テレビを愛してやまない、吉田潮さんの不定期コラム「吉田潮の偏愛テレビ評」。今回は、プレミアムドラマ「対決」です。

数年前、いくつかの医大が受験生(女性と浪人)を差別し、減点して合格者を調整していたことが発覚。らちな政治家や富裕層が金と権力にモノを言わせて、自分の馬鹿ばか息子を裏口入学させることは星の数ほどあっただろうが、入試の段階で優秀な女性や浪人生を一律に減点するという、理不尽な差別が行われていたと知って、憤りを覚えた記憶がある。

そんな入試不正事件をテーマにした作品と聞いて、どこまで描けるか、楽しみにしていた。主演は松本若菜。医大の闇を追及する新聞記者役で、相対するのは鈴木保奈美が演じる医大側の理事で事実の隠蔽に奔走する役。「対決」の話である。

対立するのが女同士という点に、ちょっとだけ心がモヤついていた。「女同士を争わせて男は高みの見物」みたいな構図はイヤだなぁと。が、初回でその必然性を理解できた。より深い闇を描くのだと気づかされた。


挨拶も返事もせず、見下して蔑む男たち

主人公の檜葉ひば菊乃(松本若菜)は、大手新聞社の社会部で検察担当(通称・P担)の記者だ。P担はチームで動くが、取材する記者には序列がある。菊乃は司令塔の役割を担う「4番機」のはずだが、P担内では腫物扱い。もともと週刊誌編集部にいたが、40歳を過ぎてから社会部の花形部署に異動した経歴をもつ。もうさ、4番機とか遊軍とか軍事用語にたとえるあたり、男社会だなぁと思っちゃうわけよ。 

しかも、菊乃に対して敵意き出しの同僚もいる。和藤由伸(山中崇)は挨拶も返さないし、堂々とセクハラ発言をぶつけてくるし、下卑た憶測で菊乃をおとしめる暴言を吐いたりもする。キャップの相模和史(大倉孝二)はチーム内のバランスを気にしてか、菊乃に重要な取材を任せてくれない。救いは、フラットに接してくれる若手の西森旬(濱尾ノリタカ)や物腰は穏やかで、体育会系な男社会を嫌っている甲斐田亮二(前野朋哉)がいること。男所帯に女性ひとりの職場、菊乃は記者としてのやりがいを見失いつつあった。

が、統和医科大学で政治家が馬鹿息子を裏口入学させたことが発覚、既に検察が動いている。この件で、大学の関係者に取材する菊乃は、思いもよらないきょうがくの事実を聞かされる。それは「入試の採点段階での女子一律減点」だった。元講師の瀬島正彦(岩松了)によると「入試の採点段階で、女子一律減点が行われている。あれが表に出たら、裏口入学なんかよりヤバイ」と。

一方、統和医大の理事である神林晴海(鈴木保奈美)も、居心地のすこぶる悪い職場環境。代々医者家系で気位が高く、鼻持ちならないやからばかりの理事会で、医師ではない神林は「事務局あがり」と見下されている。挨拶しても無視され、女子一律減点という不正入試案件の隠蔽対策を押しつけられる神林。

不正を暴く側の菊乃と、大学を守る側の神林は、プライドと権威主義と上昇志向の巣窟である男社会に属している点は共通している。似たような境遇にいれば理解や共感を得られそうなものだが……というところで、ふたりの異なる信条がぶつかりあっていくわけだ。菊乃はひとまず単独で動き始める。


正しさは誰のため? 取材対象者の本音にも道理がある

どう見ても「女子一律減点」は明らかな差別で、決して許されることではない。「虎に翼」のともやよねがいたら、目をひん剥いて共に怒ってくれることだろう。がわも、心は菊乃とともにある。あるのだが、菊乃の取材対象者、つまり医者たちの本音もわからないでもない。むしろ医療現場の悲鳴と限界という厳しい現実を突きつけられ、考えさせられる展開なのだ。

まずは、統和医大総合病院に勤める外科医(橋本淳)の本音。女子一律減点を知っていたが、やむをえないと話す。「僕らは不眠不休でやってます。体力的には限界に近いです。正直言ってれいごとを言ってる暇はない」「新人の医師を一人前にするのに、どれくらいの時間と労力がかかると思います? なのに、女性は使えるようになったかなと思ったら、結婚だ、出産だ、育休だって。正直迷惑だと思ってますよ。怒りすら覚えることだってある」。穏やかな口調だが、心情吐露には怒りも含まれており、菊乃は反論することができない。

また、統和医大出身で開業した美容皮膚科クリニックの医師(陽月華)は、「皮膚科医を選んだのは、体力的にも時間的にも女性が働きやすい環境に身を置きたいと思ったから」。そう考えるのは少数派ではないと言う。「私には医師である前に自分の人生があります。そういう考え方です。それをとがめられる覚えはありません。それと同時に『外科医がほしい』『医師不足の地方で働ける人材がほしい』、そう願う大学が女子を敬遠するのも、現実問題、仕方しかたないとも思っています」

そして、菊乃に最も鋭い意見を返したのは総合病院の内科医(渡辺真起子)だ。菊乃は女子差別ではなく医師不足解消の方策を練るべきだと意見を述べると、「あなたの意見は正しいわよ。正しいけど、医師不足を解消する制度が整うまで、あと何年か、何十年か、目の前で死んでいく患者を何人見なければいけないんでしょうね? 正しさよりも円滑に社会が回ることを選んだ方がいいときもあるんじゃない?」と返す。ただ、彼女も女子差別については菊乃と同じ怒りを感じている。
「これは差別ですよ。女だからって最初からこっそり減点されてるなんて、考え始めたらはらわた煮えくりかえりそうよ! だからこそ、考えない、触れない。これはパンドラのはこなんですよ」。ぐうの音も出ない菊乃。

意に反して積極的な沈黙を守っているという道理には、ものすごい説得力があった……。3人の熟練役者が真に迫っていたこともあるが、観ているこちらも正義感や倫理観を揺さぶられるようなセリフである。そして菊乃の心も揺らいでしまう。


痛みを伴ったとしても変わるべき

菊乃はシングルマザーで、一人娘・麻衣子(豊嶋花)は医大を目指している。娘には理不尽で悔しい思いをさせたくない。それが菊乃の原動力にもなっている。大きな壁にぶち当たってはいるが、麻衣子のある言動が菊乃を奮い立たせる。麻衣子は、電車内で同年代の女子が痴漢に遭っていることに気付き、犯人を思わず追いかけたが転んだと言う。「許せなかった。何もしないでいられないでしょ?」と。 

娘の言葉にハッとする菊乃。この案件をP担で共有し、記事を書くと決意する。「痛みを伴ったとしても今変わるべき。頑張っている受験生世代があおりをくらっている、それじゃダメなんです! 闘いたいから記事を書きます」

菊乃がもたらした、裏口入学どころではない特ダネに、社会部長(岩谷健司)も動き、特別取材班を組んで社会部全体でバックアップしてくれることに。P担キャップの相模は「俺たちが見つけたネタ」と鼻息荒く、士気を高めようとするし、和藤は相変わらず嫌味をいちいち菊乃にぶつけてくる。この男くささが苦手という甲斐田は、女性差別の問題を追う特別取材班に女性が一人しかいないのもおかしい、とつぶやく。いや、ほんと、それな! 女性活躍をうたう組織や企業のPR写真で写っているのは全員中高年男性、という例を何度見てきたことか!

ただし、証拠となる書類も、裏口入学捜査の際にすでに検察が押収している。検察は女子一律減点の証拠をつかんでいることを否定もしないが、菊乃たちに協力もしないというスタンス。こうなると、証言してくれる大学側の人間が必要だ。

大学理事の人間関係を調べ上げたうえで浮上したのが、神林である。女性で非主流派であり、大学職員の中で人望も厚い。事務局の女性職員(大原櫻子)も食堂のスタッフ(松金よね子)も、みな神林を慕っている。女子一律減点という卑劣な差別を、逆に内部告発する側に回ってもらえるのではないか? そう踏んだ菊乃は、直接対決に挑んだのだが……。


女として、母として、を超えられるか

第2話で菊乃と神林が直接対決し、「女」という立ち位置で説得を試みた菊乃は完全な敗北を味わう。鉄壁の守りを見せた神林だが、この勝負はまだ終わっていない。3話では異なる方向へ動き出す模様で、まったく目が離せない展開である。

劇中でこんなにも怒りや悔しさや絶望を経験する主人公はそういない。松本若菜が「女として、母として、記者として」闘う姿にはエールを送らずにはいられないが、鈴木保奈美も同様に「女として、母として、大学理事として」守ろうとする覚悟がある。これは「女だから、母だから、共感する」という思い込みを初めから打ち崩す設定なのだ。性別や立場を超えた「人として」という観点が必要であり、社会全体をかんする姿勢も必要だと教えてくれる。骨太で見応えのある作品だ。

ライター・コラムニスト・イラストレーター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業。健康誌や女性誌の編集を経て、2001年よりフリーランスライターに。週刊新潮、東京新聞、プレジデントオンライン、kufuraなどで主にテレビコラムを連載・寄稿。NHKの「ドキュメント72時間」の番組紹介イラストコラム「読む72時間」(旧TwitterのX)や、「聴く72時間」(Spotify)を担当。著書に『くさらないイケメン図鑑』、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか?』、『ふがいないきょうだいに困ってる』など。テレビは1台、ハードディスク2台(全録)、BSも含めて毎クールのドラマを偏執的に視聴している。

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