そのタイトルは「税金で買った本」(NHK総合、月曜~木曜22時45分)。「どんなジャンルのどんな物語なのか、ほとんど予想がつかない」という民放ではありえないネーミングは新鮮であるものの、戸惑いながら見はじめた視聴者は多かったのではないでしょうか。
はじまってみたら、舞台は図書館で、主人公はヤンキー高校生の石平紀一(奥平大兼)。その物語は「小学生のとき以来10年ぶりに図書館を訪れた紀一は、個性的な職員たちとふれ合うことで、少しずつ変わりはじめていく」という“ライブラリー・ヒューマンコメディー”でした。
幅広い世代がネット三昧の時代に「図書館」「本」を扱ったドラマはどんな意味があるのか。若年層もターゲットに入る夜の帯ドラマ枠「夜ドラ」にハマるのか。業界唯一のドラマ解説者・木村隆志がどこにも忖度せずにその本質を掘り下げていきます。
図書館に最も縁遠いヤンキーの目線

「夜ドラ」の放送である以上、現在22歳の奥平大兼さんが主演を務めることも含め、若年層に見てもらいたい作品であることは間違いないでしょう。
ではなぜ舞台が図書館の物語なのか。全編を通して描かれているのは、自分の力で調べて知識を得ることや、知りたいと思ったことが理解できたときの幸せ。最も図書館に縁遠そうなヤンキーの目線から見ることで、ネット検索やAI回答では得られづらい満足感を1つ1つ静かに噛み締めていくようなシーンが続きます。

その満足感の後押しをしているのが、ヒロインの図書館職員・早瀬丸小夜香(西野七瀬)の言葉。モヤモヤを抱える紀一に笑顔で語りかける姿は、図書館の「堅苦しいところ」「ひと時代前の施設」というイメージを覆し、「誰でも気軽に親しめる優しい場所」と感じさせてくれます。
なかでも印象的だったのは、紀一にかけた下記のセリフ。
「知りたいなら調べたらいいよ。ここ図書館なんだから」「本によって書いてあること違うし。だから何冊かあたるのは基本だよ」「著者、編集者、校正者って複数の目を通しているからこそ情報の信頼度が高いのが本なんだけど、でもどうしたって間違いや勘違いはある」「『絶対』ってことはないよ。やっぱり本は人間が書いてるからね。でもだからこそ面白いのよ、本って」と穏やかに言葉を重ねて紀一に図書館と本の魅力を伝えました。

紀一の友人・山田栄介(下川恭平)がとっさに答えた「モテる本」を探すエピソード、紀一が「十五夜、十六夜、十七夜」という読み方を調べるエピソードでも見られたように、小夜香の導きで高校生たちが気づきを得ていくシーンが同作のベースになっています。
感動を押し付けない奥ゆかしさ

さらに第2週の「弁償の必要がなかったのに遺族が弁償を申し出た」「すでに弁償されているのになぜか返却された」「遺族が引き取り拒否したため、本は廃棄するしかない」というエピソードでは図書館職員のリアルな立ち位置が描かれました。
ここでもモヤモヤとする紀一に小夜香が「たとえ借りた人の気持ちを感じ取ったとしても図書館はそこまで踏み込めないし。でも人の心は調べることはできないけど、想像することならできるんじゃないかな」などと語りかけます。

本ににじむ涙の跡のようなものを見つけた紀一は、「大切な人のものだから手元に置いておきたくて、なくしたふりをして弁償したのではないか」「でも前へ進むために返却したのか」などと考えました。
しかし、これ以上、利用者に聞けるわけでもないため、けっきょく結論は出ません。「ま、考えてもムダか、人の気持ちなんて」とあきらめようとした紀一に小夜香は「なぜ借りられたのかとか、どうして返してきたのか……なんてことは別に考えなくていいことだと思うけど……考えることが無駄なことだとは、私は思わないかな」と声をかけました。
これが図書館職員の現実的な距離感であり、心地よい関係性なのでしょう。他のドラマなら利用者の本心を明かすようなシーンを描くなど、わかりやすく感動を誘うような演出をするものですが、当作はあえてそこに踏み込みません。
「どのように受け取るかは視聴者次第」「想像して考えてみて」という余白を残すようなスタンスは、図書館という場所の奥ゆかしさのようであり、だからこそ感動を押し付けられるようなムードがないのです。
「ほぼ3人」だから魅力が伝わる

作品全体のプロデュースで目を引くのは、「主な登場人物は3人のみ」というシンプルな構成。ヤンキー高校生の石平紀一、図書館職員の早瀬丸小夜香、図書館の弁償・修理担当の白井里雪(青木マッチョ)の出演シーンが大半を占め、他の図書館職員、紀一の友人や家族の出番は限られています。
主要人物を3人に絞ったことのメリットは、それぞれの魅力が伝わりやすく、存分に描かれていること。

まず主人公の紀一はヤンキーで口が悪いけど、根は素直で好奇心旺盛など、随所にかわいらしさを感じさせています。強がりながらも小夜香や白井の言葉をすんなり聞き入れたり、利用カードを作ってもらって密かに喜んだり、図書館でのアルバイトをまじめにこなしたり、利用者の気持ちに思いをはせたり……。
「満たされない日々を送っていた純粋なヤンキー、しかもイケメン」の紀一が少しずつ変わっていく様子を見守る楽しさを感じさせられます。

次に小夜香は、おっとりしているが芯は強く、愛情豊かで頼れる理想の“お姉さん”キャラ。さらに「どんな方でもいらしていただけるのが図書館ですから」「利用者さんの疑問質問に真摯に答えるのも図書館員の務めですから」「本で知ったことを誰かに教えたい人のお話を聞くのも図書館員の仕事かな」などと心が洗われるようなセリフを連発しています。
「レファレンス(調べもの相談)が大好き」「時に教えたがりグセが暴走する」というシーンも含め、視聴者が「ひさびさに図書館に行ってみようかな」と思わせる魅力を感じさせてくれます。

そして3人目の白井は「本と図書館を守るため日々筋トレに励む」という小夜香よりも本と図書館への愛情を前面に押し出したキャラ。見た目のマッチョと手先が器用で修理が得意という視覚的なギャップもあってコメディパートを任されています。
第3週ではヤンキー生活を抜け出そうとする紀一に「(本の結末も、生き方も)変えたきゃ変えればいいと俺は思う」「だって本当は変えたいのに誰かから何か言われるから変えないのはダサい」と声をかける名シーンがありました。今後は図書館の堀田係長役で出演する川島明さんと青木マッチョさんの出世番組である「『ラヴィット!』(TBS系)共演」に期待したいところです。
知られざる図書館の世界をのぞき見

最後にもう1つ当作を語る上で忘れてはいけないのは、知られざる図書館の世界をのぞき見できること。
物語の中で「背表紙ラベルの読み方は?」「借りた本を破ってしまったら?」「紛失したらどのように弁償する?」「寄贈のルールは?」などの素朴な疑問に加えて、目が不自由な人に向けた対面朗読室、点字本、大活字本のサービスも紹介されています。
さらに「図書館職員にはどんな役割分担があるのか」「裏方の仕事にはどんなものがあるのか」「正規・非正規でどのような違いがあるのか」など職員の働き方も見どころの1つ。図書館を理想の場所として美化するのではなく、令和の今も実在するリアルな職場として率直に描いていることも関心を誘われます。
図書館を良くも悪くも率直に描いている分、主要人物3人を「図書館と本を愛するいいヤツ」にすることでエンタメとしてのバランスを取っているように見えますが、これは原作漫画を手がけた、ずいのさんが図書館勤務経験者だからこその作風でしょう。
また、放送の最後に時折はさまれる「図書館だより」は豆知識が得られるアクセントのコーナー。このような“終わりのコーナー”は1時間の連ドラなら蛇足になりがちですが、15分の帯ドラマならスッと受け入れやすく機能している感があります。

今後の物語で注目は、紀一が読んでいた『放浪する青』に秘められた過去でしょう。なぜ紀一の母・石平りょうこ(矢田亜希子)はこれを読んで涙を流していたのか。「自由はきっとこの空の先にある」というフレーズは何を意味しているのか。なぜ作者の十六夜かなきは時を経て結末を変えたのか。
放送は22時45分~23時という微妙な時間帯ながら、1話15分で毎日気軽に見られる夜の帯ドラマは依然として貴重な存在。そこで描かれているのは、朝ドラのような一代記とは真逆の日常風景であり、静かな気づきと感動を得られる物語。現在は月~木曜の4話×8週=全32話の前半パートを放送中であり、未視聴の人におすすめしたい静かな感動作であることは間違いありません。
夜ドラ「税金で買った本」(全32話)
8月24日(月)放送スタート
毎週月曜~木曜 総合 午後10:45~11:00
※NHK ONEでの同時・見逃し配信予定 (ステラnetを離れます)
NHK公式サイトはこちら ※ステラnetを離れます
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。