親に捨てられ、教会を転々としてきた孤児の大家直美(上坂樹里)を引き取って以来、彼女を見守ってきた牧師・吉江善作。直美の自立したい気持ちを尊重するがゆえに、時に彼女に振り回される一面もある。そんな吉江を演じる原田泰造は、どのように役を受け止め、演じているのか? 今回が2度目となる、上坂との共演についても話を聞いた。
吉澤智子さんの脚本に感じた“生々しさ”
――「ごちそうさん」(2013年度後期放送)以来の朝ドラ出演となります。出演依頼を受けたときの率直なお気持ちは?
やっぱりうれしかったですね。「ごちそうさん」は大阪放送局の制作だったから、いつか東京の朝ドラにも出てみたいなと思っていました。大河ドラマの撮影でメークをしてもらうとき、パーテーションの向こうで朝ドラのメークをやっているんですよ。ずっと「隣のスタジオでは、今どんな撮影をしているんだろう?」「1回入ってみたいな」と思っていたんですけど、やっと入れました(笑)。
この前、「風、薫る」の撮影が夜までかかった日があったんですが、ちょうどその日が「べらぼう」のオールアップの日だったんです。(田沼意次の側近・三浦庄司役で出演)なので、隣のスタジオに行って、ラストシーンの撮影を見て一緒に拍手をして……。なんだか幸せでしたね、その日は。

――「風、薫る」の脚本を読まれての印象をお聞かせください。
“生々しい”物語だと思いました。
例えば、りん(見上愛)の父親の信右衛門(北村一輝)が感染症で亡くなったり、その後、一ノ瀬家の暮らしが困窮したり。直美に関しても、彼女が母親を知らなかったり、マッチ工場で泥棒の濡れ衣を着せられたり……。そうしたことを全部踏まえて、生々しいな、と思いました。でも「風、薫る」は、それをたくましく乗り越えていく女の子たちの物語。僕自身は、そういう話が好きだから、楽しみながら脚本を読んでいます。
――いろんな価値観が混在していた文明開化の時代、“明治”という時代については、どう感じていますか?
前作の「ばけばけ」のときも思いましたが、士族だった人もまだいる中で、新しい文明が一気に流れ込んでくる。その混乱はすごかったはずです。以前、海外から来た人たちの手紙に「日本人はよく笑う」という記述を見たことがあって。僕はその“笑う”という感覚に、文明開化の当時の混乱と前向きさのエネルギーを感じたんですよ。変化に戸惑いながらも、笑わずにはいられなかったんじゃないかな。そんな時代だったのでは、と想像しています。
吉江は“自分のために”炊き出しを続けている
――吉江の人物像については、どのように捉えていますか?
直美のことも、貧民街の人たちのことも、みんなを見守っている、本当に“いい人”だと思って演じてます。涙もろいけれど、直美のことを自分の娘のように感じている。直美の経歴を知っていて、良い部分も悪い部分も全部わかったうえで、愛情を注ぎ続けている父親のような牧師ですね。ただ、どっしり構える父親というより、どこかオロオロしてしまうタイプ(笑)。直美が人に愛されてこなかったのもわかっているから、人一倍、直美に対して愛情があるんでしょうね。

――牧師役を演じるにあたって、何か準備されたことはありますか?
牧師役は初めてだったので、まず聖書を読んで、町の教会に礼拝を受けに行きました。そこで牧師さんの動きや声のトーン、集まる人たちの雰囲気を、なんとなく肌で感じられた気がします。特にその牧師さんの声が本当に良くて、“神の声”のように感じて、うっとりしながら聞いていました。「この方をモデルにしよう」と、そんな感じで見ていましたね。僕は全然、いい声じゃないけれど。特に直美の前では(笑)。
――吉江のバックグラウンドについてはどう思って演じていらっしゃいますか?
当時のキリスト教徒が“耶蘇”と言われ、差別的にみられていた状況の中でも、吉江はいつも笑顔で炊き出しを続けているんです。誰かのために、ではなく、感謝されると自分がうれしいから、というスタンスなんですよね。吉江がなぜキリスト教を信仰するようになったのか、背景はわからないんだけれども、「清くありたい」という彼の中のテーマが行動の根っこになると感じています。
すぐに泣く吉江だけれど、演じてみるとしっくりくる

――吉江は涙もろい人物で、すぐに泣きますね。
僕も「すぐ泣くなぁ」と思った(笑)。でも実際にシーンで演じてみると、しっくりくるんですよ。直美のことを本当に心配しているから、驚いたり、胸が締めつけられたりして自然に涙が出る。台本のト書きに“吉江、泣いている”とよく書かれていて、セットに入って相手のセリフを聞いていると「ああ、これは泣くだろうな」と納得できますね。
――先ほど、吉江は直美の良いところも悪いところも知っていると話されましたが、具体的にはどのように見えているのでしょう?
良いところは、自分なりの正義感があり、行動力があるところ。直美って、差別を受けてきた側の女の子だったんだけど、他者に対して差別しないやさしさを持っている。人を平等に見ていますよね。悪いところは、人を信用できないところでしょうね。吉江はそういう直美の全部を理解していると思います。
強がって皮肉を言ってしまう直美に、吉江としては「直美さん!」と言っていさめるんだけども、常に応援している姿勢だから……。将来、彼女が看護師として成長していく過程で、教会から離れることがあっても、吉江の見守る気持ちはずっと変わらないでしょうね。

――直美役の上坂樹里さんとは、父と娘を演じたドラマ「生理のおじさんとその娘」に続いて2度目の共演です。
樹里ちゃんはね、ものすごく魅力的な女優さんなんですよ。役に対してまっすぐで、それが直美の性格にも表れているし、一生懸命やっていて、いい役者さんだなと思います。目がキラッキラしていてね……。本当に言葉にするのが難しいけれど、輝いているんです。
「生理のおじさん」では、思春期で僕に対して反抗的な態度をする娘だったんです。今回も直美は吉江に対してベタベタしないで、一歩引いた感じ。僕にあまり懐かない役が2回続いて。だから僕も、そういう女性なんだと思って接している感覚がどこかにあるかもしれない(笑)。でもね、樹里ちゃん自身は、本当に素敵な子で、このまま伸びていってほしいなと思います。
――目線が、もう完全にお父さんですね(笑)。
そんな感じです。あまり懐いてこない娘のような……。懐いてこない、って犬みたいな言い方だけど(笑)。でも、可愛らしいから。
直美とりんが“ワンチーム”になる姿を見守っていきたい
――すこし先の話になりますが、吉江はりんとの接点も生まれますね。
りんは士族の娘で、とても凛とした、たくましい女性。直美とりんが、やがて“ワンチーム”になって頑張っていく姿は、吉江にとっても素敵に見えるんじゃないかな。作品としてもバディもので、ふたりがどんどん成長していく物語だから、僕も見守っていけたらいいなと思っています。
看護師という職業が社会的に認められていなかった時代に、その意識を変えていくのがあの2人。吉江的には、そんな姿を見られることがうれしい、というか。きっと感動するでしょうね。