
テレビを愛してやまない、吉田潮さんの不定期コラム「吉田潮の偏愛テレビ評」。今回は、土曜ドラマ「ムショラン三ツ星」です。
刑務所の中を描く“ムショもの”は大好物。自分が一生体験できない(いや、断定はできないが)世界を覗き見できるから。古くは安部譲二原作の映画『塀の中の懲りない面々』(1987年)あたりかな、ムショものに興味をもったのは。ドラマでも定期的にムショものが制作されている。伊藤淳史主演「モリのアサガオ」(2010年・テレ東)や、窪田正孝主演「ヒトヤノトゲ」(2017年・WOWOW)は刑務官が主人公。刑務所で働く人間が目の当たりにする受刑者たちの罪と罰と業を描いた。ムショではないが、元受刑者の日常を描いた「ムショぼけ」(2021年・テレ朝系、北村有起哉主演)も実に面白かったし、漫画原作のムショものにハズレなし、だ。
個人的には女子刑務所はもっと興味深い。アメリカの作品だが、「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」(2013年~、全7シーズン)は罪を犯した女の生きざまが生々しく描かれていて、生涯忘れない名作だ。日本では、連ドラではないが、泉ピン子主演の「女囚〜塀の中の女たち」(1995年~97年・TBS)も好きだった。エンタメ方向に舵を切ったのは剛力彩芽主演「女囚セブン」(2017年・テレ朝系)や、小泉今日子・満島ひかり・夏帆・坂井真紀・菅野美穂・森下愛子らがひとりの男(伊勢谷友介)への復讐を目論む「監獄のお姫さま」(2017年・TBS)とかね。福士誠治主演、受刑者たちの思い出グルメを描いた「極道めし」(2018年・BSジャパン※現BSテレ東)が、今回のお題に最も近いような気がする。ということで、ようやっと本題へ。先週から始まった「ムショラン三ツ星」の話だ。
ムショのメシが最も悲惨でびっくり

小池栄子が演じるのは、腕利きのイタリアンシェフ・銀林葉子。イタリアで修業したのち、数々の名店で働き、独立して高級イタリアンの店をもった一流のシェフだ。もうあと一歩で三ツ星の名声を得られるところで、オーナー(庄司智春)に売上をまるっと横領され、閉店に追い込まれる。「ミキティーッ!」じゃなくて「ギルティーッ!」って心の中で叫んだのは私の他にも3人くらいはいたはず。
葉子はシングルマザーで、ふたりの子持ちだ。背に腹は代えられず、昔取得した管理栄養士の資格を使える職を探したところ、浮上したのが「刑務所の管理栄養士」だった。国家公務員という安定に目が眩んだ、とも言える。
面接に向かうも、刑務官たちは葉子に対して疑心暗鬼。華やかな料理の世界でキャリアを築いてきた葉子に、まったく目もくれず。ただし、所長の名取恒太朗(國村隼)だけは葉子を推す。結果、採用されて勤め始めるのだが、「おいしい料理で人を笑顔にしたい」信条で生きてきた葉子はムショメシの現実に驚きの連続……。
シンママのガッツとシェフとしてのプライドとポリシーをもつ葉子を、小池栄子が好演。チャリンコ通勤で疾走する姿、勤務中はジャージで挑む姿、俳優・小池栄子の庶民的な魅力が存分に活かされている。葉子に懐疑的な刑務官の面々(生瀬勝久・三宅弘城・塚本高史)も、皮肉屋・太鼓持ち・高圧的の要素を体現して、葉子の負けん気に火をつける布陣だ。葉子に厳しくあたる炊場担当の杉山賢二(中村蒼)や瀬下万美子(ともさかりえ)もいちいち手厳しい(正論なんだけどね)。
つうか、最も驚いたのは食事内容だった。葉子もひと口食べて「まずっ」と叫ぶほど。数々のムショものを観てきたが、このドラマがいちばん悲惨なムショメシというか。そもそも量が足りないし、質素にもほどがあり、多幸感も満足感も一切感じられないような。実際のムショメシってあんな感じなのか……と衝撃を受けたよ。
何をしでかしたのか、罪状も気になるところ

受刑者で炊場係のみなさん、ひと癖もふた癖もある俳優陣でね。ある意味でリアリティの追求に成功している。こう言っちゃ失礼だが、万引きの累犯者である竹田照男(温水洋一)は適役というか、しっくり。インテリ臭漂う矢部健吾(山内圭哉)や水商売臭漂う辻紘貴(阿佐辰美)も受刑者チームで好バランスを醸し出す。ついラップが出ちゃう久我瑛人(DOTAMA)やおどおどしている三島茂(ひょうろく)も、とげとげしい空気を和ませる装置に貢献しそうだ。ワケアリな半生が今後見えてくるであろう受刑者は、闇バイトに手を出してしまった罪で服役する梅川龍二(板橋駿谷)、荒々しさと再犯の背景が気になる尾藤護(関口メンディー)、第1話で罪の意識に苛まれる苦悶を見せた川口心平(玉置玲央)だ。

料理に対して真摯に向き合う葉子と、それぞれの受刑者が“ムショメシ”を通して、心を通わせる日がやがて来るであろうと期待できる。たとえ通わせられなかったとしても、食事に対する人それぞれの思いや幸せな記憶は蘇るはず。そういう意味で、「極道めし」に近いのかなと思ってね。
暴動起こさないよう平等。ムショメシのルールに納得……

さて、葉子の仕事内容だが、調理を教えることはあっても調理はしない。献立の作成と事務仕事がメイン。シェフとしてはどうにも歯がゆいところだ。また、問題が起きたときは炊場から呼び出される。第1話ではコロッケ大爆発、片栗粉大量投入で固形化したサバの梅煮が登場。起死回生のサバ救出劇に成功した葉子だったが、杉山からは「サバをくずせ」と言われる。サバの大きさが不平等になり、受刑者たちの間で不満が生じて暴動が起こりえる、というのだ。私は「あ~なるほど」と思ってしまったが、葉子は「あんなのは料理じゃない、ただのエサ!」とブチ切れる。あまりにも異なる“料理の信条”に、本気で退職を考えるものの、名取所長に慰留される。受刑者たちを「もっと怖い人たちかと思ってたけど、弱い人たちですね」と話した葉子に対して、所長は
「悪人とは弱者です。ここにいるのは、平気で人を殴り、傷つけ、裏切り、奪ってきた悪人たちです。しかし彼らこそ悪人になる前に、人に殴られ、傷つけられ、裏切られ、奪われてきた、心に傷をおった人たちです。彼らはみな人生に絶望しています。私は彼らに、ここでもう一度生きる力を取り戻してほしいんです」「銀林さん、力を貸してください」(イタリア語で)と話す。葉子は思いとどまることに。

サバアレルギーなのにサバを口にした川口がアナフィラキシーショックを起こしたのち、病室へ運ばれる。被害者家族(櫻井淳子)が面会に来て詰られたことで、罪の意識と希死念慮が強くなり、食事を一切拒否するようになった川口。名取所長は葉子が作った野菜のスープ(シェフの気まぐれスープ)を差し入れて、穏やかに説得。川口がスープを完食したことで、葉子は料理人の原点に立ち返るのだった。
軽妙でからっとした小池が演じる葉子の意地と踏ん張りは見ものだし、いちいちつっこんできそうな杉山と瀬下(番組HPではわさびくんとからし女のあだ名がついている)の心情や関係性の変化にも期待したいところだ。
ライター・コラムニスト・イラストレーター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業。健康誌や女性誌の編集を経て、2001年よりフリーランスライターに。週刊新潮、東京新聞、プレジデントオンライン、kufuraなどで主にテレビコラムを連載・寄稿。NHKの「ドキュメント72時間」の番組紹介イラストコラム「読む72時間」(旧TwitterのX)や、「聴く72時間」(Spotify)を担当。著書に『くさらないイケメン図鑑』、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか?』、『ふがいないきょうだいに困ってる』など。テレビは1台、ハードディスク2台(全録)、BSも含めて毎クールのドラマを偏執的に視聴している。