民放各局の春ドラマがようやく出そろいつつある中、早くも21日に最終回を迎える「魯山人のかまど」(NHK総合、火曜22時)。同作は全4回の短い連ドラながら、ネット上には「今年ナンバーワン」などの称賛があがっています。

とはいえ、「食と美の巨人・きたおおさんじんの晩年を描く」というコンセプトがピンとこないのか、多くの視聴者を魅了したとまでは言えず、逆に放送前の段階から敬遠するような声も見られました。

なぜ同作は刺さる人にはとことん刺さる作品となったのか。いくつかの点で注目を集めそうな最終回のだいも含め、同作の本質を探っていきます。


魯山人の成功物語ではなく回顧録

1つ目のポイントは、あえて北大路魯山人(藤竜也)の晩年にスポットを当てた作品であること。

「魯山人のかまど」は魯山人の成功物語でも偉人伝でもありません。ましてや、毎クール量産されているグルメドラマとも異なります。同作は北鎌倉で晩年を過ごす魯山人のもとを尋ねる記者・田ノ上ヨネ子(古川琴音)の回顧録を通して、その人柄や食と芸術への向き合い方を描いた物語。

「晩年になっても衰えぬ探求心を描く」という点では見応え十分であるものの、第1話の冒頭で「所構わず怒鳴どなり声をあげ、傍若無人で身勝手な人物」「怒り出すと止まらない。何人もの記者が泣いて帰ってきた」と紹介されたように、見る人を選ぶタイプの主人公です。

その主人公を演じるのは藤竜也さんですが、本物を知らない多くの視聴者にとっては、もう魯山人にしか見えません。またネット上には、魯山人がモデルと言われる漫画『美味おいしんぼ』のかいばらゆうざんに重ね合わせて見る声も散見されました。いずれにしても、気難しくて接しにくそうな人です。

藤竜也さんは現在84歳の大ベテランですが、魯山人の料理を食べられるのは各界の大物ばかりのため、登場人物は必然的にベテランぞろい。吉田茂首相役の柄本明さんを筆頭に、大物政治家・大河原角造に77歳の伊武雅刀さん、陶磁器研究者・大山に60歳の尾美としのりさん、使用人の春子を51歳の中村優子さんが演じ、第3話のゲストでも世界的アーティストのイサム・ノグチを55歳の筒井道隆さん、妻で歌手の山口淑子(李香蘭)を49歳の一青窈さんが演じました。

魯山人の気難しいキャラクターとベテランぞろいのキャストで敬遠してしまった人もいるのでしょう。しかし、見れば見るほどにその2点が和食の優しい味わいのように伝わってくるドラマにも見えてきます。


悲しい過去にも悲壮感がない理由

魯山人は20年近く彼の世話をしてきた使用人の春子を「あんた誰に向かってものを言っとるんや。出てけ! 二度と来るな」と追い出してしまい、悔しさからヨネ子も涙をこぼすシーンがありました。ただ、そんな所構わず相手を罵倒する激しさを見せる一方で、常に手間暇を惜しまず食の美を追い求め、時に食べる人をそっと見守るような温かさがにじみ出ます。

とりわけヨネ子に対しては「正直でよろしい」と最初から心を開き、悲しい過去を淡々と語り続けました。ところが親に捨てられた過去にも悲壮感は感じられません。「子どものころから食べ物に異常な執着があってな。捨ててある野菜クズや魚のアラにもそれぞれの味があるのがわかったり、道端の野草や川におるタニシにも心躍ったわ」と話す姿は自然体そのもの。過去を嘆くどころか、「自分はなるべくして北大路魯山人になった」というきょうを感じさせました。

さらに親の話を聞こうとしたヨネ子に怒って席を立ったと思ったら、実は米を炊いていて、「お米もお水も毎日違うんや。一滴も同じことはない。せやから真心こめて炊くんや」「ご飯はな、最高の料理なんや」「はい、これ持って帰り(おむすびとタニシのつくだを渡す)」と語りかける姿は当作屈指の名シーンと言っていいでしょう。

私たち視聴者は気難しい魯山人が珍しく受け入れたヨネ子の目線を通して、彼の考え方や孤独なざまを知っていくことになります。両親の顔すら知らず、3歳で早くも美に目覚めたものの、それを追求するほど周囲との距離が広がってしまう……。彼の考え方や生き様は理解されず、「傍若無人」というレッテルを貼られ、ますます孤独になっていく様子に寂しさを誘われます。

生活の苦しさが増す中、人間国宝の誘いを断り「名誉とか勲章とは無縁でありたいんや」と語るシーンはその生きづらさを象徴するとともに、彼への愛着が増していくように感じました。


食べるだけのシーンに魅了される

ここまで書いてきたように「魯山人のかまど」は北大路魯山人という人物と、彼の生き様にスポットを当てた作品であり、よくあるグルメドラマとは一線を画しています。

京丹波のあゆや炊きたてのご飯などは食欲をそそられますが、いい意味でそこにとどまることはありません。実際、グルメドラマにありがちな料理の過剰なアップショットや食レポのようなセリフはなく、基本的にただ食べるだけ。ただ、四季の素材を生かした魯山人の料理には素朴だからこその美しさと温もりがあるため、食べるだけのほうがリアルなおいしさを感じさせられます。

さらに調理や食事のシーンがシンプルな分、「和食とは?」「食べることとは?」。引いては「美とはどんなことなのか?」「生きていく上で何が大切なのか?」という本質を考えさせられるところも当作の醍醐味でしょう。視聴者は回を重ねるごとに「それらを追求することこそ魯山人の生き様だったのではないか」という感覚を共有していきました。

これは裏を返せば、私たち視聴者は「魯山人という人物、食べること、和食、人生の本質を見極められるか」を制作サイドから試されているのかもしれません。


魯山人の美であふれたロケ地と器

21日放送の最終回では、そんな魯山人のもとに大富豪・ロックフェラー3世が訪れます。そのロックフェラー3世を演じるのは『ミッション:インポッシブル』「スター・トレック」シリーズなどで知られる世界的俳優のサイモン・ペッグ。藤竜也さん演じる魯山人とは時代を超えた日本での共演であり、生き様の集大成として描かれるのではないでしょうか。

さらに魯山人からたびたび「私が作り、あんたが食べるんや」と言われ、彼の孤独を知ったヨネ子が「彼のために料理を作りたい」と思うようになっていく姿も注目を集めるでしょう。

魯山人が北鎌倉で住んでいたかやきの古民家を移築した茨城県笠間市でのロケ、料理の器や室内装飾に使われた魯山人の作品、その他の風景、衣装、小物なども含め、どこをどう切り取っても北大路魯山人のドラマに相応しい美であふれています。

これらは脚本・演出を担った中江裕司さんとNHKの技術や努力あってのものであり、民放各局での制作・放送はほぼ不可能でしょう。NHKの中でも朝ドラや大河ドラマとは明らかに異なる唯一無二の世界観があるだけに、「まだ見ていない」という人はオンデマンドでの視聴をおすすめします。

コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。


特集ドラマ「魯山人のかまど」(全4回)

3月31日(火)放送スタート
毎週火曜 総合 午後10:00〜10:45

第3回再放送:4月17日(金)午前0:35~1:20 ※木曜深夜
第4回本放送:4月21日(火)午後10:00〜10:45
第4回再放送:4月24日(金)午前0:35~1:20 ※木曜深夜

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