
テレビを愛してやまない、吉田潮さんの不定期コラム「吉田潮の偏愛テレビ評」の中で、月に1~2回程度、大河ドラマ「豊臣兄弟!」について、偏愛たっぷりに語っていただきます。その第1回。
豊臣秀長……歴史に疎くてほとんど印象にないのだが、脳内で秀長と言えばたったひとり。「真田丸」(2016年)で千葉哲也が演じた秀長だ。兄・秀吉を演じたのは小日向文世。わがまま放題の兄を冷静に見つめていた姿が記憶に残っている。作品内では「根絶やし」「皆殺し」の言葉が飛び交い、暴君として描かれた秀吉。そんな兄を見つめるまなざしは温かみのあるもので、「ついこの前まで百姓だったのにあっという間に天下人。心がついてきてないのだ」と表現。ブレーキとまではいかないが、アクセル全開の兄を助手席で見守り続けた人、と印象づけた千葉の渋さと深みが忘れられない(小日向秀吉も残虐っぷり&ボケっぷりが最高だった)。
質実剛健、沈思黙考。そんなイメージの秀長(小一郎)に、仲野太賀が新たな風味付けで挑んでいるのが「豊臣兄弟!」だ。秀吉(藤吉郎)を演じるのは池松壮亮。むちゃぶりとやり逃げとほらふきの三拍子そろったお調子者の兄を池松が軽妙に演じ、そんな兄に振り回されつつも敬意と愛情とアイデアで支え、一番の理解者である弟を太賀が熱演。阿吽の呼吸とでもいおうか、特にコミカルな動きやテンポの速いやりとりでも息ぴったりである。
兄の本懐に共鳴していく弟

「米と菜っ葉作ってるほうが性に合う」という農民マインドをもち、初めのうちは兄の執拗なまでの上昇志向に懐疑的だったが、兄の本懐を知るにつれ、絆されていく小一郎。小一郎は目開けたまま寝ちゃって(太賀の得意技!)聞いてなかったのだが、兄の本懐はこうだ。
「母ちゃんや姉ちゃんやあさひに腹いっぱい飯を食わしてやりたいんじゃ。そのあとは親類縁者たちじゃ。もっとよくなったら村の連中にも飯を食わしてやる」
「わしはみんなを喜ばしたい。『ありがとう、藤吉郎、よくやった』と言ってもらいたい。わしはみんなから好かれたいんじゃ。もう見下されたり、嫌われたりしとうない……」
民を豊かに潤わせて、身分や家柄で差別されない世の中へ。兄の目標はシンプル。基本的人権の尊重であり、憲法で言えば第14条(法の下の平等)と第25条(生存権)といったところかしら。ちゃんと、のちの天下人の信条と本懐を見せて、ただの厄介な兄と思わせないところがいい。フォロー&リカバーで支える弟のモチベーションにもおおいに影響するところでもあり。この兄弟が戦乱の世をどう生き延びていくのか、しっかり見届けたいと思わせた。
厄介な兄と知恵者の弟が導く、家族の悲喜劇

で、この兄弟の家族も、茶目っ気と温かみのあるキャスティングで私の好みだ。
母・なかを演じるのは坂井真紀。この顔ぶれで思い出すのは、山本周五郎の原作を宮藤官九郎がリメイクした「季節のない街」(ディズニープラス)だ。池松は、舞台となる街(被災地の仮設住宅)にある目的で住み始める主人公・半助を演じ、太賀と坂井はこの仮設住宅に暮らす息子と母親を演じた(このときの坂井の怪演と太賀の熱演はドラマ史上に刻むべき)。
案外図太い姉・ともを演じるのは宮澤エマ。今後の展開で弟たちへの温度変化が最も激しそうな役どころだが、三谷幸喜作品レギュラー俳優としてのゆるぎない実力には安心感がある。そして、朗らかでちゃっかりしていて、よく食べる妹・あさひを演じるのは倉沢杏奈だ。大河は2作目。「光る君へ」で藤原道長(柄本佑)と倫子(黒木華)の次女で、中宮になった後も酒浸り&贅沢三昧で爛れきった妍子をキュートに演じた俳優だ。
この姦しい女3人家族には、栄華とその対価というか代償が待ち受けているわけだが、任せるにふさわしい俳優陣でそこも楽しみのひとつである。

そうそう、あっという間に家族になっていた姉の夫・弥助(上川周作)と妹の夫・甚助(前原瑞樹)のタッグも最強だ。上川は「虎に翼」のヒロインの兄・直道役(「俺にはわかる」と、したり顔する兄ね)が記憶に新しいし、前原は現在放送中の「ばけばけ」で借金取りの銭太郎役(名前はひどいが根はいい人♪)を演じていた。もうさ、NHKドラマの準レギュラーとも言えるメンバーで固めた一家なわけだ。この先、生活や価値観の激変にそれぞれの見せ場がある、と期待している。
兄弟にしてやられた人も、救われた人も

まだ序盤も序盤なのだが、第6話まででこの兄弟にしてやられた人の鎮魂歌も捧げておこう。兄には妻の心を奪われ、弟には愛娘・直(白石聖)を奪われたのが、坂井喜左衛門だ。演じるはやられっぱなしが絶妙に似合う大倉孝二。きょうだいの故郷・尾張の国の名士だが、もう絵に描いたような「してやられ感」に大笑いしてしまった。さらに、第1話であっけなく殺されたのが、織田家の台所方・横川甚内だ。勝村政信が演じた甚内はド貧乏な藤吉郎を何かと世話してくれた、いわば恩人だったが、実は信長(小栗旬)と対立する斎藤義龍(DAIGO)のスパイだったことが判明。善人と思いきや、百姓の出である藤吉郎を蔑んでいたこともわかり、藤吉郎は躊躇なく斬り殺した。恩と情よりも忠誠と出世の残酷な世界、その幕開けにふさわしいエピソードでもあった。ちなみに大倉は今期「探偵さん、リュック開いてますよ」(テレ朝)に、勝村は「おコメの女―国税局資料調査課・雑国室―」(テレ朝)に出演中。
スポット出演の名バイプレイヤーの活躍は別世界でも続いている。

逆に兄弟、特に小一郎に命を救われたのは、美濃・鵜沼城主の大沢次郎左衛門。演じたのは松尾諭だ。さて、ここでも想起したのは「拾われた男」(2022年)だ。松尾の自伝的エッセイをドラマ化、主人公(つまり松尾)を演じたのが太賀だった。つい、他の作品を思い出しちゃうタッグが多くてね。
一投で人を殺めることもできる石礫の名人である大沢を調略することに成功した兄弟だったが、信長の非道な目論見に翻弄される。兄弟の尽力にほだされ、漢気を見せた大沢を松尾が好演(その妻・篠を演じたのは映美くらら、記憶に新しい「べらぼう」の大崎ね)。
今はまだ織田家ヒエラルキーの最下層にいる兄弟だが、人たらしと人心掌握の才能を発揮して敵も味方も増やしていくことだろう。
意地悪兄妹の栄枯盛衰、虎視眈々の策士

藤吉郎はかねてから思いを寄せていた寧々(浜辺美波)にようやっとプロポーズ。もうここは安泰なわけだ。一方、「自称・頼りになる男」として、直を口説き落とした小一郎だが、なにやら不穏な予告映像が……。直が妻になると思ってたんだけど、違うのね。武士の世界へ背中を押したのも直だが、あまりに「兄ファースト・自分後回し」の小一郎に対して「あんなやつのために死んだら承知しないから!」とニュートラルな状態へ引き戻してくれていたのに。喜左衛門に一生呪われることになるんだろうな、小一郎は。
それはさておき、織田信長が「人間50年~」と舞うシーンを久しぶりに観た気がする。小栗旬が演じる信長は冷酷非道に見えるものの、結構メンタルやられてるなぁという印象も。弟・信勝(中沢元紀)を殺したトラウマがあるようで、藤吉郎と小一郎の仲良し兄弟の姿には、苛立ちや嫉妬、後悔や懺悔の念も垣間見せる。
なんというか、妹のお市(宮﨑あおい)のほうが冷酷無比で情報戦に長けた戦国武将っぽい気が。この意地悪兄妹の行く末も見守りつつ、迫力と説得力のある織田家家臣たちの分裂や対立も心待ちにしている。
ともあれ、今後たびたび訪れるであろう「天下人の弟の苦悩」を、太賀がどこまで魅せてくれるだろうか。スポットライトが当たってこなかった秀長の新解釈も楽しみだ。
ライター・コラムニスト・イラストレーター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業。健康誌や女性誌の編集を経て、2001年よりフリーランスライターに。週刊新潮、東京新聞、プレジデントオンライン、kufuraなどで主にテレビコラムを連載・寄稿。NHKの「ドキュメント72時間」の番組紹介イラストコラム「読む72時間」(旧TwitterのX)や、「聴く72時間」(Spotify)を担当。著書に『くさらないイケメン図鑑』、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか?』、『ふがいないきょうだいに困ってる』など。テレビは1台、ハードディスク2台(全録)、BSも含めて毎クールのドラマを偏執的に視聴している。