放送終了とともに消えてしまうラジオの音を、活字と写真でいつまでも何度でも楽しめたら――。そんな思いから生まれたのが、NHK財団が発行している月刊誌『ラジオ深夜便』です。NHKのラジオ番組『ラジオ深夜便』の再録記事を柱に、アンカーの素顔が見えるエッセーなどのオリジナル記事も盛り込んで、“放送とリスナーをつなぐ”月刊誌として毎月発行しています。30年にわたり愛され続けるこの雑誌には、どのような編集の工夫や思いが込められているのでしょうか。「NHK財団職員に聞く“お仕事のウラガワ”」シリーズ第1回は、『ラジオ深夜便』の一瀬寛明編集長に話を聞きました。


読者に寄り添う1冊を目指して

創刊30周年記念号。渡辺謙インタビューの試し読みはこちら

――創刊30周年を迎えました。改めて、月刊誌『ラジオ深夜便』を作るにあたり、大切にしていることを教えてください。

一瀬 月刊誌『ラジオ深夜便』(以降、本誌)は、1996年の創刊以来、多くの読者の皆様に支えられながら、親しまれてきました。本誌の柱は、「放送ベストセレクション」と呼んでいる、放送の再録記事です。ラジオの音声は放送が終わると消えてしまいますが、活字と写真で1冊として残すことで、何度でも読み返していただけます。30年前の創刊時から受け継がれてきた“放送とリスナーをつなぐ”という役割は、今も変わらず大切に守り続けています。

――誌面づくりで心がけられていることは?

一瀬 番組の空気感も読者に届けることです。放送内容を単に整えて活字化するのではなく、深夜便らしい「ゆったりとした時間の流れ」や「穏やかな語り口」を誌面でも感じていただけるよう工夫しています。

2026年7月号目次。「放送ベストセレクション」を柱に、アンカーや著名人によるエッセー・連載など、本誌独自の記事も盛りだくさん。

また、読者の多くが高齢者であることを意識し、読みやすさにも配慮しています。紙はまぶしさを抑えたやさしい色合いで、ページをめくりやすいよう、あえて少しざらつきのあるものを採用し、文字も大きく読みやすいサイズにしています。ベッドの上や通院の待ち時間など、さまざまな場面で気軽に読んでいただけるよう、軽くて持ちやすい仕様にしているのも特徴です。


読者が“今読みたい”テーマを探る

読者から届くお便りの数々。

――読者からのお便りも多く届いているそうですね。

一瀬 ありがたいことに、編集部には毎日のように読者からのお便りが届いています。長年続いている五木寛之さんの連載のほか、鎌田實さんや“鉄ちゃん先生”こと宮村一夫さん、番組の顔であるアンカーの皆さんのオリジナルエッセーなども、多くの読者から“毎月楽しみにしている”と好評をいただいています。
本誌で掲載している「読者の広場」のコーナーには感想だけでなく、掲載してほしいテーマや再録の希望なども寄せられます。読者の皆さんが何に関心を持っているのかが分かり、とても参考になっています。寄せられた声は次の企画を考えるヒントにもつながっていて、“編集部と読者とのつながりが、誌面づくりを支えている”と実感します。

『ラジオ深夜便』編集部会議の様子。

――掲載する記事はどのように選んでいるのでしょうか。

一瀬 編集会議で検討しますが、話題性や知名度だけではなく、季節感や読者層との相性、誌面全体のバランスなども考慮しながら決めています。最新号の2026年7月号(月刊誌『ラジオ深夜便』 | ステラnet)では、大阪の「天神祭」についての放送を再録しましたが、実は昨年放送されたものでした。聴き逃しても「らじる★らじる」の配信で楽しめる今、その話題が最も響く時期に合わせて誌面化することも工夫の1つです。世代的に関心の高い介護や病気のことだけでなく、あらゆるテーマを盛り込むことで楽しんでいただけたらと思っています。

ステラnetで『ラジオ深夜便』記事を一部紹介しています

――最近で印象に残っている記事はありますか?

一瀬 2026年2月号の本誌で掲載した、介護の排せつケアをテーマにした記事です。
※試し読みはこちら

一瀬 高齢化が進む中、排せつや介護は多くの読者にとって切実な問題です。自分自身のこととして、あるいは親の介護の問題として向き合っている人も少なくないと思います。ステラnetでも一部ご紹介しましたが、あまりオープンにして話しにくい内容だからか、予想以上に大きな反響があり、こうした情報への潜在的な需要を感じました。病気や介護に関する記事は、読者の皆さんの安心感や気づきをもたらし、生活の支えになることもある。読者の暮らしに寄り添うことこそ、本誌の大切な役割だと考えています。


30年変わらない“顔”

1996年の創刊号の表紙。“ふるさと”への思いを絵にしている

一瀬 30周年記念企画の2026年6月号 (※ステラnetを離れます)では、1996年の創刊以来、毎号表紙の絵を担当してくださっている画家・中島潔さんへのインタビューを行いました。中島さんが描く作品は、いまや月刊誌『ラジオ深夜便』の象徴的な存在です。読者からも、“あの絵を見ると『深夜便だ』と分かる”、“幼いころの故郷や懐かしい風景を思い出す”、という声もいただいています。変わり続けることも大切ですが、変わらないことにも価値がある。30年の歴史を振り返る中で、そのことを改めて感じました。

一瀬 現在の読者はご高齢の方が中心になりますが、その子ども世代の皆さんにも読んでいただきたいと思っています。さまざまな世代の方に手に取っていただき、これからも皆さんの人生に寄り添う一冊になれたらと思っています。


放送で生まれた大切な言葉や人生の知恵を、活字として未来へつないでいく――。月刊誌『ラジオ深夜便』は、これからも読者や社会に寄り添い続けます。

月刊誌『ラジオ深夜便』の最新号など、
詳しくは月刊誌『ラジオ深夜便』 | ステラnetをご覧ください。

(取材・文 松田久美子 [ステラnet編集部])