前回のコラムで「今年NHKでレギュラー放送化された番組で一番面白い」番組として「未来予測反省会」(NHK総合)をあげましたが、今回は「今年NHKでレギュラー放送化された番組で一番熱い」番組をピックアップ。
それが「激突メシあがれ~自作グルメ頂上決戦~」(NHK総合)であり、“NHKがゴールデンタイムで放送する必然性”や“民放ではなかなか見られない熱気”であふれています。
同番組は2024年に2回パイロット版を放送したあと、2025年4月に水曜ゴールデン帯でレギュラー化。ここまで25回の放送がありましたが、どんなところに熱さを感じさせられるのでしょうか。
あえて“アマチュア料理人”を選択
番組のコンセプトは、「アマチュアが趣味でこだわりを詰め込みまくって作る『自作料理』。ラーメン、カレー、スイーツと多種多様。自由な発想で作られる“自作グルメの腕自慢”は、毎回笑いあり、涙あり。新感覚の『人間グルメドキュメント』を、メシあがれ!」。

番組内でも「アマチュアたちがおうちで磨いてきた技を披露する」と紹介されているように、主役は芸能人ではなく一般人。しかも年齢、経歴、居住地などの異なる出演者が競い合う様子は希少性が高く、企画の段階から公共放送のNHKらしさを感じさせられます。
ちなみに民放の一般人参加番組は、ほぼ絶滅状態。事実上、最後の砦だったクイズ番組の「アタック25」(テレビ朝日系)や「99人の壁」(フジテレビ系)なども地上波から消えて、一般人がテレビに映るのはその大半が街頭インタビューやショップ店員などのみになっています。
「この番組をコラムに書いてみよう」と思い、あらためて直近3回分の放送を見直してみました。各回のテーマは、「手みやげにしたい! とっておきドーナツ」「ふたを開ければ笑顔になる秋弁当」「年中食べたい! もちの可能性を広げる絶品もち料理」。

最も当番組の魅力がわかりやすく表われていたのは「秋弁当」でした。
ルールは「試作期間1か月」「食材費1人前1,000円以下」であり、出場者は50代の弁当インフルエンサー主婦、料理教室で腕を磨く10代の高校生、50代の幼稚園調理補助の3人。しかも弁当のコンセプトは「映える」「洋風」「頑張りすぎない」と三者三様であり、どんな経歴を持つ人のどんな料理が勝つのか……興味をそそられました。
勝って涙、負けて涙のエンディング
番組の大半を調理シーンが占めていますが、ポイントは審査員による調理の解説や実践的なアドバイスが聞けること。秋弁当の審査員は、お弁当コンサルタント、伝説の家政婦の2人でしたが、具体的なコメントによって、単なるアマチュアのコンテストではなくレシピ番組としての魅力がプラスされていました。
言わば、令和のアマチュア版「料理の鉄人」のようであり、出演者が一般人だけに即日使えるレシピ投稿アプリのようでもある、ということ。そんな実用性に加えて、プロ顔負けの技術、プロとは異なる発想、その一品に懸けるプロ以上のこだわりなどが熱気につながっています。

45分番組ですが、おおむね調理30分・審査10分・結果発表5分という構成。一般人の参加番組だけに審査員や芸能人ゲストのコメントは常に優しさが感じられます。なかでも特筆すべきは結果発表で、勝者へのコメントに留めず、敗者2人への講評もしっかり放送していること。出演者をリスペクトしつつ、勝者と敗者を分けた差をシンプルに伝えることが、本人だけでなく視聴者の納得感につながっています。
長年積み重ねてきた実績や思いがあるほか、この日のために全力で準備してきたこともあって、出演者たちは勝って涙、負けて涙……。「できることはすべてやった」という達成感と「やっぱり勝ちたかった」という悔しさが入り交じった姿は甲子園大会のようなムードを感じさせられます。

さらに秋弁当の放送回では最後に収録後の風景も映され、出演者3人が応援で訪れた家族や友人に料理を振る舞うシーンも。家族にとっては誇らしい母や娘であり、「彼女の弁当が世界一おいしい」という思いが画面から伝わる感動的なエンディングでした。
主演と助演の描き分けがハッキリ

「ドーナツ」の出演者と料理は、100以上の受賞歴を持つレシピコンテストハンターが「奈良の食材を使ったドーナツ」、薬剤師が「白神酵母を使ったドーナツ」、海外駐在経験を生かした投稿者が「北欧アレンジドーナツ」。
「もち」の出演者と料理は、主婦が「もちピタパン」、調理科の男子高校1年生が「もちカツ丼」、町工場勤務の男性が「もちのうなぎ風茶漬け」を作りました。
やはり年齢、経歴、料理がバランスよく構成され、それがエンタメ性を高め、感情移入を促すなどの見応えにつながっています。

さらに感心させられたのは、「ドーナツ」の審査員が人気ドーナツ店のオーナーでありながら、店名や商品の紹介を一切しなかったこと。「審査員を依頼しておきながら、店の宣伝はご遠慮いただく」というスタンスはいかにもNHKらしいところ。あくまで主役は一般人であり、“主演”と“助演”の描き分けがハッキリしているところにこの番組の魅力を感じさせられます。
もう1つ制作姿勢で感じさせられたのは、NHKの番組にしてはテロップが多く、しかもカラフルであること。調理シーンのカメラアングルなども含め、レシピ番組としてのわかりやすさや便利さが優先されています。
もし民放の制作だったら……令和の現在でも「料理の鉄人」のように派手な演出の番組になったのではないでしょうか。一般人の動画投稿が浸透したこともあって「“等身大”や“自然体”のほうが面白さを感じる」というムードもあるだけに、抑えの効いた演出は令和の王道にも見えました。
今後の鍵を握りそうなのは、“人生賛歌”と“ガチンコ感”のバランスでしょうか。心から好きなことを追求し、緊張感を楽しさが凌駕していく姿は無条件で輝いている一方、それだけでは飽きられてしまう可能性もあるでしょう。
だからこそテーマによっては「絶対に負けたくない」という関係性のマッチングをもっと採り入れるなどのメリハリを見せてほしいところ。まだまだ日本全国には多くの熱いアマチュア料理人がいるだけにどのように発掘していくのか。制作サイドが出演者に負けない熱さを持つことが番組の持続性を左右するのかもしれません。
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。
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