大ベストセラーとなった『バカの壁』など多くの著書で知られる養老孟司さん(88歳)。解剖学や脳科学の視点を交えながら現代社会を読み解き、人々に気付きを与えてきました。そんな養老さんが、年齢を重ねた今だからこそ思う「居心地よく生きる方法」について語ります。
聞き手 上田早苗
この記事は月刊誌『ラジオ深夜便』2026年11月号(10/16発売)より抜粋して紹介しています。
自分の命は自分のものではない
――養老さんは2020(令和2)年に心筋梗塞で心臓カテーテル治療をされて。4年後に肺がんが見つかり、一度は治療でがんが消えたものの、去年再発されたのですよね。
養老 心筋梗塞のときは半年で体重が10キロ以上減って、娘に「病院に行け」って言われて。いろいろな検査を終えたあとに、いきなりストレッチャーに乗せられてそのまま集中治療室ですよ。危なかったそうです。
――養老さんは大の病院嫌いだそうですが、がんはどのようにして見つかったのですか。
養老 定期健診です。年を取ると好き嫌いも弱まってきましたね(笑)。がんが見つかったので針を刺して生検をしたんです。針がすーっと入っていって病巣に刺さって、あ、そこそこって。長年ひどい肩凝りだと思っていたのは、実はがんだったんです。それが分かって、ものすごく納得がいきました。
――体はサインを出していたんですね。
養老 はい。でもこの年になるとがんの1つや2つ、あって当たり前ですよね。僕は30年ほど前に医学から離れたんですけど、そのころに比べたらがん治療は非常によくなっています。標準的な治療が確立したので、患者さんも楽になった。だからそんなにがんを嫌う必要もないかなと思うんですけど。ただ高齢でがんになると、どのみち寿命だしお金もかかるからと、治療をためらう人もいる。
――でも家族は生きていてほしいと思いますよね。
養老 そうですね。僕はこの年になって、命を「誰かのもの」と考えるのはおかしいと感じていて。日本は戦争中は、個人の命はお国のものでしたが、戦後は一人一人の存在を強く押し出すようになりました。これは欧米、特にアメリカの影響が強かったと思います。だけど「死」はごく社会的なものなんですよ。
――命は人とつながりながら存在している、ということでしょうか。
養老 はい。昔は法事など亡くなった方を追悼する行事がたくさんあって、その中で命のつながりを感じることができました。でも今は「自分の命をどう処分しようが私の勝手でしょ」という時代になってしまった。小中高生の自殺が毎年増えている理由は、ここにあると思うんです。
――自分一人で何でもできるわけではないですものね。
養老 例えば病気になったとして、本人は痛みや苦しみを抱えている。だけどいちばん大変なのは病人を抱えた家族です。喜怒哀楽の感情もそうなんですよ。一人で喜んでいても別にいいけど、一人で笑ったり怒ったりしているのっておかしいですよね。感情は主観的だと思われているけど、実は人とのつながりから生まれる社会的なものなんです。だから“自分の人生は自分だけのもの”みたいな考え方は、ちょっと改めたほうがいい。
※この記事は2026年7月14日、15日放送「居心地よく生きる」を再構成したものです。
虫との出会い、“グレートマザー”だった母との関係、解剖学者として見つめてきた「生と死」、そして愛猫・まるとの日々――。自然体で生きるにはどうしたらよいのか。人生のさまざまな経験を振り返りながら、養老さんがその心構えを語ります。続きは、月刊誌『ラジオ深夜便』11月号をご覧ください。
11月号にはこのほか、修験道の行者である金峯山修験本宗管長・五條良知さんのインタビューを、カラー写真とともに掲載。さらに、5号連続企画「『深夜便』で読む戦争」第4弾として、過酷なシベリア抑留を生き抜き、“戦友の遺骨を家族のもとに帰したい”と願い続ける100歳の吉田欽哉さんのインタビューもご紹介しています。

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