解剖学者・養老孟司、88歳。発行部数460万部を超える空前の大ヒットとなった著書『バカの壁』などでも有名な“知の巨人”に2024年、肺に悪性のがんが見つかった。
5年生存率は約10%。鋭く研ぎ澄まされた言葉で人間社会の本質を問い直し、人間の生死について探求を続けてきた養老さんは、自らの“命の限り”と対峙して、どのような新たな真理を見いだすのか――。
今回番組では、およそ1年にわたって、養老さんのがん闘病の日々を記録。幼い頃、世界を知る扉を開いてくれた昆虫たちの、抗がん剤治療の合間を縫った標本づくり。

3,000体を超える遺体と向き合い、“生と死”の意味を見つめた東大医学部解剖学教室時代の思い出。数年経っても未だ癒えない愛猫「まる」の喪失による痛み……など。死ぬとは? 生きるとは? 養老さんの思索の旅を映しだしていく。
養老さんはなぜいまNHKの取材を受けたのか――

「ドキュメントというと、以前はバカにしていたが、年を取り、がんになり、残りの時間を意識したときに、そういう物を残しておきたい気持ちが起きた。なぜだかは分からない」
そして、かつての養老さんはこう語っていた――
「がんになっても積極的な治療はしない。」「死ぬことは大した問題ではない。」
しかし、最初の取材で目にしたのは、抗がん剤治療を受け、主治医から「薬で治すのは難しい」と告げられる中、新たな治療法の開発に期待をにじませる姿だった。
病を得て、自分自身を生と死のはざまに置かざる得なくなった今、その内面にどんな変化があったのか? 抗がん剤治療によって腫瘍が縮小せず、自らの命の限りと対峙する日々が続く中、養老さんがふと漏らした。
「死ぬってことは本当にあるのか?」
がん腫瘍の状態次第で、生と死の間を振り子のように行き来する養老さんの命。治療を続け、88歳の誕生日を迎えた養老さんは、新たな根元的な問いと向き合うことになる。
「自分は自分自身なのか?」「自分はなぜ生き続けるのか?」
そして終盤、養老さんはこう語った。
「ひとりで生きているみたいに思ってたんだけど、そうじゃないんですよね」
闘病の果てに見いだした、死の意味、生の輪郭。日本を代表する知性がたどり着いた境地とは。養老孟司の生と死をめぐる思索が、私たちに深く問いかける。
NHKスペシャル「私の往生際 養老孟司が見つめた“生と死”」
7月5日(日) 総合 午後9:00~9:49
※NHK ONEでの同時・見逃し配信予定 (ステラnetを離れます)
語り:尾野真千子