スペシャル時代劇「眠狂四郎」の会見が行われ、主演の長谷川博己をはじめ、菜々緒、坂東彌十郎、制作統括の土田真通、髙橋練、演出の一色隆司が登壇。令和版「眠狂四郎」に込めた思いや制作の舞台裏を語った。
海外に打って出られるような時代劇を
柴田錬三郎の剣豪小説シリーズ『眠狂四郎』は、市川雷蔵、片岡孝夫(現・片岡仁左衛門)、田村正和ら名優たちによって映画・ドラマ化されてきた不朽の名作だ。江戸後期を舞台に、名刀・無想正宗を携え、必殺の「円月殺法」を操る孤高の浪人・眠狂四郎の戦いを描く。この令和に、NHKが東映京都撮影所とタッグを組み、新たな「眠狂四郎」に挑んだ。
まず、制作統括の髙橋練が、何故いま「眠狂四郎」を制作するのか、その経緯と長谷川博己を起用した理由を話した。
髙橋 NHKで時代劇がさまざまな形で支持を集める中、海外にも打って出られるハイクオリティーな時代劇を作れないかという思いが企画の出発点でした。誰もが知っていて、しかし近年はなかなか映像で見られなかった作品の候補として、東映の土田さんたちと話していく中で、眠狂四郎は? と盛り上がりました。誰が演じるか、となった時に、真っ先に浮かんだのが長谷川博己さんでした。長谷川さんは大河ドラマ「麒麟がくる」以来のNHK時代劇です。
ドラマ自体は活劇で、ある種の恋愛ドラマでもあり、悲劇的な要素もあります。いま、正義について声高に語る人が多い時代だからこそ、それらを否定するようなダークヒーローの物語を魅力的に描けたのではないか。ドラマを超えたドラマで、素晴らしい出来になったと自負しております。
続いて、東映の土田真通が時代劇撮影にあたってのこだわりを語った。
土田 NHKさんから、「世界に出せる時代劇を作ろう」というお話をいただき、東映と東映京都撮影所が総力を尽くしてこの作品に挑みました。
実は、田村正和さんがかつて使用していた着物や刀が撮影所に大事に保管されていまして、それに触れる機会がありました。その質感やこだわりから、名作を受け継ぐ責任の重さを実感しました。
その重圧を逆にモチベーションにして、スタッフ一同、非常に強いやる気を持ってこの作品に臨みました。特に主役の長谷川さんは、誰よりも真摯に眠狂四郎と向き合って、新しい狂四郎を作ってくれました。
アクションシーンも従来とは異なる表現を目指し、長谷川さんのこだわりを形にしたことで、新しい時代劇アクションが生まれたと思っております。世界に出しても恥ずかしくない作品になったと自負しております。
「49歳でこの役やるのは、結構きつい」

続いて、登壇した3人がそれぞれ作品や役について語った。
長谷川 以前、NHKの方に、「朝ドラと大河をやったら、しばらく呼んでくれないんですかね?」と聞いたら、「そりゃそうですね」と言われて、6年経っちゃいました(笑)。でも、こうやってまた呼んでいただけて、すごくうれしいです。
眠狂四郎は昔から好きで、出演依頼にはほとんど二つ返事で応じたんですけれど。先日、僕、49歳になりまして、この年齢でこの役をやるのは結構きついな、ということを撮影が始まってから感じました……。調べると、雷蔵さんや仁左衛門さん、田村さんたちは当時20代後半くらいだったんです。もう始まっちゃったものはしょうがないと言って必死に挑みましたけど、なかなか手強くて苦労しました。評判が良ければシリーズになるそうですが、評判が悪ければ解散になると思います(笑)。

神出鬼没の女盗賊・女狐役を演じる菜々緒。
菜々緒 私は10年ぶりの時代劇出演です。太秦の撮影所を訪れるのも久しぶりで、どんな心構えで臨めばいいのか、とても緊張していました。でも、現場ではみなさんが温かく迎えてくださって、殺陣の稽古なども入念に準備をして、本番に臨みました。着物でお芝居するのは結構大変で、汗だくになりながら一生懸命頑張りました。所作の先生に褒めていただけてうれしかったです。

狂四郎と深い因縁があり、切支丹弾圧を容赦なく行う江戸幕府の大目付・松平主水正役を務めるのは坂東彌十郎。
坂東 松平主水正はただの悪ではなく、自分の中では正義なんです。切支丹弾圧をすることこそが日本を守ると疑いなく信じている。たとえ自分の家族であろうと情に流されない、そういう一途なところをどうやって見せられるか。私が普通に言うと悪い人に見えちゃうので、彼が信念で生きている人物に見せたい。なおかつ悪く見えないと狂四郎との釣り合いもあるので、自分の見せ方はいろいろと考えました。
眠狂四郎は雷蔵さん、仁左衛門さん、田村正和さん、全部拝見してきましたが、この作品は、ちゃんと長谷川さんの眠狂四郎になっていました。いい作品になっているなと思いました。
実は時代劇、久しぶりでございます。65年前には、撮影所の近くの幼稚園に行き、走り回っておりました。父が東映にいたものですから、懐かしい撮影所に久々に伺うことができ、とても楽しかったです。長谷川さんが、真摯に打ち込んでらっしゃるのを見て、僕も迂闊なことはできないな、と責任を感じておりました。
演出の一色隆司は、長谷川とは「麒麟がくる」以来のタッグとなる。
一色 眠狂四郎は長谷川さんだろうと思って電話をしたら、二つ返事で受けてくださったのが衝撃的でした。現場では濃密な芝居と殺陣を両立させながら、数多の名優が演じてきた眠狂四郎を長谷川さんが令和にどう演じるのか、様々に試行錯誤しながら一緒に作っていきました。
このダークヒーローの誕生譚には、現代に通じる何かがあるのではないかとみんなで考えました。長谷川さんとも意見を交わしながら、いろいろやりたいことを出し合って育てていった作品です。
新しい令和の眠狂四郎を作れたら

長谷川自身も、過去の名優たちが演じた眠狂四郎を観たうえで、みんなが抱く眠狂四郎のイメージを踏襲しつつ、新しいものを作りたいという気持ちがあったという。
長谷川 時代劇には、ある種の芝居の型みたいなものがあり、それを新しいものにするためにどう壊していけるかというところに楽しさがありました。今まで名優たちが演じてきた眠狂四郎を目指そうと思っても到底できないので、みなさんのイメージを少し踏襲しつつ、新しい令和の眠狂四郎を作れたらなという気持ちもありました。
完全にぶっ壊して新しいものを作ってみるっていうのも面白いなと思ったんですけど、眠狂四郎という役柄の持つ圧倒的なオーラがあって……、田村さん、片岡さん、雷蔵さんが感じられたことを僕も感じられた気がします。いい経験ができました。眠狂四郎というのは怪物ですね。
あと、スタッフの方から「ちょっとドラキュラに見える」と言われて、なるほどな、と。確かにあるかも、と思ったので以降はそういうところも意識しました。
一色は、眠狂四郎のビジュアルを作り上げるために、造形テストを何度も行い、かつらやメイクも何度も試したという。
一色 吸血鬼みたいに見えるということで、映画『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』などを観たりして、ノンバイナリー的*な要素を取り入れました。、魅力的で、ミステリアスで、性を強く感じさせないイメージでという話をしていたら、長谷川さんご本人もどんどんそっちの方向に行ってくださいました。
*…男性、女性という二元的にはとらえられない存在。
太秦には、役者たちの魂が染み込んでいる
一色によると、女性が登場する、あるシーンではインティマシー・コーディネーターを入れてどう表現するかを考え、眠狂四郎の残虐性についても表現の方法を模索したという。
長谷川 原作は柴田錬三郎さんの大衆小説なので、昭和の作品では少しエッチな感じや残虐な場面がかなりストレートに描かれていました。今はなかなか難しいのですが、今回も相当踏み込んで挑戦していると思います。
昔、子どもの頃に観ていた時代劇って、ハラハラドキドキして、すごく怖いけど見たい、という感じだったんですよね。僕の中では、幼い人たちにも印象に残るようなものができたらいいなという気持ちがありました。
最後に出演者たちが撮影所で印象に残ったことを語った。
坂東 私は、撮影所で初めて長谷川さんにお会いしましたが、初めてお会いしたときからすでに眠狂四郎だったんです。すごいなと思いました。そのことをよく覚えております。
菜々緒 殺陣のシーンが一番印象的でした。
長谷川さんと眠狂四郎の姿で会ったときに、役の入り方が凄まじく、ちょっと怖さを感じるほどでした。いざ、アクションシーンが始まると、長谷川さんが遠慮して、私に当たらないようにしていらっしゃったのが印象的で面白かったです。
長谷川 菜々緒さんとのシーンでは、できるだけ当てたくないって思ってました。1回はうまくいったんだけど、撮り直した時に一瞬、足に当てちゃったんですよね。それで怖くなっちゃって、当てたくないなと思いながらテストでやったら、俺の優しさが出ちゃっていました(笑)。
太秦の撮影所は、昔から多くの役者が撮影をしてきた場所なので、役者たちの魂が染み込んでいるような雰囲気がありました。田村さんが撮影されていた時、眠狂四郎の歩き方のまま撮影所を後にしていたという話を伺って、自分もそれを真似する、というか、眠狂四郎の気持ちを持ち続けたいと思いました。
東映の撮影所は、いろんな俳優さんたちがすぐ近くにいて、メイク室も同じだったりするので、「これだよな、撮影所は」と思いました。この雰囲気をずっと継承していきたいと思いました。
【あらすじ】
将軍・徳川家斉の下、老中・水野忠成(西村まさ彦)と水野忠邦(木村了)が幕閣内の権力争いで激しくしのぎを削る文政の世。名刀・無想正宗を携えた謎の浪人・眠狂四郎(長谷川博己)が江戸に現れる。狂四郎は老中忠邦の側近・武部仙十郎(宅麻伸)から、忠邦を狙う刺客を倒すよう密命を受けたのだった。一刀のもとに刺客を斬り捨てる狂四郎だが、絶命した刺客の首にはロザリオがあった。
狂四郎は後日、右腕の金八(森永悠希)を使って刺客の妹・茅場静香(黒島結菜)を探り当てる。狂四郎は形見のロザリオを渡し、兄を斬り捨てたことを告げる。自身も熱心な信者である静香は、切支丹仲間の身を案じ、信徒たちを束ねる豪商・備前屋(神保悟志)に助けを求める。備前屋は屋敷の地下に礼拝堂を作り、信仰の場として提供していた。そして信徒たちを守るため、手だれの武士たちを狂四郎暗殺に差し向ける。
同じころ、大目付・松平主水正(坂東彌十郎)は忠邦の失脚をもくろむ老中・忠成の命を受け、忠邦と通じる狂四郎を狙うよう腹心の剣豪・戸田隼人(高橋光臣)に命じていた。そして女盗賊・女狐(菜々緒)も金の匂いを嗅ぎつけ、狂四郎と金八の動きを追っていた。狂四郎を倒すべく、敵味方が入り乱れ、激しい戦いが始まろうとしていた……!
スペシャル時代劇「眠狂四郎」(89分)
3月24日(火) 総合 午後10:00~11:29
※NHK ONEでの同時・見逃し配信予定(ステラnetを離れます)
原作:柴田錬三郎
脚本:酒井雅秋
音楽:池頼広
出演:長谷川博己
黒島結菜、高橋光臣、森永悠希、今野浩喜
菜々緒、佐藤江梨子、原沙知絵、本田博太郎
神保悟志、西村まさ彦、宅麻伸、坂東彌十郎 ほか
制作統括:谷口卓敬、髙橋練、土田真通
プロデューサー:土井健生
演出:一色隆司
制作:東映京都撮影所、NHKエンタープライズ
制作・著作:NHK
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