怪談がきっかけで心を通わせるようになり、昨年末にお互いの気持ちを確認した松野トキ(髙石あかり)とレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)。連続テレビ小説「ばけばけ」も後半に突入し、改めてレフカダ・ヘブンを演じるトミー・バストウに、撮影にどのような気持ちで臨んでいるか、撮影現場での様子、日本での暮らしなどについて話を聞いた。


僕たちは最初から“夫婦”として出会っている

──ついにトキ(髙石あかり)と夫婦になりましたね。どんな思いで撮影に臨まれたのでしょうか?

ちょうど14週の台本が届くころ、髙石さんから「14週の台本、読んだ? もう2人は結婚したよ!」と聞いて知りました。だから、一瞬、「え! もう? いつ?」と混乱しましたが、すぐに僕たちは夫婦の雰囲気でお芝居をすることができました。

というのも、実は収録が始まるよりも前に、あのオープニングでの写真を先に撮影したのもあって、僕たちは最初から“夫婦”として出会っているんです。なので、出会った瞬間から、その関係が自然に出来上がっていました。むしろ結婚する前のほうが、意識して“夫婦らしくなく”お芝居していたと言ってもいいかもしれません。

──写真を飾り、熱心に手紙を書いていたイライザさん(シャーロット・ケイト・フォックス)との再会に、心は揺れなかったのでしょうか?

イライザはとても積極的だったものね(笑)。でも、それも心が離れた理由だったかもしれません。彼女とはずっと文通をしていて、その距離と時間が、2人の関係をロマンチックなものにしていたんです。でも、実際に生身の彼女に会って、その独占欲みたいなものに触れた時、ヘブンは逃げてしまった。あのシャーロットの演技は素晴すばらしかったですね! そして、イライザが象徴する「西洋での生活」からも気持ちが離れていたんだと思います。

ヘブンは、幼い頃に両親に捨てられて、それからずっと、「家」と呼べる場所を探していました。そして、トキの中にそれをついに見つけたんです、彼女は、放浪の人だった彼を受け止め、安らぎを感じさせてくれる初めての女性でした。

イライザが去り、銀二郎(寛一郎)が去ったあと、僕たちは「怪談」という素晴らしい経験をともに分かち合いました。そしてトキの手を握ったとき、彼女が手を握り返してくれた。人生で多くのトラウマを抱えてきた彼にとって、それは決定的な瞬間でした。愛が言葉を超えたのです。


トキと銀二郎のシーンには、ジェラシーを感じた

──一方、トキの前の夫、銀二郎の登場もありました。視聴者には大人気だった銀二郎ですが、ヘブンのここは銀二郎に負けていない! というポイントはどこだと思いますか?

トキと銀二郎のシーンには、僕自身もジェラシーを感じました(笑)。でも、なぜあの2人がうまくいかなかったか? これは、生きていく中で大切にしているものに違いがあったからだと思っています。お金を稼いで成功した銀二郎は、ある意味、とても「西洋的」なんです。

対して、ヘブンが求めているものは「家族」。そしてトキも同じく大切にしているものです。また、2人とも過酷な生い立ちのせいで、子ども時代を子どもらしく過ごすチャンスがなかった。ところが、「怪談」を語っている時、聞いている時には、2人は一緒に子どもでいられる。そんな共通点が、ヘブンとトキを結びつけたのではないかと僕は思っています。


すべては、相手へのリスペクト

髙石さんとの共演によって、相手の話を「聞く」ことがうまくなったと感じています。初めて外国語で演技をして、しかもロマンチックなシーンを演じるということは、相手の言っていることに全身で注意を向けないといけませんから。
また、「相手に委ねる」ことも学びました。全てのシーンを自分でコントロールしようとするのではなく、共演者を信頼すること。ただその場にいて、相手の話や動きを受けることで自分が影響を受け、また相手に影響を与える。演技ではなく、生の感情に任せるということです。髙石さんは、そういったことを僕に教えてくれました。こういうお芝居を、コミュニケーションをとりながらできる人と共演できたことを、とても感謝しています。

──これから、「夫婦」を演じていくにあたって、どんなことを大切にしたいと思っていますか?

すでにうまくいっているので、それほど意識はしていませんし、自然とどんどんよくなっていくでしょう。それに、僕と髙石さんが送っている日々も、まさに夫婦になりたてのヘブンたちと同じ──たぶん、ハーンさんとセツさんが歩んだのと同じ旅なんです。すごくいろいろ話する日もあれば、お互いに自分のことだけでいっぱいな日もある。ただお互いを理解し、必要な時には距離を置き、あるいは手を差し伸べ、支え合う。すべては、相手へのリスペクトだなと感じています。だから、質問への答えは、髙石さんのニーズを理解するために時間をかけること、ですね。

──具体的に、髙石さんのこの演技は素晴らしかった! と印象に残っているシーンはありますか?

ヘブンがトキに向かって「松江に残っていいか?」と尋ねるシーンです。実は最初に台本を読んだ時は、そこまでエモーショナルなシーンだとは思っていなくて、もっと淡々としたシーンになると思っていたんです。
ところが、いざ演じてみると、彼女の表情と演技の中に、僕が松江を去る痛み、あるいは僕が残ることが彼女にとって何を意味するのか? が込められていて……。僕はそこで初めて、ヘブンが、トキにとってどんな意味を持つ存在なのか、本当に理解できた気がしました。これは、僕にとって、かなり感動的な体験でしたね。

――日本での暮らしはいかがですか? 最初の印象と何か変わってきましたか?

そうですね、変わりました。今は、いろいろなことを「普通」に感じます。
というのは、異文化に対して、ロマンチックに感じたり、逆に悪く捉えたりするのは、その文化を自分の偏見で見ているから。でも実際に、そこに住んで、まして一緒に仕事をすれば、それはただの「生活」になります。もちろん、文化の違いは尊重しつつも、自分がここにいる目的を持ったことで、皆をひとりひとりの人間だ、と普通に受け止められるようになりました。

ヘブンもまた、その「文化の違い」を強く意識していた人です。自身が身を置いていた西洋の、特に資本主義的な部分を嫌っていました。だからこそ、自分が愛する日本の美しさや繊細さが、近代化によって失われてしまうことをとても恐れています。これまでの松江はその点で、本当にヘブンの期待に応えた土地でした。でも、これからどうなっていくのでしょうか。

これからとうの展開が続きます。ご期待のうえ、最後までこの魅力的な物語を楽しんでくださいね!