしまうこと)でもコントとドキュメントがバランスよく構成されていました。NHKプラスで配信中(配信期限:9/10(水)午後11:28まで)※ステラnetを離れます

まず生瀬勝久さん演じる上司と、長井短さん演じるしたたかな社員、紺野ぶるまさん演じるやる気満々な社員によるオープニングコントがスタート。その演技と演出に下北沢の小劇場で喜劇を見ているような洗練されたムードを感じさせられます。

「サイレント減点」回避術を教えてくれる現役メガバンク社員「たこす」さん

続いてサイレント減点を避ける方法をまとめた本を出版し、3万部を売り上げた30代の現役サラリーマン・たこす(仮名)さんを追うドキュメントを放送。「期待値コントロール」「いいウワサで上司を操作」などのためになるノウハウが紹介されました。

さらに再び生瀬さんら3人のコントをはさんで、人事評価のブラックボックスにメスを入れた会社のドキュメントを放送。人事評価に悩むサラリーマンに向けた痛快な解決策が提示されました。そして最後に3人のエンディングコントでオチをつけて番組は終了。

ひと言で言ってしまえば、「コントで笑いを誘うのが振りとなり、ドキュメントで解決のヒントを提示し、再びコントでオチをつける」という番組でした。親近感もスタイリッシュな感もあるのに、まったく異なるジャンルを両立させる力技というムードも……これを30分番組に凝縮させる贅沢な構成こそNHKらしさと言っていいかもしれません。


リアルでシビアながら明るい結末

人事を透明化したIT企業。年俸査定の現場にまで密着!

特に後半の「人事評価のブラックボックスにメスを入れた会社のドキュメント」は秀逸そのものでした。

まず都内のIT企業に勤める草刈忠弘さん(47歳)が登場。なかなか評価されず給料が上がらなかったことから9年間で3回もの転職を経て現在の会社にたどり着き、以降16年も働き続けてきた理由は「透明な人事評価制度」でした。

ここで草刈さんが所属するチームのリーダーが登場。半年に1度の昇給に向けて達成すべき目標について話し合いが行われました。さらに草刈さんは後輩の原田彩芳さんと鈴木統稀さんに「自分の評価者になってもらう」ことを依頼。そんな“社員が人事評価者を選べる”制度を導入した中村圭志社長が経緯を語りました。

その中で中村社長は21段階の等級を定め、報酬額を社員に提示したことを明かし、何と番組でも公開。ちなみに最低の0等級は¥3,912,000で、最高の20等級は¥27,200,000でした。

人事をガラス張りにしたことで「ねたみが生まれないし、みんなが疑わずに一生懸命仕事をする」と胸を張る中村社長。番組を見た人々の入社希望が増えそうです。

そして最後に草刈さんの給与を決定する業績査定が発表され、その結果は「ステイ(現状維持で昇給なし)」でした。悔しさをにじませながらも「納得です」と語る草刈さん。どこまでもリアルな結末は説得力十分であり、シビアながらも明るい未来を感じさせられました。

「配属ガチャ」がテーマの放送回でも、解決策として「上司選択制度」「社内FA制度」「社内兼業制度」などの具体事例をピックアップ。人も会社も実名で、実際に行われているものを丁寧に取材を重ね、一定の結末までをしっかり見せ切る、という完成度の高さはドキュメント巧者であるNHKの強みを感じさせられます。


経営者こそ見て働きやすい環境作りを

正直なところ、これだけ計算された上質なコントと、具体的な解決策を見せるドキュメントの両方を作ることは簡単ではないでしょう。「もったいないから、どちらもネット配信でメイキングを見せてほしい」と思ってしまうほどの時間と労力を感じさせられます。

放送日は仕事の疲れがたまりがちな水曜23時台と、編成のバランスも見事。週末に向けて「あと少し頑張ろう」と背中を押すような制作陣のスタンスがうかがえます。ただ、これを毎週のレギュラー番組として制作・放送するのは厳しいかな……というところでしょうか。

できればレギュラーで多くの人々に見てほしい番組ではありますが、それが難しければ再放送を繰り返したり、配信期間を延ばしたりするだけでも、ちょっとした社会貢献になるような気がします。

オープニングのタイトルバックにかぶせるナレーションに「みなさ~ん、今大きく様変わりしている日本の職場で苦労していませんか?」というフレーズがあるように、基本的に現場で奮闘するサラリーマンに見てほしい番組なのでしょう。しかし、「社員の悩みを知り、解決策を学び、働きやすい環境作りにつなげる」という意味で経営者にこそ見てほしい番組のようにも見えます。

こちらは自宅で働くしがないフリーのコラムニストですが、日ごろ「オフィスで働く人々をサポートするような番組がもっとあればいいのに」と感じていました。「コント×ドキュメンタリー 笑う会社革命」はまさにそんな番組であり、見ることで心が軽くなるだけでなく、参考にできたら本当に“革命”を起こせるのかもしれません。

コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。

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