1月からスタートした大河ドラマ「豊臣兄弟!」。のちに天下一の補佐役と言われる豊臣秀長 (小一郎/仲野太賀)と、その兄で天下人となる豊臣秀吉 (藤吉郎/池松壮亮)の下剋上サクセスストーリーだ。農民から武士として生きる決意をした小一郎だが、2月15日放送の第6回では兄の命を救うために奮闘することに。そんな豊臣兄弟の絆が深く描かれる放送回のみどころや、話題のキャスティングについて、制作統括の松川博敬チーフ・プロデューサーに聞いた。
豊臣兄弟にあって、織田信長に足りなかったのは“人を信じる力”
――第6回は「兄弟の絆」という非常に印象的なサブタイトルです。このタイトルに込めた思いをお聞かせください。
「兄弟の絆」という作品全体のテーマをそのままサブタイトルにしたことで、我々のチームはこの第6回が大変重要な回であると宣言しています。「豊臣兄弟!」というドラマは、この第6回を見ていただくために生まれたと言っても過言ではありません。
取材などで、よく作品のテーマについて聞かれるのですが、私としては見た人それぞれが発見していってほしいという思いもあって、仮として「兄弟の絆ですかね」と答えていたんです。でも、クランクインから8か月経った今、物語の目指す場所が明瞭に見えてきて、この物語は“人を信じる力”の話をしているんだ、と思うようになったんです。過酷な戦国時代では、人を信じることでしか前に進めなかったんだと。人を信じて裏切られることもあるし、信じられなくて堕ちていくこともあるんですけど、その“人を信じる力”が織田信長(小栗旬)には足りなくて、豊臣兄弟にはあったのかもしれない。そこが天下を獲れるかどうかの違いなんじゃないかと考えるようになりました。

――なるほど。では、第6回は小一郎と藤吉郎のお互いを信じる力が試される内容になるのですね。見どころを教えてください。
第6回は、仲野太賀さんの芝居の真骨頂。兄を守るために小一郎が命をかけて信長と対峙するラストシーンは、現場で見ていても鳥肌が立ちました。大河ドラマというと、迫力のロケや合戦などが見どころとされることも多いですが、この回については「仲野太賀の芝居」です。彼自身もすごい覚悟を持って演じていると感じましたし、彼だからこそ出来たシーンだったと思います。その一方で、藤吉郎もすごい。彼の“人を信じる力”って異常なんですよね(笑)。描写は多くありませんが、やっぱり藤吉郎はすごい傑物だということが伝わるんじゃないでしょうか。
――そんな小一郎と対峙する信長についてはいかがですか?
第4回で弟・信勝(中沢元紀)にまつわるトラウマについてチラ見せしましたが、それが第6回ではしっかりと描かれます。「豊臣兄弟!」における信長の人物像、過去に弟を殺害してしまったトラウマを引きずりながら生きている男の様を描くということを提示する回になっています。小栗さんは元々迫力のある俳優ですが、やはり仲野太賀さんとの相乗効果でどんどん芝居が完成されていく、本当に演技合戦と呼ぶにふさわしいシーンでした。
藤吉郎は信長の草履を盗もうとしていた⁉ 史実の独自アレンジにも注目!

――第3回では、信長の草履を藤吉郎が懐で温めていたという有名なエピソードを大胆にアレンジしていらっしゃいました。
草履のエピソードをはじめ、これまで史実にかなり独自のアレンジを加えてきましたが、おかげさまで歴史好きな方にも喜んでいただけていると感じています。第6回ではさらに踏み込んだアレンジをしているので、我々としてもどういうリアクションをいただけるかなと大変ドキドキしているところです。
――こういったアレンジは、脚本の八津弘幸さんのアイデアなのでしょうか? それとも制作陣で相談して決めていったのですか?
草履のエピソードも八津さんのアイデアですね。シナリオハンティングで一緒にゆかりの地を巡った時に草履の話をした記憶はあるのですが、草履を温めていた美談すらも盗んだことにしたのは八津さんです。
実は、こんなに有名武将である豊臣秀吉も前半生についてはあまり史実が残っていないんですよ。皆さんが史実だと思っているエピソードも、江戸時代に書かれた『太閤記』などに登場したもので、後の世の人たちで創作した秀吉像が広まっていったものが多いんです。だから、それが史実とは限らない。私たちとしては、本当は草履を盗もうとしていたんだけど、天下を獲った秀吉が自分の伝記を書かせる時に美談に仕立て上げた、みたいなことを想像してもらえたら嬉しいですね。
――では、今後もそういった独自のアレンジは登場するのですか?
この先でいうと、第7回と第8回は有名な墨俣一夜城作戦の話になるのですが、実は歴史家たちの間では墨俣一夜城も創作だったと言われているんです。一晩で城なんて建てられないとされているので、そこをちょっと逆手に取ったアレンジをしていますので、楽しみにしていてください。
竹中半兵衛、蜂須賀正勝……今後も魅力的なキャラクターがたくさん登場します!

――放送が始まってから話題になっている登場人物についてもお聞かせください。特に視聴者から好評だと感じるのが白石聖さん演じる直ですが、松川さんが現場で感じる白石さんの俳優としての魅力はなんですか?
いや、本当にいいですよね。最初こそ白石さんも緊張して現場に入られていましたが、回を重ねるごとに、どんどん魅力的になっています。いろいろなところですごく支持されているという話もお聞きしていて、とても嬉しいです。朝ドラのヒロインが成長していくのと同じくらいの感動を短い期間で見せていただいている感じです。これからも、さらに白石さんの表現が豊かになっていきますので注目してください。

――それから、松下洸平さんが演じられている松平元康(のちの徳川家康)もかなり個性的なキャラクターです。松下さんをキャスティングされた理由を教えてください。
ご存じのように、秀吉の後に天下を獲るのは家康ですが、秀長と家康はとても仲がよかったという史実があるんです。秀長が、居城である大和郡山に家康を招いて接待したというエピソードもあって。だから、2人はとてもシンパシーを感じていたんじゃないかという仮説をもとに、今後のストーリーを作っていこうと考えています。史実として、秀吉は天下獲りの後、どんどん暴君として暴走していきますよね。だから、秀長が病床で力尽きる時に家康に託したものがあったんじゃないかと思っていて。そういう意味で、秀長と家康の友情関係を紡いでいくことをイメージしながらキャスティングしました。
――第5回では藤吉郎に真逆のことを教えるなど、家康はかなり意地悪で辛辣な人物として描かれています。あのようなキャクターにしたのはなぜですか?
みんなで議論して生み出したというより、八津さんがポンと脚本に書いてきたキャラクターなんです。兵糧を減らしたいから飯を食べるとか、変わったキャラなのは八津さんのオリジナルですね。この作品の家康は、ある意味、現代的な感覚を持ち合わせている人物。一筋縄ではいかないキャラクターで、はじめから天下を獲りたいという野望があったわけではなく……。その点が同じくわれわれが現代的な感覚を持って戦国の世に飛び込ませたいと思っている主人公の小一郎と通じ合うという関係になるといいなと思います。
――徳川家康のように、今までの大河ドラマとは少し違った描かれ方をするキャラクターは今後も登場するのですか?
そうですね、ネタバレになってしまうので言えないことも多いのですが……、竹中半兵衛役の菅田将暉さんはとても面白いキャラクターになっているので、ぜひ注目してほしいですね。そんな竹中半兵衛といいコンビになる、高橋努さん演じる蜂須賀正勝もとてもいい味を出しています。蜂須賀正勝って過去作では大仁田厚さんなど肉体派の方が演じることが多かったのですが、高橋さんはまた独特の哀愁があって、人間味あふれた正勝になっています。でも、この時代は本当に個性的なキャラクター揃いで、毎話すごい魅力を発揮してくれるんです。我々としても、視聴者の皆さんから期待されていることは裏切りたくないという思いがあるので、有名武将は期待どおりの活躍をしてもらおうと思っています。ですが、キャラクターが充実しすぎて、時間がいくらあっても足りないくらいなんです(笑)。