秋ドラマが次々に最終話を迎える中、「火星の女王」(NHK総合/BSP4K)第1話が放送されました。

放送中から数日が過ぎた現在までネット上には「映画並みのスケール」「NHKの本気度がすごい」などの称賛と、「よくわからなかった」「壮大すぎてしんどい」などの戸惑いで二分されています。

舞台は地球と火星、時代は100年後の2125年、多言語が飛び交う字幕ベースの画面、豪華キャストなど、「放送100年特集ドラマ」にふさわしいスケールであることは間違いありません。ただその一方で極めて難解な作品であることも事実でしょう。

当作はそのスケールだけでなく、「90分×3話」「2025年最後の連ドラ」という点なども含め、極めて希少性の高い連ドラであることは確かであり、どこに注目して見ればいいのか、下記にポイントをあげていきます。


入口は「100年後への興味」でOK

制作サイドが掲げた「火星の女王」のコンセプトは、「人類が火星移住を果たしている100年後の未来を描く大型SFエンターテインメント」「突如現れた謎の物体をめぐり、火星と地球の人々の欲望と希望が交錯するヒューマンドラマ」。地上波の連ドラではほとんど見られないディープなSFだけに、それを覚悟して見る必要性があります。

入口は「100年後はどんな世界になっているのか?」「火星での生活はどんなものなのだろう?」という小さな興味でいいのでしょう。何しろ、今ドラマを見ている人はおそらく生きていないであろう時代なのですから、「そうなんだ」と納得したり「ありえない」とツッコミを入れたり、どちらの楽しみ方も可能です。

実際、第1話の開始3分がすぎたころ、「2085年、人類は地球で枯渇した鉱物を求め、火星への移住をはじめた。最低気温―140℃、酸素もなく放射線が降り注ぐ死の大地。移住者は地表を避け、地下を居住地に選んだ」「各国の企業は鉱物を採掘し、地球に売却することで火星は発展。人口が10万人に達したころ、『ISDA』(イズダ・惑星間宇宙開発機構)が火星を統治することになった」「ISDAはすべての水、食料、エネルギーを掌握し、『公平に分配する』という名目で住民のタグ登録を義務づけた。しかし、わずか40年後の2125年、ISDAは火星撤退を発表した」という火星に関するデータが紹介されました。「ここからどんな物語になっていくのか」と興味が湧いた人は多かったのではないでしょうか。

ただ、入口は取っつきやすくても、そこは「見たことがないものばかり」という未来の世界。理解できないことだらけのため、「まずわかりそうなところに注目しつつ、わかりづらいところは気にしすぎずいったんスルーしながら見ていく」というスタンスがベターでしょう。


どの作品より遠い究極の遠距離恋愛

その点を踏まえて、下記の主なあらすじを見ていきましょう。

「人類の火星移住から40年が経過した2125年、火星の統治組織・ISDAの“地球帰還計画”が採択。火星生まれの盲目の少女・リリ-E1102(スリ・リン)は遠距離恋愛中のISDA職員・白石アオト(菅田将暉)と、ISDA日本支局長で母親のタキマ・スズキ(宮沢りえ)と会うために地球に移住しようとしていた」

「しかし、リリは帰還便に乗る直前、計画に反対する火星の住民たちに拉致されてしまう。一方、22年前に謎の物体が地球で引き起こした超常現象を研究する生物学者のリキ・カワナベ(吉岡秀隆)は、火星にも同じ物体があると信じて探索を続け、ついに発見する。ところが彼の報告が両惑星に波紋を広げていく……」

誰の目にもわかるところとしては、リリとアオトの“究極の遠距離恋愛”でしょう。その関係性は距離が遠い分だけ不確かで、たとえば「連絡してもすぐに返事がもらえない」というレベル。しかし、リリはアオトに会いたい一心で宇宙船に乗るための訓練を重ね、6年かけて合格し、「ようやく会える」となったときに拉致されてしまいました。

会えないどころか連絡さえままならない中、信じ合う姿には引きつけられるでしょうし、究極の遠距離恋愛=究極の純愛なのかもしれません。それとも拉致をきっかけに2人の恋愛に危機が訪れるのか。

“SF大作”であることをいったん置いておいて、「ピュアで切ないラブストーリー」「両惑星の思惑に翻弄される運命の2人」として楽しむことから入ってもいいでしょう。


映画館のように灯りを消して見る

次にわかりづらいところは、謎の物体にかかわる物語。第1話では「未知の物質はウランやプルトニウムの原子量をはるかに超える超重元素」「新しい莫大ばくだいなエネルギー源になりうる」「扱い方を間違えると惑星が爆発してしまう」ことが明かされました。

惑星が爆発してしまうシミュレーション映像を見て、「この物質をめぐって地球と火星の宇宙戦争が起きるのでは?」と想像した人もいたでしょう。実際、これを地球でも入手したいISDAは22年前にカワナベと共同研究していた白石恵斗(松尾スズキ)の息子・アオトに行方不明になった物体を探すように命令しました。

はたしてアオトは行方不明の物体を見つけられるのか。謎の物体をめぐる思惑は両惑星の住民にどのような関係を強いるのか。それ以外でも、なぜ恵斗は失踪したのか。さらに、火星の互助組織「コクーン」のリーダー・シュガーが亡くなった宇宙港事件の真相などを追うミステリーがだいであると同時に「わかりづらい」という声につながっている感があります。

そしてもう1つの謎は、なぜタイトルが「火星の女王」なのか。「女王」とは誰のことを指すのか。どう見てもその最右翼であり、地球帰還計画の恐ろしい全貌を知ったリリは何を思い、どんな行動をするのか。さまざまな想像をふくらませて楽しめるところがSFの面白いところです。

今秋に放送された「ちょっとだけエスパー」(テレビ朝日系)もSFをベースにしたミステリー&ヒューマン作でしたが、同等に「わからないから見るのをやめた」という声があがっていました。

日本では「SFの好き嫌いが分かれやすい」と言われ、地上波のドラマでは「タイムスリップ」「入れ替わり」「乗り移り」のライトな作風が大半を占めています。その点、「火星の女王」は対極のヘビーなSFと言えますが、「視聴率やスポンサーのしがらみが少ないNHKだからこそここまで突き抜けられる」という希少価値の高さにつながっています。

「多言語が飛び交い、字幕を読まなければいけない」という必要性も含め、他作のような“ながら見”は厳禁。映画館のように部屋のあかりを消して没頭しやすい状況を作ったら面白さは倍増するのではないでしょうか。


「小説の書き下ろし」から制作開始

そもそも当作はNHKの制作サイドが小説家・小川哲さんに「火星で人々が暮らす未来のドラマを作りたい」と話を持ちかけたプロジェクト。小説は今年10月に先行発売され、それをベースにドラマは制作されました。

演出は「きれいのくに」「17歳の帝国」を手がけた西村武五郎監督だけに地上波のSF作品としては最高峰の映像と言っていいでしょう。「ロケかセットかCGかの区別がつかない」という声があがる絶妙な近未来感も、多国籍キャストによる多国籍言語が飛び交う雑多なムードも、100年後も変わらぬ人間の業を引き出すような数々の手法も、すべてが計算され、作り込まれています。

もちろん菅田将暉さん、吉岡秀隆さん、宮沢りえさんを中心に、岸井ゆきのさん、菅原小春さん、宮沢氷魚さん、松尾スズキさん、松岡茉優さん、鈴木亮平さん、滝藤賢一さんら豪華キャストも見どころの1つ。

さらに主演を務めるスリ・リンさんの繊細な演技を筆頭に、シム・ウンギョンさんら外国人キャストの大量起用もNHKならではであり、規格外のスケールを感じさせてくれます。

火星の住人という設定を通して、私たち地球で暮らす人間にどんな気づきを与える作品になるのか。世界各地で紛争が起きる中、どのように共存していけばいいのか。最終話の終了後にはさまざまな声がネット上に書き込まれるのではないでしょうか。

「90分枠の連ドラ」という民放ではまず見られない海外作品のような斬新な編成でもあり、「火星の女王」は2025年を締めくくる連ドラにふさわしいように見えます。

コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。

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