パイロット版が放送された2015年7月1日から今夏で10年の節目を突破した「ねほりんぱほりん」(NHK Eテレ)。「毎年10月から翌年3月にかけて放送されるトーク番組としてすっかり定着した」と言っていいでしょう。

ただ、正直なところ、「さまざまなテーマでゲストを招いたトークバラエティー」というジャンルに目新しさはなく、民放でも多くの番組が放送されています。なぜ「ねほりんぱほりん」は長年にわたる支持を集めているのか。

今秋はシーズン10が放送されていますが、放送10年の節目だからこそ、あらためて根強い人気を保っている理由を掘り下げていきます。


「過激なテーマ」で勝負していない

顔出しNGのゲストはブタに、聞き手の山里亮太とYOUはモグラの人形にふんする

なぜ長年にわたって支持を集めているのか。最大の理由は“Eテレらしい人形劇の伝統技術”と“あまり大きな声では言えないような裏話”のギャップでしょう。

毎回のゲストは基本的に「顔出しNG」であり、ブタの人形として出演することでセキララなトークが可能。一方、それを根掘り葉掘り聞き出すMCの山里亮太さんとYOUさんもモグラの人形にふんすることで思い切った質問に踏み込むことができます。

まず毎回のテーマに注目すると、昨秋から今春に放送されたシーズン9では、主に「名前を変えて生きる人」「投げ銭を投げきった人たち」「復縁アドバイザー」「婚活をあきらめた人」「“元薬物依存症”その後の人生」などの刺激的なものと、「アニメ制作進行」「社長秘書」「コンビニエンスストアオーナー」「救命救急センターで働いていた人」「高級老人ホームで働く人」「元力士」などの業界事情が気になるものに二分されていました。

10月10・17日放送回「整形を繰り返す人」

シーズン10も「整形を繰り返す人」「地下格闘技で戦っていた人」「路線バス運転手」など、テーマは民放のトーク番組と比べても過激な感はありません。また、初期の「プロ彼女・没落社長」「偽装キラキラ女子」「2次元しか本気で愛せない女たち」「痴漢えん罪経験者」などのテーマと比べると、このところ落ち着いてきた感すらあります。これは「過激さで勝負するフェーズは終了した」ということなのかもしれません。


攻めと守りの絶妙なバランス感覚

11月7日放送回「地下格闘技で戦っていた人」

しかし、その一方でトークのディテールと生々しさは健在。直近放送の「地下格闘技で戦っていた人」でも、「地下格闘技はケンカ。鍛えてないから2~3分しかもたない」「ケガや死亡のリスクを了承する契約書を交わす」「対戦相手は居酒屋で顔合わせし、“悪さマウント”をし合う」「目潰し、金的以外は何でもアリ」「ファイトマネーはほぼなく、もらえる入場券を売って金にする」「悪い人とのつながりは増えてしまう」などのリアルなエピソードが次々に飛び出しました。

ポイントは「顔出ししないからブレーキをかけずに話せる」「かわいい人形の造形と操演の技術で生々しさが中和される」こと。「過激なトークをNHK伝統の人形劇で中和する」という攻めと守りの絶妙なバランスが民放のトーク番組にはないオリジナリティーにつながっています。

また、エピソードはメインゲストだけでなく、別の人からも聞いて裏を取るほか、弁護士の法的な解説もあるなど、「決して個人の特異なエピソードにはしない」というバランス感覚も「ねほりんぱほりん」の強みでしょう。

一般人が出演するメジャーな民放のトーク番組では、「激レアさんを連れてきた。」(テレビ朝日系)がレギュラー放送を終了しただけに、今後ますます「ねほりんぱほりん」の価値が上がっていくのではないでしょうか。


山里亮太がトップMCたる理由

メインの楽しみがゲストの生々しいエピソードと人形造形・操演の職人技なら、サブの楽しみは山里さんとYOUさんのトーク技術。

エピソードを広げ、深掘りし、視聴者の目線を代弁したり、ツッコミで笑わせたり、時には感動に誘う2人の話術は芸能界トップクラス。視聴者が心の中で「聞きたい」と思っていることや、瞬発的な感覚をさらりと口に出すため、どんなテーマでもテンポよくストレスなくエピソードが進んでいきます。

「それくらいのことは他のタレントでもできるだろう」と思うかもしれませんが、相手は話し慣れしていない一般人だけにMCとしては高難度の仕事。優しい言葉で安心させたり、あえてゲストに乱暴な言葉でツッコミを入れたりなどの緩急で番組の奥行きを作っています。「2人のトーク技術を勉強すればMCやコーナー進行ができるようになる」という若手タレントにとって最高レベルの教材と言っていいかもしれません。

特に山里さんは「ねほりんぱほりん」によって業界内での評価が高まり、MCとしての仕事がジワジワと増えていきました。そんな活躍がトップ女優・蒼井優さんとの結婚につながり、2023年春には帯の情報番組「DayDay.」(日本テレビ系)のMCに就任。もちろん山里さんの実力あってのことですが、「ねほりんぱほりん」の隠れた功績と言ってもいいように見えます。


誘導的な構成・演出はしない矜持

「地下格闘技で戦っていた人」の終盤は、ゲストが地下格闘技を引退して本気でキックボクシングをはじめ、アマチュア大会で日本一になり、プロに転向して海外でも試合を行っていることなどが明かされました。

さらに番組は「プロになって初めて怖さを知った」「余裕を持てるのが本当の強さ」というハートフルなコメントを引き出したあと、「現在怖いものは犬と女性」とオチをつけて終了。

最後にほどよい感動と笑いを添える構成・演出はいかにもNHK Eテレ。民放ならもっと強めの感動と笑いでたたみかけようとするでしょう。そんな誘導的なことはしないのがNHK Eテレのきょうであり、「ねほりんぱほりん」のオリジナリティーを保つ背景となっています。

スタッフとキャストの技術がかけ算になってゲストのエピソードを引き出し、しかも見やすい30分番組として凝縮。毎年シーズン終了を迎える春に、また秋にはじまることがわかっていても「ロス」の声があがるのも納得してしまう。「ここからまた10年間放送してほしい」と思わせる希少な番組であることは間違いありません。

コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。

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