テレビを愛してやまない、吉田潮さんの不定期コラム「吉田潮の偏愛テレビ評」。今回は、土曜ドラマ「リラの花咲くけものみち2」です。

北海道の大自然を堪能できるドラマといえば? 私は「北の国から」(フジ)や「昨日、悲別で」(日テレ)など、テレビが古き良き時代・昭和に戻っちゃう。脚本家・倉本聰の世界観が脳に焼き付いている世代なんですわ。キツネをみたらルールルルーと声に出しちゃう世代ね。

もちろん、令和でも北海道が舞台の作品はちょいちょいある。猛吹雪や円形交差点(旭川)の映像がなんとも情緒的だった満島ひかり&佐藤健主演の「First Love 初恋」(Netflix)や、広大な土地ゆえの人命救助のジレンマを描く、吉沢亮主演「PICU 小児集中治療室」とかね。北海道に縁もゆかりもない人間は、憧れや畏怖の念など、さまざまな思いをせてしまう。

そんな北海道の大学が舞台のドラマがある。主人公は元ひきこもり、一念発起して獣医師を目指す「リラの花咲くけものみち」、略して「リラけも」だ。昨年の2月にシーズン1が放送、たった3話だったが強く印象に残った。

幼くして母が亡くなり、父や継母とはうまくいかず、愛犬の死を経験して、ひきこもっていた岸本聡里(山田杏奈)は、祖母(風吹ジュン)に救い出される。チャレンジスクールに進学し、猛勉強の末、北海道の北農大学に入学。人間関係は不得手だが動物が好き、というシンプルな動機だったが、獣医師になるためには精神的にも倫理的にもいばらの道が待っていた……というストーリー。シーズン1では敬愛する祖母も亡くなった。10代でとてつもなく大きな喪失感を幾度も味わうのだ。「動物であれ、人間であれ、この世に生まれた命の尊さとはかなさを思う。人間の身勝手さ、矛盾、都合、限界を思う」場面に頻繁に遭遇する聡里。思う、というより、思い知らされる、といったところか。風景や野生動物の映像も素晴すばらしいが、満身まんしんそうの聡里の成長をずっと見守りたいと思わせた。で、待望の続編が放送。聡里はまだまだ壁にぶつかりまくっている。


切磋琢磨の仲間とともに成長

聡里を支えてくれたのは同級生や先輩たちだ。シーズン1で寮の同室になった梶田綾華(當真あみ)は、医者家系の家で育った。当たり前に医学部を目指す兄たちとの処遇や期待値の差に抵抗して、変化球で獣医学を目指した経緯がある。動物が好きじゃないという矛盾はあったが、どうやら道を見つけたようだ。獣医学を支える食品衛生学を学び、動物のための治療薬や予防薬の開発研究を目指すという。

鳥類学者の息子で自身も無類の鳥好き、綾華からは鳥太郎と揶揄やゆされていたのが、久保残雪(萩原利久)。残雪という名前は『大造じいさんとガン』という児童書からとって、父がつけたという(わぁ、懐かしい! と思ったよね)。残雪は聡里に淡い恋心を抱いているのがシーズン1でもダダ漏れだったが、引き続き、絶賛片思い爆走中で、ある意味安心した。シーズン2では、逆に残雪に思いを寄せてくる無類のタンチョウ好きガール・浅山香穂子(秋田汐梨)も登場。タンチョウで思い出しちゃうのは、これまた昭和の名作「池中玄太80キロ」(日テレ)なんだよね。西田敏行演じる主人公のカメラマンがライフワークとしてタンチョウを撮影していたっけ。杉田かおるの歌もつい流れてきちゃうんだけど、それはさておき。

シーズン1で聡里が恋心を抱いたものの、恋人がいることを悟って告白しなかったのが先輩の加瀬一馬(佐藤寛太)。加瀬の恋人は優秀でクールな先輩・静原夏菜(石橋静河)だったが、シーズン2ではふたりとも就職している。札幌の動物病院で働く加瀬は、稚内わっかないの牧場で働く静原とほとんど会えずにいる。しかも勤め先の院長と考え方が合わず、第1話で転職を決意。知床しれとこに行くという加瀬。

聡里は聡里で伴侶動物(ペット)専門を希望すると思っていたら、生産動物(産業動物、家畜)を選んだようだ。

シーズン1で馬や牛のお産現場で指導してくれた獣医師の能見正也(甲本雅裕)の言葉も影響した模様。牧場や農家を回る仕事を「その土地に根付いてともに生きるっていいなと思って」と言っていたのだ。

馬の出産に立ちあい、「母か子か、命の選択」を迫られる厳しい現実に直面し、聡里はやりきれなくなって一度逃げた経験がある。その後、牛の出産で無事に子牛が生まれるのをアシスト。牛一頭でも農家の生活がかかっているという厳しい現実に触れ、動物の向こう側にある誰かの人生について思いを馳せたのだった。


頼もしい先生に、新登場の大先輩?

仲間だけでなく、聡里の成長を温かく見守ってくれる先生もいる。前述した生産動物専門の獣医師・能見もそうだが、ナナカマド動物病院の久恒院長(山崎静代)は、聡里の特性をよくわかっている。よく言えば実直さや優しさ、悪く言えば理想主義の暴走機関車。それは獣医師にとってある意味必要なものではあるが、さらにそぎ落とさなければいけない感情や、動物に関わる人の情に必要な配慮があることをそっと教えてくれる役回りだ。朴訥ぼくとつな北海道弁(語尾につける「さ」)は、しずちゃんから醸し出される安心感とあいまって、説得力十分。

また、シーズン2で新しく登場するのは、家畜保健衛生所の職員・犬飼健太郎。演じるのは上川隆也。第1話の最後のほうで聡里とぶつかっただけだが、どうやらシーズン2の主要キャラクターとなる模様。零細牧場を営む折原(温水洋一)とは親友であり、聡里たちの北農大学の卒業生でもあるという。大先輩じゃん!

余談だが、上川が犬頭光太郎という名の調査員を演じたドラマ「問題物件」(フジ)を思い出した。犬の化身とも言える謎の男を熱演。犬なのか人間なのかよくわからないまま、コミカル&キュートな上川を最後までたのしめた(犬つながりの名前だったのでつい脱線)。

逡巡しゅんじゅんし、懊悩おうのうし、青春を獣医学に注ぎ込む若者たちの周りで、大人たちもまた迷う。生きとし生けるもののために、何ができるのか、何をすべきなのか……。


獣医師が避けては通れない「命の選択」が再び

成長したとはいえ、まだまだ聡里は理想主義で突っ走ってしまうところがある。そう、そこがとても大切だ。命を扱う職種の人は、常にこの理想と現実と闘っているわけで、仕事を続けている限りは何度もぶち当たるはず……。

第1話では、ペットの安楽死を描いた。愛犬キナコを連れてナナカマド動物病院を訪れたのは、野崎(竹原ピストル)。キナコはもともと保護犬で、妻と一緒に我が子のように慈しんで育ててきたという。妻を病気で亡くし、キナコとともに悲しみを乗り越えて来た野崎だが、キナコも病に侵されていることがわかる。手術も難しいと大学病院で診断され、痛みがひどくなる前に静かに逝かせてあげたいと安楽死を望む。聡里は安楽死には反対で、納得がいかない。いかないが、久恒院長の言葉で深く考えることに。
「獣医師は命を救う仕事でもあるけれど、命の終わりに立ちあう仕事でもある」

野崎の思いに寄り添い、野崎とキナコに最期の散歩を提案した聡里。終わりを迎える大切な瞬間に立ちあうことで、獣医師の務めを果たすのだった。

私事だが、飼っている2匹の猫(元保護猫)のうち、1匹が口腔こうくう内の扁平へんぺい上皮がんを発症、昨年余命宣告を受けた。抗がん剤と抗炎症薬の薬物療法で進行を遅らせる消極的治療を選び、奇跡的に薬が効いてはいる。ただし、今後は痛みと食欲低下でなだらかに死に向かっていくという腫瘍専門の獣医師の見立てだ。キナコと同じ状況でもある。食べられるうちは食べさせてあげたいが、痛みや苦しみは極力取り除いてあげたい……。なので、野崎がキナコに安楽死を望んだ経緯は、泣きながらぐちゃぐちゃの顔でた。

愛する動物が闘病中、あるいは亡くして立ち直れない経験のある人に、積極的には勧められないが、命の終わりとしんに向き合える数少ないドラマでもある。聡里が感情論と倫理観のはざまで選択肢に悩みながら、獣医師として成長し続ける姿をそっと見守っていきたい。


「リラの花咲くけものみち2」(全5話)

8月22日(土)放送スタート
毎週土曜 総合 午後10:00~10:45

NHK ONEでの同時・見逃し配信予定 (ステラnetを離れます)

NHK公式サイトはこちら ※ステラnetを離れます

ライター・コラムニスト・イラストレーター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業。健康誌や女性誌の編集を経て、2001年よりフリーランスライターに。週刊新潮、東京新聞、プレジデントオンライン、kufuraなどで主にテレビコラムを連載・寄稿。NHKの「ドキュメント72時間」の番組紹介イラストコラム「読む72時間」(旧TwitterのX)や、「聴く72時間」(Spotify)を担当。著書に『くさらないイケメン図鑑』、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか?』、『ふがいないきょうだいに困ってる』など。テレビは1台、ハードディスク2台(全録)、BSも含めて毎クールのドラマを偏執的に視聴している。