テレビを愛してやまない、吉田潮さんの不定期コラム「吉田潮の偏愛テレビ評」。今回は、「京都人の密かな愉しみ Rouge-継承-」です。

先日久しぶりに映画の試写会へ。原作を読んで、あだ討ちという悲しき宿命を背負った青年を芝居町の人々がそれぞれの立場で回想していく展開にひきこまれたし、辛酸をなめて泥水をすすって生きてきた芝居町の面々の温情が融合する結末は見事だった。永井紗耶子・著『木挽町のあだ討ち』の話である。江戸の芝居小屋を舞台に展開する人情ばなしは連続ドラマで観たいなと思っていたら、映画化(2月27日劇場公開)。しかも監督・脚本が源孝志(制作会社オッティモ)と聞いて、そりゃあもうそわそわしちゃったわけだ。

私が観てきた限りでは、源孝志はNHKで数多くの良質な作品を生み出し、映像の圧倒的な美しさと人間の生臭さ(といとおしさ)を両立させて、極上の叙情作をつくる名手だ。映画『木挽町のあだ討ち』は、躍動感とユーモア満載の“舞台裏”を描く大胆なアレンジで、最後まで飽きさせなかった。人情噺で仇討ちモノだが、ダイナミックかつコミカルなエンタメ時代劇として完成度の高い作品だった。のっけから脱線しまくるが、触れずにはいられないので、このまま暴走します。


源孝志作品の映像美と人間味

たとえば、内野聖陽が時代劇の大部屋俳優を演じた「スローな武士にしてくれ~京都撮影所ラプソディー~」(2019年)ではテレビから消滅しつつある時代劇の担い手たちの奮闘ぶりを描き、最先端技術による迫力のある映像には思わず「ほぉ~ッ」と声を上げたほど。また、江戸時代の絵師・伊藤若冲が主人公の「ライジング若冲じゃくちゅう 天才かく覚醒せり」(2021年)では、京都・錦市場にある青物問屋の跡継ぎが、いかにして絵師の道を進んだかを描いた。天才絵師の繊細な心模様、支援者との関係性、秀麗な映像とともに内容はかなり踏み込んだ作品で、若冲好きとしては大満足。中村七之助が演じた若冲はそこはかとなくフェミニンで妄想も膨らんだ。

これらのスペシャルドラマだけでなく、原作から手掛けた連ドラも制作。滝藤賢一主演の「グレースの履歴」(2023年)は、亡き妻(尾野真千子)の愛車にのこされたカーナビの履歴を辿たどる旅で、思いもよらない真実や深い愛の証に気づくという静かなる名作。昨年の「TRUEトゥルー COLORSカラーズ」は、色覚異常が進むの病を患い、絶望したフォトグラファー(倉科カナ)の物語。疎遠にしてきた故郷の天草地方に戻ると、隠されてきた真実や見えていなかった郷里の人々の心模様に触れることに。シンディ・ローパーの名曲とともに、再生して前を向くヒロインの姿が焼き付いた。

他にも秀作がたくさんあるのだが、私が源孝志作品のとりこになった始まりの番組がある。それを観るためにNHKとBS契約したと言ってもいい。根強く続編を待ち続けるファンも多く、長きにわたって趣向を変えながらシリーズ化してきた、あの番組。それが「京都人のひそかなたのしみ」だ。ええ、やっと本題に辿り着きました。


生粋の京都人・三八子が戻ってきた!

今作は、season1で登場した老舗和菓子屋が主な舞台となる「Rougeルージュ₋継承₋」。Rougeから観始める人のために、基礎となるseason1をざっくり解説しておく。

season1では、イギリス人の文化人類学者で洛志社大学教授のエドワード・ヒースロー(団時朗)が登場。京都のややこしくて奥ゆかしくて厄介やっかいみやびな独特の文化にせられ、移住してきた。住まいの隣にある老舗和菓子屋「久楽屋くらや春信はるのぶ」の若女将おかみ・沢藤三八子みやこ(常盤貴子)が典型的な“京都人”の暮らしぶりなので、密かに観察しては京都の奥深さを満喫。実は、エドワードには婚約者のエミリー(シャーロット・ケイト・フォックス)がいたが、日本に逃げてきたという設定。エミリーがエドワードを追いかけて京都にやってきたあたりは、ややサスペンス風味。京都の独特な文化に対して心中で毒を吐くエミリーは辛辣しんらつでかなりシニカルでもあった。

三八子は久楽屋春信の跡取り娘として、幼い頃から継承の教育を受けてきた。婿養子を迎えなければいけない宿命だが、縁談を断り続けている。その理由は和菓子職人だった三上すぐる(石丸幹二)と恋に落ちたからだ。三上は既婚者であり、三八子の父が許すはずもなく。別の店へ移った三上はフランス・パリで和菓子職人として再スタートをきった。お家継承の重責を背負ってきた三八子と、娘が幸せになる選択をしてほしいと願う母の鶴子(銀粉蝶)。そうそう、父には芸妓との間に隠し子(深水元基)がいて、三八子は母に内緒で接触していたというくだりもあった。

この道ならぬ恋やお家継承問題は、初めからがっつり描かれるのではなく、最小限の情報で徐々に明かされていく、このうえなく奥ゆかしいスタイルだった。苦渋の決断だったが、三八子は京都人として暮らしてきた人生を捨て、三上との逢瀬おうせに向かう……というのがseason1。ほかにも、京都ならではの祭事や神事などを紹介するドキュメンタリーパート、オムニバス形式の短編ドラマパートなどが盛り込まれ、京都に暮らす人々の独特な生業なりわいや情の交錯がコンパクトに描かれていた。そこから派生した、若き職人たちの物語がseason2の「Blueブルー修業中」である。


フランス育ちの継娘が京都に留学、密かな目的は「継承」

で、今回の「Rouge₋継承₋」では、三上の娘・洛(穂志もえか)がヒロイン。洛と書いて「みやこ」と読む。幼少時、父に連れられてパリに渡った洛は生粋のパリっ子。つまり京都をほとんど知らない。洛の母が病で他界し、驍と三八子が再婚して8年。生粋の京都人だった三八子も、パリ暮らしを満喫している様子。

洛は名門ソルボンヌ大学を卒業間近、進路で迷っていた。驍がこっそり提案したのは京都の大学への留学。三八子の母・鶴子が病気でもうあまり長くない旨を同業者から聞いて、後継者がいない久楽屋春信が廃業の危機にひんしていると知ったからだ。驍は洛を送り込もうとするも、三八子は猛反対。老舗の一人娘として青春も半生もささげてきた身としては、洛に同じ思いをさせたくないからだ。お寺に神社、家元に料亭、しきたりが多い上に一筋縄ではいかない人間関係が張り巡らされて成り立っている京都で、老舗を継承するには「荷が重すぎる」。価値観も倫理観も美意識もフランス仕込みの洛には難しいと主張する。三八子の猛反対を聞いた洛は「みくびられてるなぁ、私」とつぶやき、ぜん京都に興味をもち始める。

もうさ、気が強くて勝ち気なわけよ、パリジェンヌの洛は。演じる穂志もえかは前出の「TRUE COLORS」で倉科カナの妹役を演じ、源作品には2度目の出演となる。個人的には「こっち向いてよ向井くん」(日テレ・2023年)で演じた”アイシングクッキーの女“が記憶に残っている。妻(藤原さくら)と微妙にうまくいかなくなった男性(岡山天音)に必要以上に近づき、手間暇が異様にかかるアイシングクッキーを「奥さんにどうぞ」と渡す女性の役だった(妻への宣戦布告な)。強烈なインパクトを残したもえか、今回の勝ち気で聡明そうめいな洛は適役だと思うんですわ。

三八子と洛の間には親しげで遠慮のない空気だけではなく、小さな火花が散っているような空気もある。洛には父の再婚相手に対するわだかまりのようなものがあるし、三八子には罪滅ぼしの責任感のようなものも感じる。

ということで、三八子の猛反対を押し切って、京都の大学に留学することを決めた洛。あのエドワード・ヒースローが教鞭きょうべんをとっていた洛志社大学である。


歴史に裏打ちされた“京都ファースト”トーク

娘を家督継承の呪縛から解き放ち、自分の代で廃業を決意していた鶴子は、孫娘の帰京に大喜び。今か今かと待ちわびるも、マイペースの洛は京都観光から始めている。頭の上に11の顔をもつ十一面観世音さつを拝観し、住職(笹野高史)に尋ねる洛。慈悲深い柔和な顔に厳しく怖い顔、悟りを表す顔……笑っている顔がないけれど、本当の顔はどんな顔なのか。全部が混じった顔と言って、顔を作る住職は「こんな顔できるのは京都人くらいやろうな」と笑う。このドラマの主軸をふんわりと表現する、印象的な出だしでもある。拝観時の記名で名前を知った住職は、洛を京都人と見込んで京都トークを展開。「そんな手の込んだ名前、京都の人しかつけませんやろ」「そもそも都を東京に戻したのが最大の失敗や」

歴史に裏打ちされた京都ファーストなトークは、奥が深いうえに毒も濃くてかなりチャーミングである。こういうところにもかれてしまう自分がいる。

数日後、なんと三八子も続けて帰国。洛が心配であり、鶴子も心配であり、再び京都に戻ってきたのである。昨日までパリで暮らしていたとは思えないほど、迅速にスッと京都人の顔に戻る三八子。こうして鶴子と洛と3人暮らしが始まった。


京都人の定義とは? 洛中とはどこか?

洛が大学で出逢であうのは、学内ではちょいと変わり者とされている東雲しののめ朔太郎さくたろう教授(渡辺謙)だ。京都という町が持つ独特の文化に興味があると話した洛に、京都人の研究を勧める東雲。渡辺謙は「TRUE COLORS」で倉科カナの継父を演じ、映画『木挽町のあだ討ち』では、武家の生まれだが芝居の道を選んだ戯作者の役を演じている。源作品は3作目で常連となりつつも、改めて色気を感じさせる適役だ。

また、洛の同級生で栃木県出身の水上柊子ひいらぎこを演じるのは森田想。東雲から“いっきゅうさん”と呼ばれる所以ゆえんは、合格率3%以下と言われる「京都人検定1級」をもっているからだ。京都に憧れて来た関東人の存在は、今作初の試みではないだろうか。森田も「TRUE COLORS」に出演(倉科カナが専属契約を結んでいた雑誌の編集部員役)、源作品は2作目だ。もうひとり、こっちは生粋の若き京都人の同級生、伊月広臣を演じるのは杉田雷麟。1558年創業、467年続く老舗呉服屋の一人息子で、「洛中とはどこか」という問いに、自分の実家がある山鉾町だと断言する。京都人の自覚と矜持きょうじは強くあり、皮肉屋の一面もあるが、老舗継承の重みと自分で道を選べない人生の不自由さを嘆いている、ちょっと複雑な心もちの青年だ。

洛は完全にアウェー、外様感覚ではあるが、京都に暮らす人々とふれあうことで「京都人の本質」を徐々につかんでいくであろう。久楽屋春信の10代目として、京都人として生きる覚悟を決めるかどうかも楽しみでもある。


京都人起用&別seasonから地続きキャスティング

さて、今作では京都出身の俳優が多い気もしていて、密かな愉しみのひとつにもなっている。洛と三八子を偶然にも乗せたタクシー運転手を演じたのが山西惇。「相棒」シリーズ(テレ朝)のパンダ好き角田課長役が有名だが、京都大学卒業のインテリ俳優としてクイズ番組にも出演。もうひとり、老舗呉服屋伊月の当主、つまり杉田雷麟の父親として段田安則が登場。大河「光る君へ」や「しあわせな結婚」(テレ朝・2025年)での趣の異なる父親役が記憶に新しいところだが、今回の父親役もこれまた癖が強い!

また、season1・2からのキャストも登場。第3話で洛がふらりと立ち寄ったのはBAR Forest Down。店主の若林志保(秋山菜津子)は、「Blue修業中」で登場した若林ケント幸太郎(林遣都)の母である。また、三八子と鶴子の会話に出てきた玉井パンも、「Blue修業中」に登場したパン屋だ。店主の玉井を演じたのは甲本雅裕、パン職人を目指して玉井パンで修業していたのは上町葉菜(趣里)だ。さらに葉菜の父親で、西陣の染上染工所社長(上杉祥三)は第4話で登場。第5話には林遣都も出るようだ。「京都人の密かな愉しみ」ファンはこんな地続きキャスティングも愛でておるわけです。

2015年から始まり、この長い年月の間に残念ながら鬼籍に入られた俳優もいる。エドワード・ヒースローを演じた団時朗、「Blue修業中」で京野菜農家の松陰タエを演じた江波杏子だ。作品とともに彼らを思い出すことになるだろう。すでに歴史を刻んでいるシリーズの最新作、「継承」という重みと深みを存分に味わいつつ、京都独特の食習慣や情緒と威厳のある街並みをうっとり眺めてもいる。エンディングで流れる神事の映像も、思わず見入ってしまう厳かさと気高さがある。

ということで、本当は全シリーズを一気見してほしいのが密かな願いである。

ライター・コラムニスト・イラストレーター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業。健康誌や女性誌の編集を経て、2001年よりフリーランスライターに。週刊新潮、東京新聞、プレジデントオンライン、kufuraなどで主にテレビコラムを連載・寄稿。NHKの「ドキュメント72時間」の番組紹介イラストコラム「読む72時間」(旧TwitterのX)や、「聴く72時間」(Spotify)を担当。著書に『くさらないイケメン図鑑』、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか?』、『ふがいないきょうだいに困ってる』など。テレビは1台、ハードディスク2台(全録)、BSも含めて毎クールのドラマを偏執的に視聴している。

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