
戦国三英傑のひとりに数えられ、これまで映画・ドラマで多くの俳優たちが演じてきた徳川家康(第5回の時点では、松平元康)。大河ドラマ「豊臣兄弟!」では、後に小一郎(仲野太賀)と藤吉郎(池松壮亮)の最大のライバルとして立ちはだかることになる。この家康役に挑む松下洸平は、どんな気持ちで撮影に向き合い、どのような家康像を見せようとしているのか?
何を考えているのかわからない家康ゆえに、話をするときは人の目を見ない
――徳川家康は数々の大河ドラマに登場していますが、家康役をオファーされたときの率直な感想は?
驚きました。徳川家康役で合っているかどうか、聞き間違えていないか? と思って、何回も確認をしたうえで、どうやら本当らしい、と(笑)。最初は信じられない思いでしたけれども、実際に「豊臣兄弟!」のスタッフの皆さんやプロデューサーの方々とお会いして、お話をうかがっていくうちに、だんだん実感が湧いてきました。
――今回の「豊臣兄弟!」で描かれる家康については、どんな印象を受けましたか?
脚本をいただくまでは、家康をどう演じていけばいいんだろう? と、悩んでいたところもありました。たくさんの俳優の方々が演じられてこられたわけですから、せっかく自分がやらせていただけるのであれば、これまでにないアプローチの仕方が何かあるんじゃないかなと思って、ずっと考えていたんです。これまでの家康像って、どちらかというとニヒルで何を考えているのかわからない、腹の底が見えないような感じがあったと思うんです。もちろん今回もそこはありつつ、八津さんが描いた家康がすごく面白くて、何よりもユーモラスで。「あ、誰も見たことない家康が、ここにあった!」と思いました。この脚本に忠実に演じていくことができれば、もう大丈夫だ、という感じですね。
だから僕の演じ方次第、僕にかかってくる部分が大きいと感じています。台本の文面、セリフだけを読むと、ちょっと“抜けている”部分があったり、チャーミングさがあったりするんです。それを表現した結果、いい意味で「何を考えているのか、よくわからない」家康になると面白いかなと思って、今トライしている最中ですね。
――そのトライしている中で意識していることはありますか?
戦国の世を生きた人たちの強さとか、したたかさとか、血の気の多さ、冷徹、冷酷な部分がうまく出せるといいなと思っています。けれど、目が血走っている家康って、まだ脚本には全然出てこないんですよね。今のところは、ちょっとおとぼけな……(笑)。ギラギラしている、小一郎、藤吉郎、信長(小栗旬)とはちょっと違うところにいますね。常にギラギラしている彼らを、少し引いた目で見ている家康、というところをうまく出せたらなと思っています。
――家康として心がけている所作や、家康らしさを表現するための工夫などはありますか?
これが正解なのかどうかはわからないのですが、なるべく人の目を見ないように心がけています。家康が目線を外しているときに彼が何を考えているのかを、視聴者の皆さんに想像して楽しんでいただけるといいなと思っていて。家康の側近である石川数正(迫田孝也)にでさえ、あまり目を見て話さない、ということを意識しています。
家康は人情や絆みたいなものを深く信じていなかった気もしますし、誰に対しても人を信用しない人物でいてほしいと個人的に思っているので、数正にですら少し距離を取るようにしているのではないかと。一方で、数正とのバディー感みたいなものを、面白く、笑って見ていただけるといいなと思います。「全っ然、噛み合わないな、このふたり」と(笑)。

――今後は戦のシーンもあると思うのですが、鎧兜を着用してのお芝居は初めてですか?
初めてです。特に前半は、(映画『スターウォーズ』に登場するロボット)“C-3PO”みたいな金ピカの鎧でした。まさか自分があれを着る日が来るとは思わなかったので(笑)すごく光栄でしたね。「どうする家康」(2023年)で松本潤さんが着ていた姿を拝見していたので「うわぁ、これを着られるんだ!」と思って、テンションが上がりました。

織田信長や豊臣兄弟との関係は、これから……
――幼少期に織田家の人質として過ごしていた家康は、信長に対して特別な感情を持っていたのではないかと思いますが、人としてあまり関わりたくない存在なのか、恐るべき存在なのか、どういうふうに感じていたと解釈して演じていますか?
もちろん、恐ろしい存在であることで間違いないと思います。恩人でもあり、自分の暗い幼少期を思い出させる存在でもある非常に複雑な関係性がある中で、今は信長傘下の一員になっているわけですから、わかりやすく言えば「信長様の言ったことは絶対」。言うことを聞かなきゃいけないんですよね。一方で、「あの人を超えられない」という歯がゆい思いをしているところもあります。そこに加えて、小一郎や藤吉郎がくっついて回るわけで、時に3人が熱くなっているのを、より俯瞰で見てしまう自分がいますね。

――絶対的な力を持つ信長を小栗旬さんが演じていますが、印象はいかがでしょうか?
もう360度、どこから見ても信長ですね。近くでお芝居を見せていただけて、いつもありがたいなと思います。目と目が合うと、かっこよくて、見とれてしまって一瞬セリフが飛ぶんですよ。それぐらい迫力と、男らしさがある。でも普段はとても優しく接してくださいます。小栗さんには「後輩思い」というイメージがあると思いますけど、そういうことも含めて「人思い」な方だと思いました。
――では仲野太賀さん、池松壮亮さんの印象は?
言葉で説明するのが難しい、形容しがたい魅力を、おふたりとも持っていると思います。お芝居がすごく軽快なんです。クランクインしてから時間もたっているので、阿吽の呼吸で、小一郎、藤吉郎の会話は、見ていて、聞いていて、気持ちがいいです。何故なんだろう? とずっと考えていたのですが、おそらく役が染み込んでいるからなんだろうな、と。それは見ていてすごく羨ましいな、と思います。
僕はまだ撮影がそんなに多くないので、現場に入ると「あれ? 家康って、どんな喋り方だったかな?」と思うことが、たまにあるんです。そうすると頭の中でいろんなことを考えてしまって、ちょっと芝居が「重く」なってしまうんです。それがあのふたりにはなくて、考える前に言葉が出ている。その軽快さが魅力的だと感じます。でも、不思議なことに、言葉を受け取るとずっしり重い。不思議な魅力を持ったセリフをいつも渡してくれて、勉強になります。
豊臣兄弟の何ともチャーミングで、熱くて、まだ若いけれど力強く未来を見据えている姿を、しかもそれを太賀くんと池松くんが演じていて、撮影現場で、すぐ近くで見られているだけで「なんて僕は幸せなんだろう」と、いつも思っています。

――おふたりの芝居に引っ張られている部分もあったりしますか?
もちろんです。あのふたりがいるから、この作品は“成立している”と思います。だから早く、がっぷり四つに組んで、お芝居をしてみたいなと思っています。まだちょっと身分が違うので、あまり会話のラリーがないんですよ。この先、たくさんキャッチボールをしたいですね。
――後に家康は豊臣兄弟の最大のライバルになっていくわけですが、今は身分の差があります。家康はこれからふたりをどんなふうに受け止めていくと思われますか?
今後、だんだん家康がこのふたりをだんだん脅威に感じていく様子が、グラデーションのようにわかりやすく描かれていきます。この兄弟の力、存在そのものに対して、家康が少しずつ怯え出していく感じで……。家康が気に留める対象ですらなかったふたりが、信長の下で家臣になり、家老になり、だんだん自分に近づいてきたのを目の当たりにする。しかも、そのやり方が家康とは真逆で、この兄弟は情熱、パッション、熱い心を持ちながら突き進んでいく。それが非常に、家康の背中をゾワゾワとさせていくんじゃないかなと思います。

――後々、天下を手にする家康の片鱗を、今描かれているところで感じることはありますか?
ここが難しくて、あまり逆算ができないんですよね。八津さんの描き方にもよるな、と思っていて。正直、そこを「後々こうなる人だから、今、ここで何か振っておこう」みたいなことは、あまり考えてないです。台本を読んで自分に見えている部分だけを考えて。それで悩んだら、監督さんに相談したりしていますけれど、今は今、という感じです。
――改めて、松下さんが考える「豊臣兄弟!」の魅力や見どころを聞かせてください。
膨大な数の史料があり、研究者の方がいらっしゃいますが、視聴者の皆さんには何が史実なのかは一旦置いて観ていただけたらと思います。自分が生きたことのない時代ですし、僕自身は戦国時代って、ある種のファンタジーのようにも感じていたんですね。それが「豊臣兄弟!」で大きく覆されて、めちゃくちゃ人間らしく、特に豊臣兄弟のふたりは妙にリアルで。壮大なファンタジーでありつつも生々しい人間ドラマで、ご覧になった方も、一人一人の登場人物に自分を重ねられるんじゃないかなと思います。
もちろん、現代には、同じような状況、同じような境遇の方はいないと思いますが、それでも苦しみや困難に立ち向かう姿に、現代に生きている我々も背中を押されることがあるはず。それぐらい、登場人物たちの笑顔や涙がすごく人間らしくて、素敵だなと思います。そこが「豊臣兄弟!」の大きな魅力ですね。