
テレビを愛してやまない、吉田潮さんの不定期コラム「吉田潮の偏愛テレビ評」。今回は、夜ドラ「替え玉ブラヴォー!」です。
とても親密だった友人と、突然没交渉になる。最も多いのは、ぬるっとしたままのフェイドアウトではないだろうか。いつのまにかフォローを外される、ブロックされている、さらっと既読スルーされるなど、いまどきは連絡手段のカジュアルな断絶が主流と思われる。絶交に変わりはないのだが、した側はさりげなく確実に縁を切れる。された側はもやっとするものの、真意は伝わってくるため、深追いもしなくなる。面と向かって絶交宣言というのは、言う側も言われる側もエネルギーの消耗が大きいから極力避けるよね。人間関係も省エネ、そんな令和に、あえてハイカロリーな絶交を描くのが、夜ドラ「替え玉ブラヴォー!」だ。謳い文句の「ラーメン×バレエ×女の友情」ってなんだよ、と心の中でツッコミをいれていたけれど、看板に偽りなし、逆にこのミスマッチというか不協和音こそが面白さを増量していると気づいた。それこそブラヴォー! である。
半裸全世界配信を機に「絶交」

主人公の千本佳里奈(北香那)は元バレエダンサー。身長が足りないという理由で講師から引導を渡され、バレエの道をきっぱり諦めた過去がある。今は広告代理店勤務、大好きなラーメンを食べまくり、感想や意見をブログにアップするほどのラーメンオタクだ。一方、地元のバレエ団で一緒だった親友の二木優美(天野はな)は、プロのバレリーナに。歩く道は違えど、ふたりの友情は続くはずだった。
ところが、佳里奈は仕事で担当したバレエウェアブランドの発表会で悲惨なアクシデントに見舞われる。本来なら素人モデルが踊るところ、急遽代役として舞台上へあがる羽目に。その際に、ウェアの一部が男性モデルのウェアにひっかかり、佳里奈は上半身が露わになってしまう。発表会は全世界に生配信、ネット上では早速コラージュ動画が拡散され、アクシデントとはいえ、発表会は台無しに。

優美はすぐさま駆けつけて、地底のどん底まで落ち込む佳里奈をなぐさめ、ラーメンを作って、そっと寄り添ってくれる。そこにもうひとり駆けつけたのは佳里奈の彼氏・岩渕光生(駒木根葵汰)。金はないが、全方位に優しいイケメンの光生も、佳里奈をなぐさめようと行列のできる店の野菜マフィンを買ってきてくれたのだが……。佳里奈は逆に光生に当たり散らし、容赦なく彼の人格と半生を否定しまくり、しまいには別れ話に発展してしまう。その様子を一部始終見ていた優美は、佳里奈に対して「絶交しよう。あんたとはもう友達じゃないから」と宣言。その理由がわからないまま、佳里奈は右往左往するが、優美は頑なに会うことを拒む。必死に優美を追いかけて、なかばストーカーのようになる佳里奈……。
頑なな拒絶と執拗な執着で女の友情を描く斬新さ

なんだ、これ! 女友達の喧嘩というか、頑なな拒絶と執拗な執着。それがバレエとラーメンをとおして展開していく、観たことがない空気感をもつ作品なのだ。女同士の憎しみや嫉妬、ライバル心や復讐心を描くドラマは星の数ほど存在するが、そんな手あかのついたお決まりのドロドロ劇、ではないのよ。怒りや憎しみや恐怖がベースではないから、優美の真意が知りたくなるし、復縁したい佳里奈の必死さもなんだか可笑しくてせつない。
夜ドラ史上、最も負けず嫌いで性格の悪いヒロインといってもいい佳里奈をコミカルに演じる北香那、ハマリ役だなぁと感心している。これまでに楚々とした妻の役や勝気な令嬢役、ちゃっかりした女子役も多く、いずれも芯の強さを巧みに体現してきた。記憶に新しいところでは、大河「どうする家康」でイノシシ殺しのお葉(家康の側室になったが、同性愛者であることを直訴してお役御免が許された)かな。そうそう、近々では朝ドラ「ばけばけ」で勝気なバイリンガル令嬢・おリヨ様で、主人公のおトキ(髙石あかり)を翻弄していたっけ。

今回の佳里奈役は、語彙力がたくましくて他人への配慮がなく、容赦ないマシンガントーク&独り言がデフォルト。気遣いと優しさを踏みにじるどころか、相手に致命傷を与える暴言を吐いても反省しない。ここまで強烈に自己中心的なキャラクターも香那が演じると、間違った方向への「芯の強さ」が加わり、「痛さ」と「みっともなさ」と「可笑しさ」も倍増。もう最高のヒロインだよ。
私が個人的に大好きなイギリスの名作ドラマ「FLEABAG」を思い出した。監督・脚本・制作総指揮で主演もつとめたのがフィービー・ウォーラー=ブリッジ。タイトルのフリーバッグとは、ノミのたかった動物とか、みすぼらしいとか、不潔で薄汚いことを表すそうだ。劇中、ヒロインの名前は呼ばれず、フリーバッグという呼称で片付けられている。性格や行動に難があり、家族とも友人とも彼氏ともうまくいかず、仕事も順調ではない。問題山積みの女だが、かといって悲観することもなくたくましく生きていく。レベルは違うが、佳里奈には同じ匂いがしたんだよね。

で、佳里奈はしばらく会社を休んだものの、出社した途端に総務部への異動を命じられ、上司(小林麻子)も責任をとって別事業部に左遷されることに。頼りなかった後輩の川添ひかり(川久保三子)もあっという間に成長し、新人(森迫永依)を従えてテキパキと仕事をこなしている。職場ではどことなく疎外感と孤独を覚える佳里奈。主人公がちゃんと追い込まれる物語も高く評価したいところだ。
親友が心を開いてすべてを話すわけではない

一方の優美。同じ夢を追いかけると思っていた親友はあっさりと夢を諦め、バレエをやめてしまう。それだけでなく、大好きなラーメンを我慢することなく食べまくり、広告代理店という華やかな世界で働き、心優しい彼氏もいる佳里奈。自分はと言えば、夢かなってプロのバレリーナになったものの、給料は低く、プリンシパル(主演となるトップダンサー)への道はかなり険しい。後輩が主役に選ばれ、自分はいつまでたっても、その他の白鳥役……。バレリーナとして体型維持の食事制限もあり、自分を律する日々で、あえてラーメン屋でアルバイトもしている。まだ本音を吐露していないが、優美の心情はかなり複雑であろうと推測する。そんな難役を、天野はなが繊細に演じている。バレエの技術もさることながら、今後の展開でその複雑な心の内を見せてくれるはずだ。

いくら親友でも、すべてを話すわけではないし、逆鱗に触れてしまう地雷のようなものも存在する。心を許し、気の置けない間柄と思っていても、深層心理はわからないものだ。こういう微妙なリアリティを淡々と描くドラマって、意外と少ない。劇的な激情のほうが興味関心をもたれるし、わかりやすく加害者と被害者という構図に仕立てたほうが単純明快かつドラスティックだからだ。
佳里奈には反省と配慮がおおいに必要だし、優美も相当意固地で頑固だ。このふたりが最終的に復縁できるかどうか、最後まで観察していきたい。本当にお互いが必要であれば、わだかまりがとけて和解することもあるからね。たとえ復縁しないという結末でも、お互いの成長が見られればウェルカムだ。
閑古鳥が鳴くラーメン屋店主の背景も気になる

ふたりの絶交実況中継といったところだが、さりげなく支える人の存在も。優美がアルバイトするラーメン店「ため口」は、店主のマチルダ(野添義弘)が食べている客の動向をじっと見守り、感想を聞きたがったり、妙に替え玉を勧めたりする。趣味で始めたラーメン店だが、この距離の近い店主とラーメンの微妙な味が問題で、店には閑古鳥が鳴いている。それでも優美が心地良く働いている。なぜマチルダなのか、優美のバレエを観て泣いた真意など、いろいろと含みのあるおじさんを野添が可愛らしく演じているのだ。ちょっと気になるよね。

また、優美と同じバレエ団に所属する後輩・和智渚(大宅聖菜)や友人・八代学人(葵揚)は、ダンサーとしてライバルでもあり同志でもある。切磋琢磨の関係だが、どうやら八代は優美に好意を寄せている模様(優美はまったく気づかない)。
優美の周りには穏やかで優しい人が多いのとは対照的に、佳里奈には頼れる人がいない。大親友の優美を失い、彼氏の光生も失い、会社でも腫れ物扱い。相談できるのはAIかアプリ、あるいは街角にいる謎の占い師(キンタロー。)くらいだ。なんと残酷な対比。今後もいろいろな人物がトッピングされるがごとく登場するようなので、どんな具材になるのか楽しみにしておこう。

佳里奈は、優美や光生がかけがえのない存在だったことを痛感し、改心できるのか。優美は心中のもやもやを晴らすことはできるのか。自己主張の強い食べ応えのある麺をなめらかに包み込んでうまみを増すスープのごとく、まるでラーメンのような女の友情。最後まで食べ尽くして飲み干す所存である。
ライター・コラムニスト・イラストレーター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業。健康誌や女性誌の編集を経て、2001年よりフリーランスライターに。週刊新潮、東京新聞、プレジデントオンライン、kufuraなどで主にテレビコラムを連載・寄稿。NHKの「ドキュメント72時間」の番組紹介イラストコラム「読む72時間」(旧TwitterのX)や、「聴く72時間」(Spotify)を担当。著書に『くさらないイケメン図鑑』、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか?』、『ふがいないきょうだいに困ってる』など。テレビは1台、ハードディスク2台(全録)、BSも含めて毎クールのドラマを偏執的に視聴している。
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