松野トキ(髙石あかり)を雨清水家から養女として授かり、妻・松野フミ(池脇千鶴)、父・松野勘右衛門(小日向文世)とともに大切に育ててきた松野司之介。明治に入って松江の上級武士だった松野家は没落し、収入を得ようと投機的な事業に手を出して大失敗し、大きな借金を抱えてしまいました。不器用で家族に迷惑をかけてばかりですが、家族への愛は変わらず、松野家のムードメーカでもある司之介を演じるのは岡部たかしさん。岡部さんに「ばけばけ」撮影を振り返っての感想や、松野家の面々との楽しい共演の様子、今後の展開について話を聞いた。
出演していないシーンは、素直に一視聴者として楽しんでいます
──「ばけばけ」の放送も折り返し地点を過ぎました。今、どのようなお気持ちでいらっしゃいますか?
視聴者の方や周囲から「面白い」と言ってもらえることが多くて、本当にうれしいです。ご飯を食べに行ったお店で、お客さんから「いつも楽しみにしてます」と声をかけていただいたり、僕がプレゼントした「ばけばけ」Tシャツを着てくれているスタッフがいたりね。そんな応援がとても励みになってます。
「ネタバレになるから、先のことはまだ言わんといてや〜」という声もあったりして。「ばけばけ」は、時代劇ですが、歴史的な大事件ではなく、日常の小さな出来事を細やかに描いているのが特徴で、それが魅力だと思っています。この独特なテンポを視聴者の皆さんも楽しみにしてくださっているんだなぁと、うれしく思いましたね。
──岡部さんご自身も、テレビの放送でご覧になっているとか。
はい、そうなんです。毎回リアタイとはいきませんけど、自分が出演していないシーンについては、素直に一視聴者としてテレビの前で楽しんでいます。もちろん、台本では読んでいますけど、映像で見ると、「あそこ、こんなに面白いシーンになってたんか!」って、毎回新鮮なんです。
好きだったのは、ヘブン先生の言う「ビア(ビール)」がなかなか通じなかった回。あと、それぞれが下手スキップをするシーンは笑っちゃいました。自分が出ているシーンでも、撮り終わるとどんどん忘れていきますからね、改めて放送で見て、「やっぱり、ふじき君の脚本はすごいな〜」と実感させられます。
──ふじきみつ彦さんとは古い仲だとおっしゃっていましたね。その後、何かお話をしましたか?
「撮影は好調だよ」「評判いいよね」というような簡単なやり取りはたまにしています。ただ、ふじき君は「よかったよ」的なことを言って僕を褒めてくれるタイプではないので。でも、同じく古い仲である劇作家の山内ケンジさんは、「毎回見ているし面白い」とおっしゃってくれて、信頼している方にそう言ってもらえると、ホッとしますね。僕のことを言っているわけではないと思いますけど(笑)。

──これまで演じてきた中で、いちばん印象的だったシーンも教えてください。
なんと言っても、第14週のトキとヘブンの結婚パーティーです。トキとフミ、タエの母娘のわだかまりが解ける大事なシーンでの髙石あかりちゃんの表情はすばらしく、忘れられません。撮影では、同じシーンを何テイクも重ねてやるのですが、彼女はそのつど毎回、声をあげて本気で泣くんです。まるで、赤ちゃんが泣きながら初めて「ママ」って言うみたいに、見ているこっちも毎回泣きそうでした。今、思い出しても涙が出そうです……。
長回しの撮影で、最後にトキが「ママさん」と言うところを勘右衛門と司之介は家族としてただ見守っていることしかできなかったのですが、撮影現場の一体感も含めて、とても印象に残ってます。その分、最後に「だらくそが!」と叫ぶシーンは楽しかった! あれは、とっても松野家らしさが出たシーンだと思っています。
ヘブンに頼って生きていきたい(笑)
──トキとヘブンの結婚によって、松野家にも大きな変化が訪れました。父・勘右衛門が家を出て、新たな家族としてヘブンが加わりました。新生・松野家の雰囲気はいかがですか?
これまでは、それほどトミーと一緒にいることがなかったのですが、ヘブンと家族になった今は、ずっと一緒でうれしいですね。役作りについても、よく話をしています。彼は、撮影が始まった頃から比べると、ずいぶん日本語がうまくなっているし、日本文化にも慣れてきている。なのに、お芝居の上では、ヘブンとしてわざと下手に日本語を喋ったり、下手にお箸を持ったり……。実はすごく細かい演技をしていて相当すごいことをしているなと思います。
それにしても、あの狭〜い天国長屋から、高見縄手の武家屋敷に移った時の開放感はすごかった! 家が広くなると精神的にも身体的にも居心地がよくなりますから、司之介としてというより、僕自身が、まさに無邪気にはしゃいでいました。セットの中で、思わずぴょんぴょん飛び跳ねましたもん(笑)。
──その後、松江新報での記事に端を発してのラシャメン騒動があって、松野家は4人で熊本に移り住むことになりました。トキたちから引っ越しの話をされた時、司之介の心情はどんなものだったと受け止めていますか?
初めは驚いたと思います。現代でも故郷から離れて、どこか別の土地に引っ越すというのは、勇気がいることですよね。あの時代の人たちにとっては、なおさら、ものすごい決断だったのではないかと思います。
それでも、トキたちについて熊本に行くことに決めたのは、やはり家族一緒にいたかったから。ラシャメン騒動で、トキの涙を見ていますから、親としてほうってはおけないですよ。一方で、司之介らしい損得勘定もあるでしょう。ヘブンに頼って生きていきたいという(笑)。

──熊本では、さらに書生として丈(杉田雷麟)や正木(日高由起刀)、そして女中のクマ(夏目透羽)も加わって、松野家はより大所帯に、賑やかになりました。出演者の皆さんの空気感はいかがでしたか?
みなさん、撮影に入る前は、「緊張する」と言っていました。すっかり雰囲気が出来上がっている“松野家”に新しく入っていく難しさを感じていたみたいです。
でも実際に撮影に入ってみると、なじみ具合に逆にびっくり。それは、明るい松野家メンバーの受け入れ態勢のおかげかなと思っています(笑)。初共演なのに昔から知っている人と話しているような気やすさがあって、合間のおしゃべりも弾んでいます。ちょっとしたプレゼント交換をしたり、お土産を渡しあったり、お菓子を分け合ったりして、とてもなごやかですよ。
熊本での司之介は暇なんです(笑)
──第20週では、「ヒリヒリとした張り合いのある暮らし」を求めて、わざと借金を作ろうとした結果、投資に成功してしまいました。この司之介の心情……岡部さんは共感できますか?
司之介がまたアホなことをやって……、と思うかもしれないですけど、これ、誰しもちょっとは抱いたことがある感情なんじゃないかなって思っています。
例えば僕の場合は、俳優の仕事も金もなかった若い頃、仲間と安居酒屋で「明日もバイトだけど朝まで飲もうか」「でも俺ら、何かせなあかんよな」「じゃ思いきって金借りて舞台でもしよか!」ってな感じで、ヒリヒリとした焦燥感とある意味博打のような高揚感を経験したことがあるんですが、今、こうしてお仕事をいただいて一応生活できるようになったのに、当時のヒリヒリ感は忘れられず、心のどこかでちょっとその感じを求めているようなところがあって。だから、この司之介の気持ちは、共感できちゃうんですよね。とはいえ、僕はもう彼のように猪突猛進できないですけど。ええ年こいてるんで。
実際、熊本での司之介は暇なんです(笑)。その前、ラシャメン騒動の時にはちょっと、演じるほうもきついくらいの展開でした。ところが熊本は平和ですからね……。でもその熊本編は平和なだけにみんなの会話が際立つ、実にふじき脚本の真骨頂だと思います。

──とはいえ、司之介のキャラクターの一貫性は、なかなかのものです。松野家のムードメーカーであり、トラブルメーカーでもある、チャーミングなダメ親父ぶり。そんな司之介を、岡部さんはどう捉えていますか?
ほんとですよね。最近では、僕も「お前、ずっとそのままか!」と思うことも(笑)。成長しないんですよね。見ようによっては品がないというか、正直すぎるというか。僕自身、結構、言いたいことをバーっと言ってしまうタイプで、そういう部分は似ているなあと思っていたのですが、もはや僕の上(?)を行っています。それに僕はもう少し慎重ですよ。司之介のような行動力はない……というか、あの軽さには負けます。
その上、反省もしない。ずっと他力本願だし、ずっとアホなことを言っている。でも、考えてみると、それが結果的に家族のためであったり、明るい空気につながったりしているわけで。若い頃には武士としての人生を奪われ、「立ち尽くしていた」こともありましたけど、案外、新しい世に少しずつフィットしていく柔軟さを持っていた。あるいは、あの「軽さ」によって生き抜いてきたということかなとも思っています。
──ところで、フミ役の池脇千鶴さんとの関係には、変化はありましたか?
関係性は変わっていませんが、夫婦としてパワーアップしているような印象です。僕も池脇さんの夫役という立場に慣れてきましたし、池脇さんも僕の芝居に慣れてくださって。お互いにより面白いツッコミをしたり、より面白い表情で見守り合ったりしています(笑)。
フミの魅力は、どっしりとした雰囲気。ビビらず、へこたれず、力強いですよね。司之介の方がくにゃくにゃしているので、良い夫婦というか、良いコンビだなと思います。かと思うと、司之介が肩を抱いたりすると、本気で嫌がったり、本気で照れたりするところは可愛らしくて、いかにもこの時代にいそうな女性という感じがして、さすが池脇さんと思っています。

──最後に、「ばけばけ」の今後に寄せて、ひとこと、お願いします。
家族のかたちというのは、年を重ねるにつれて変わっていくものだと思います。僕自身、24歳で故郷の和歌山県を離れました。結婚や離婚も経験したし、そうやって変わっていくことが人生だと思うし、そんな中でそれぞれが、自分の気持ちに正直に生きていく。「ばけばけ」にはそんな家族のあり様が深く面白く描かれているので、ぜひ最後まで見届けていただければと思います。