熊本県で7月28日に起きた最大震度7の地震は、私たちに「災害はいつどこで起きるかわからない」ことを、改めて示しました。NHK財団では、8月29日、日本動物愛護協会の主催のもと、岡山市で防災ワークショップ「災害からペットを守る」を開催します。災害への日頃の備えや心構え、適切な避難行動について、NPO法人・ANICE(人と動物の防災を考える市民ネットワーク)代表の平井潤子さんのアドバイスのもと、会場の皆さんと一緒に考え、学ぶ催しです。
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このワークショップで災害時のペット対応を振り返り、教訓を今後に生かすため、先日、岡山県倉敷市真備町と総社市、岡山市を訪ね、2018年の西日本豪雨で被災したり、救護に当たったりした関係者にお会いし、お話を伺いました。
濁流の中、愛犬とともに命を守る

倉敷市真備町では、西日本豪雨で災害関連死も含め、74人が亡くなりました。田中英司さんは、2018年7月6日の夜、近くの川が氾濫し、自宅は2階まで水に浸かりました。

翌7日の明け方、妻と3匹の犬(フラットコーテッドレトリバー、ジャックラッセルテリア、ミックス犬)を連れて2階の窓から外に出ると、周囲はすっかり水に浸かっていました。隣の敷地に建つガレージの屋根に犬と一緒に飛び移り、かろうじて難を逃れます。

「隣に頑丈なガレージがあったんです。そこはまだ水が来てなかったんで、真っ先に犬をその上に投げるような形で避難させて、そこしか逃げ場がなかったんです。(犬は)びびって、怖がってましたね」

ボートで救出された田中さん夫妻は、その晩、3匹の犬を連れて勤務先が手配した宿舎に身を寄せました。ジャックラッセルテリアとミックス犬は、大人しく過ごしましたが、フラットコーテッドレトリバーの凛は夜通し吠え続け、近所から苦情が寄せられました。

「一晩中、鳴いてました。可哀想だけど声帯を取って、近所に迷惑をかけないようにって、本気で考えてたんです。かかりつけの獣医さんに相談したら、『そんなことしなくていいから、ちょっと動いてみるので待っていて欲しい』って言われました」
獣医師たちがつないだ支援の輪

田中さんが相談したのは、真備町の隣町、総社市にある「だて動物病院」の副院長、阿美古健さんです。当時、阿美古さんは真備町で動物病院の経営を任されていました。西日本豪雨で病院が水に浸かり、阿美古さん自身、妻と幼い子供を連れて避難所に身を寄せました。

「みんなが困っていたので、獣医師として出来ることは、精一杯やりたいと思っていました。田中さんのお気持ちはわかりますが、動物の健康を害する処置は出来ませんし、獣医師のネットワークを頼れば、預かってくれるところはあると考えました」

阿美古さんは、岡山県獣医師会の副会長、甲斐みちのさんに相談しました。岡山市にある「やさか動物病院」の獣医師でもある甲斐さんは「そのわんちゃん、うちの病院でお預かりします」と快く引き受けてくれました。

田中さんは、被災直後の不安と混乱の中、愛犬を預かってもらえたことを、次のように振り返ります。
「落ち着くまで預かってあげます、っていうことで、ありがたかったですね。お世話になってる先生がいて良かったなっていうのと、先生も被災されてたのに、迅速に動いて下さって、預かってくれる動物病院を見つけて下さって、本当にありがたかったです」
浮き彫りになったペット同行避難の課題

田中さんの愛犬を預かった岡山県獣医師会の甲斐副会長には、防災への強い思いがあります。1995年の阪神淡路大震災で被災地のペット救護に携わり、西日本豪雨の2年前には岡山県獣医師会に「緊急災害対策委員会」を立ち上げました。
「岡山県は『晴れの国』と言われ、災害とは縁遠い地域と考えられがちですが、私たちが暮らす日本は、いつどこで災害が起きるかわかりません。そこで県内を5つの地域に分け、災害への体制を整えていました」

甲斐さんは浸水被害発生翌日の7月8日、現地確認に入り、6か所の避難所を訪ねて被災状況を把握。9日には「岡山県動物救護本部」の立ち上げに関わり、以降、被災地での巡回診療に当たりました。

「避難所を訪ねると、冷房のある部屋で飼い主とペットが一緒に過ごせているケースもあれば、ペット連れの飼い主が体育館から退去を余儀なくされたり、30度を超える猛暑の中、渡り廊下でペットと過ごしている飼い主がいたり、ペット連れの被災者への対応は混乱していました」

岡山県獣医師会では、加盟する動物病院に「被災した飼い主のペットを無料で預かりましょう。経費は獣医師会で補填します」と呼びかけ、ペット避難の厳しい状況が少しでも改善するよう、力を尽くしました。

避難所の中には、その後の話し合いで、冷房のある部屋にペット連れの飼い主を受け入れたり、隣町の総社市が市長の発案でペット連れの飼い主に庁舎の一部を提供したりするなど、善意の動きが広がっていきました。

甲斐さんは、当時を振り返り、次のように語ります。
「日頃から出来る備えをしっかりしておくことは大前提ですが、災害が起きたら、大事なのは、助け合うことです。地域の飼い主の皆さんが知恵を出し合い、支え合う。その中に私たち獣医師も加わって、みんなで災害を乗り越えていくことが大切だと思います」

西日本豪雨の教訓を未来の備えへ
西日本豪雨の後、岡山県では、災害時のペット対応マニュアルを見直し、国や自治体、獣医師会との連携など、対応の強化を図りました。岡山県獣医師会では、災害派遣動物医療チーム「岡山VMAT」を発足させ、地域の防災訓練に参加するなど、今後の災害に備えています。災害の教訓を生かし、今後に備える取り組みが続いています。

8月29日に岡山市で開催する防災ワークショップ「災害からペットを守る」では、西日本豪雨で被災した飼い主や、救護に当たった獣医師、受け入れに尽力した自治体関係者の証言を動画で上映します。岡山県獣医師会の甲斐みちの副会長もゲスト出演し、当時の対応を振り返ります。災害の経験を今後に生かす方策について、会場にお集まりの皆さんと一緒に考え、学びを深める貴重な機会です。

今、観覧希望者を募集しています。入場は無料です(ペットの同伴は出来ません)。以下のサイトからお申し込みください。
お申込みページ(日本動物愛護協会HP)はこちら ※ステラnetを離れます
定員250人に達し次第、締め切りとなります。お早めのご応募をお待ちしています。
(取材・文/NHK財団 社会貢献・開発推進室 星野豊)