「お盆休みかな」と思わせる“2週連続なし”を経た25日夜、「団地のふたり」(NHK総合、火曜22時)第4話が放送されました。

同作は、同じ団地に住む55歳独身の大学非常勤講師・太田野枝(小泉今日子)とイラストレーター・桜井奈津子(小林聡美)の日常と友情を描いた物語。「55歳独身」「幼なじみ女性の友情」「団地で育ち、今も住んでいる」は地味ながらありそうでない絶妙な設定であり、まさに「刺さる人にはしっかり刺さる」タイプの作品としてジワジワと支持を広げています。

「団地のふたり」は2024年9月~11月にNHK BSで放送されたドラマですが、あらためて今夏見ると、「約2年間寝かせた」ような魅力が増していました。はたしてどんな物語で、どんな見方で楽しむ作品なのか。その本質を探っていきます。


民放では扱いづらい50代の物語

番組ホームページに書かれた【あらすじ】を見れば「団地のふたり」がどんな作品なのか、すぐにつかめるでしょう。

「団地で生まれた幼なじみのノエチと奈津子。結婚したり羽振り良く仕事したり、若い頃は色々あったけれど、わけあって昭和な団地に戻ってきた。小さな恥も誇りも、本気だった初恋のゆくえもお互いよく知っているから、今さらなにかを取り繕う必要もない。一緒にご飯を食べてバカなことを言い合いながら、日々へこんだ心をぷーぷー膨らませている」

「古くなった団地では、50代でも十分若手。子どもの頃から知っているおじちゃん・おばちゃんの家の網戸を張り替えてあげたり、昭和な品をネットで売ってあげたり。時代遅れの『ガラクタ』でも、どこかにいる誰かにとっては、きっと『宝物』。運よく高値で売れたら、その日のご飯はちょっとだけ贅沢ぜいたくにする。一方、新たに越してくる住人たちもそれぞれにワケありで。助け合いながら、変わらないようで変わっていくコミュニティがそこにある。 まったり、さらり、時々ほろり。 幸せってなんだろう。 今日もなんとか生きていく」。

若者や30代の生き方を描いたドラマはよくあるし、40代もときどき放送されますが、50代がメインの物語はめったに見られません。特にスポンサーの意向が重要な民放では商品購入の期待感が低い世代とみなされ、55歳の物語は企画が通らないでしょう。NHKが当初BSで放送したことからも、そんな主人公の年齢をめぐる背景がうかがえます。


フリマアプリの商品に自分を重ねる

では「55歳独身」の人生をどう描いているのか。2人は幼なじみのいる生まれ育った団地でどのように生きているのか。

野枝と奈津子の日常は物静かでテンションも低め。ただ、ちょっとした笑いには事欠かないほか、何事も起きないように見えてちょっとした変化があるものです。

たとえば、幼いころから知っているおじちゃんやおばちゃんから網戸の張り替えを依頼されたり、昭和の古い物をネットで売ってあげたり、それが高額で売れてちょっとだけ贅沢なご飯が食べられたり。周囲の人々とほどよくふれ合い、まれに助け合いながら、小さな変化を無理せず受け入れていく姿が描かれています。

特に「最近仕事が減り、フリマアプリで古い物を売って生計を立てている」という奈津子(小林聡美)の設定が絶妙。「こんなに古い物に高い価値がついて喜んで買ってもらえる」という喜びと、同じように年を重ねた自分や団地を重ね合わせて少しだけ希望を見出していくシーンが散見されます。

25日放送の第4話でも野枝と奈津子は「私たちそうヒマでもないし。いやウソ。ヒマだけど」「(以前浮気されたときは大荒れする)元気があったね」「(『詐欺では?』と言われて)何を奪うのよ。私たちから」など口を開けば、一見ネガティブな言葉ばかり。ただ、これらは怒りや悲しみを伴う自虐ではなく、笑い飛ばせるレベルの本音でしょう。

背伸びせず目の前の小さな幸せを見てまったりと生きていく姿は同世代だけでなく年下の共感を誘うものにも見えます。


2人が老いへの不安を感じない理由

当作を見る上で重要なもう1つのポイントは「団地のひとり」ではなく「団地のふたり」であること。

前述した小さな変化を楽しみ、少しだけ希望を見出していく日々を共有できる人がいたらどんなに幸せだろう……。それは「ひとり」の日々を送る人にとってファンタジーかもしれませんが、そんなありそうでない世界線を楽しんでもらうこともテレビドラマの役割でしょう。

「自分にもこんな幼なじみの親友がいたな」と思い出す。さらに「連絡してみようかな」と頭によぎる。あるいは幼なじみでなくても「今、友人として一緒に過ごしたいのは誰だろう」と考えてみる。仲むつまじい2人の姿は自分に置き換えて思いをはせてしまうような魅力があります。

そんな野枝と奈津子の描き方で特筆すべきは、親や兄弟とも、趣味の友人や勤務先の同僚などとも異なる距離感。家族ではないからこその気楽さがあり、誰より近くにいながら義務や依存はなく、それをいちいち言わなくてもわかり合っている様子がうかがえます。だから2人は55歳独身でも寂しくないし、無理して誰かとつながろうと思わないなど、老いへの不安を感じさせません。

これまで良いことも悪いこともたくさんあって、夢も目標もないけど、見栄みえや欲から解放された今が一番楽しいのかもしれない。そういう自分の過去や現状を知っている人が横にいて、一緒にご飯を食べてバカ話ができることが最高に幸せなんじゃないか。野枝と奈津子の絶妙な距離感が視聴者にそんなことを考えさせています。

小泉さんと小林さんの演技は役なのか本人なのか、区別がつかないレベルの自然体。実年齢でも同学年の2人は力を入れて役作りしているようなムードはなく、むしろ主人公らしからぬ脱力感しか感じません。しかもそんな2人が「古い団地では十分若手」という2重構造のような設定がさらなる脱力感につながり、リラックスして見られる作品となっています。


ホームドラマのレジェンドが制作

そんな「団地のふたり」を語る上で外せないのが、制作統括のトップに名を連ねる八木康夫さんの存在。

八木さんと言えば、昭和の「パパはニュースキャスター」「パパは年中苦労する」から平成初期の「ママハハ・ブギ」「パパとなっちゃん」、平成中期の「オヤジぃ。」「おとうさん」、そして10人の人気脚本家を集めた「おやじの背中」(すべてTBS系)までホームドラマを手がけ続けてきたレジェンドプロデューサー。近年はNHKのスペシャルドラマを手がける機会が続いていましたが、ひさびさの連ドラプロデュースであり、その意味でも「団地のふたり」は貴重な作品と言っていいでしょう。

その八木さんはトレンディドラマで突っ走るフジテレビを横目にTBSでホームドラマのヒット作を次々に作り出した凄腕すごうでであり、76歳の今なお現役。筆者がインタビューした際は「テレビドラマは家族そろって見るもの」と繰り返すなど、長い年月を経てもブレない姿勢に驚かされました。

そもそもホームドラマは「殺人事件などの大きな出来事が起きないためドラマティックなシーンを作りづらい」という難しさのあるジャンル。さらに令和のドラマシーンが“エンタメ偏重”に進む中、身近な人間関係を描いて感情移入を誘うスタイルは異彩を放っています。

民放のプロデューサーが視聴率確保に注力する中、最近の八木さんが民放よりNHKのドラマを手がけているのは「いつの時代も変わらない人間関係を描き続けるため」であり、その象徴的な作品が「団地のふたり」なのでしょう。

「Dr.コトー診療所」シリーズ(フジテレビ系)や「その女、ジルバ」(東海テレビ・フジテレビ系)などを手がけた吉田紀子さんの脚本、近年「コタローは1人暮らし」(テレビ朝日系)、「春になったら」(カンテレ・フジテレビ系)などのハートフルな作品が際立つ松本佳奈さんの演出などスタッフも万全。

丘みつ子さん、由紀さおりさん、名取裕子さん、ベンガルさん、橋爪功さんらベテランの生き生きとした姿も含め、すべてのピースがピタッとハマっているところにも八木さんの妥協なきスタンスを感じさせられます。

冒頭に「刺さる人にはしっかり刺さる」タイプの作品と書きましたが、裏を返せば「刺さらない人にはまったく刺さらない」ということ。ただ、嫌悪や拒否ではなく、ただ「見なくていいや」と思うだけ。そんな不要なアンチを生みづらいことも「団地のふたり」らしさなのでしょう。もしかしたら今夏の2年だけでなく、5年、10年と年月を経るほど魅力が増していく作品なのかもしれません。


ドラマ10「団地のふたり」(全10回)

7月14日(火)放送スタート
毎週火曜 総合 午後10:00~10:45

NHK ONEでの同時・見逃し配信予定 (ステラnetを離れます)

NHK公式サイトはこちら ※ステラnetを離れます

コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。