「今年NHKでレギュラー放送化された番組で1番面白いかもしれない」と感じているのが「未来予測反省会」(NHK総合)。同番組は昨年4回にわたって単発番組として放送されたあと、今秋からレギュラー化されました。

番組のコンセプトは、「いつの世も人類は未来を予測したがる。だが、未来予測は間違いだらけ? なぜ、未来を見誤ったのか。過去の予測を冷静に振り返り、ハズれた原因、想定外の世の中の変化などを検証する“未来予測検証番組”」。こう書くと「難しそうな番組」と感じるかもしれませんが、教養とエンタメを併せ持つ全世代対応型の番組として放送されています。

たとえば各回のオープニングでは「間違いだらけの“未来予測”なぜ見誤ったのか……過去の未来予測を検証すると人類の行く末が見えてくる」というナレーションに合わせて、「月に街ができる」「脳にコンピューター」「海に浮かぶ東京」「人工の太陽」という文字が浮かび上がり、クスッと笑わせられます。

「そんなのできるわけないだろ!」と思いきや、実は数十年前、本気でそれを予測している人がいた。そんな夢想と現実のギャップが魅力の番組であることは間違いないでしょう。ただ、番組を掘り下げていくと、それ以上に引き込まれる理由があったのです。


CGを絡めた新旧の専門家が集う

そもそも「失敗ありき」のコンセプトは貴重であり、NHKならなおのこと。さながら“逆プロジェクトX”というムードがあり、「名だたる専門家たちの反省の弁が聞ける」ことが第1の見どころとなっています。

11月25日放送回「労働時間は1日3時間になる」より

前回放送の「労働時間は1日3時間になる」では1930年イギリスの経済学者が登場しましたが、MCの影山優佳さんは「本日、天国からお越しいただいたのは、労働時間についての未来予測をした経済学者のジョン・メイナード・ケインズさんです」と紹介。故人のため、CGキャラクターがしゃべり出す……というゆるさが良い意味で視聴のハードルを下げています。

さらにスタジオには労働経済学者など3人の専門家が登場。「過去に未来予測した専門家と現在の専門家が集まり、反省会を開く」という構成で“労働時間”というテーマを掘り下げていきました。

「なぜテクノロジーの発達で生産性は向上したはずなのに労働時間は減っていないのか」という入口から、産業革命、労働基準法、オイルショックなどの歴史的な話を経て、一般企業の事務職で45年働き続けたヤスミさん(CGキャラ)が登場。

11月25日放送回「労働時間は1日3時間になる」より

そろばん→電卓→表計算ソフトへの進化や手書き→ワープロ→パソコン文書ソフトへの進化という具体的なエピソードを披露したあと、「人間の欲を見逃していた」「もっと遊ぶと思いきや、もっといい生活を求めて働くことを選んでいる」という未来予測が外れた理由が語られました。

さらにケインズさんの母国・イギリスの労働時間は1日6時間ほどであり、実は日本も生産拠点の移転や働き方改革などで、ほぼ同じ水準であることもピックアップ。未来予測よりゆるやかではあるが労働時間はジワジワと減っている。しかし、人々の欲がどうなるかはわからない。反省会だからこそ未来を再び無責任に予測するのではなく、視聴者の感覚にゆだねるような着地点に心地よさを感じさせられます。


テーマはジャンルレスでハズレなし

10月28日放送回「日本のクマは絶滅する」より

さらに過去の放送テーマをさかのぼっていきましょう。

「2020年ごろ東京に1,000mの超高層ビルが建つ」「台風の進路を変えられる」「散髪ロボットで理美容師がいなくなる」「日本のクマは絶滅する」「野球のピッチャーの球速は180km/hになる」「日本人男性の平均身長は175cmになる」「20世紀に人と動物は自由に会話ができる」「家庭料理はなんでも自動調理機が作ってくれる」「風呂はロボットが掃除してくれる」「空飛ぶクルマで自由に移動できる」「石油は30年でなくなる!?」

経済、気象、動物、スポーツ、身体、家電など、まさにジャンルレス。「そんな予測があったのか」と思わせられるとともに、「1000mのビル」「球速180km/h」「平均身長175㎝」「石油は30年」と具体的な数値を掲げたテーマが選ばれているところに引きの強さがうかがえました。さらに番組全体を見てみると……「大成建設が1990年に4000mの超高層ビルを構想していた」なんてエピソードが飛び出してくる楽しさもあります。

なかでも象徴的だったのは視聴者の多い23日の日曜午後に「日本のクマは絶滅する」が再放送されたこと。約4週前の10月28日に放送したばかりでしたが、それだけタイムリーなテーマだったことの証であり、制作サイドの確かな目利きを感じさせられます。

クマのCGキャラ

この放送回ではクマのCGキャラが登場。「勝手に『絶滅する』とか言われて黙ってるわけにいかねえべ」「冬眠の寝起きを襲われるなんてたまったもんじゃねえべ。オタクらがよくやってる“寝起きドッキリ”とはワケが違う」「ハチミツと同じくらい人間をなめてるよ」「あん時、絶滅を心配してくれてありがとね」などと笑いをはさむ構成のうまさで、親子で見られる番組に昇華させています。


挑戦者たちのロマンと情報の凝縮

11月18日放送回「2020年ごろ東京に1,000mの超高層ビルが建つ」より

入口は“反省会”というネガティブなものでありながら、番組全体の対部分はポジティブなムード。「空飛ぶクルマ」「動物と会話」「超高層ビル」などのロマンを感じさせるものが多く、それに挑んできた長い歴史や熱い思いにふれられることが醍醐味だいごみの1つとなっています。そんな骨太さから「もう1つの『プロジェクトX』」と言っていいのかもしれません。

また、このようなネタバレ型のコラムを躊躇ちゅうちょなく書けるのは、それ以上に興味深い情報が凝縮されているから。つまりこのコラムの先にもっと面白い映像があるから、これくらい書いてもまったく影響がないということです。各回のテーマだけを見ると「出オチではないか」「大風呂敷では?」などと感じるかもしれませんが、それ以上の内容を担保していることが前提の番組なのでしょう。

MCの影山優佳

出演者に目を向けると、MCの影山さんは八面六臂ろっぴの活躍。専門家たちに「どうして?」と話を振り、足りなければ「〇〇なんですね」と補足を促し、予測が外れたことに「今のお気持ちは?」と軽めの毒も放ち、時折インテリタレントらしい博識も見せるなど、全方位型のMCとなっています。

出演の長谷川忍(シソンヌ)

影山さんの元アイドルらしい華やかさが硬いテーマにやわらかさを添えている一方、コンビを組むシソンヌ・長谷川忍さんは「いろいろ知らない」というキャラクターを徹底。視聴者目線を担っているほか、ランダムに放たれるCGキャラのボケにツッコミを入れています。

12月2日の次回放送「人工冬眠で寿命が延びる」でいったん終了となってしまうのが惜しまれますが、評判の良さから半年後か1年後の“第2シリーズ”を期待していいのではないでしょうか。「まだ見たことがない」という人は忖度そんたくなしで“第1シリーズ”の最終回をおすすめさせていただきます。

コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。

NHK公式サイトはこちら ※ステラnetを離れます