春ドラマが次々に最終話を迎える中、最も遅い6月30日まで放送され、まだ3話を控えている「コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店」(NHK総合、火曜22時)。
ここまでの7話は、九州のコンビニチェーン「テンダネス」の門司港こがね村店を舞台に、フェロモンだだ漏れの店長・志波三彦(ミツ)(中島健人)とワイルドな「何でも屋」の兄・志波二彦(ツギ)(中島健人・二役)が来店客らの悩みを解決していく様子が描かれてきました。
ネット上には「毎回いい話でほっこりする」「身近なテーマだけどけっこう深い」などの肯定的な声と、「店長のキャラが見ていられない」「1人2役にする必要あった?」などの否定的な声にはっきりと二分されています。
筆者が第1話から見続けて感じたのは、「序盤の印象で損をしたかも」「各話のエピソードはよく練られている」の2点。ここでは今春ドラマで最も賛否が明確に分かれた作品と言えそうな「コンビニ兄弟」の本質を探っていきます。
祖母と孫の悩みを優しく解決

9日放送の第7話は当作の良さが随所に表れていました。
簡単にあらすじを書くと、永田満江(余貴美子)は、リストラでローンが払えなくなった息子に頼られて佐賀の家と畑を売り、門司に移住。住み慣れた土地と友人と離れたほか、息子夫婦や孫娘・詩乃(中井友望)との生活も合わず、新たな日々になじめないでいた。
ある日、めまいを起こした満江は三彦に助けられて「テンダネス」に行き、彼のファンクラブを結成する常連客らと友達になり、服装も一変。明るい表情も見られるようになるが、息子夫妻からは全面否定されてしまう。一方、高校生の孫・詩乃は校内で辛い失恋をして深く傷付くが、「テンダネス」にいた満江と遭遇し、2人の距離が縮まりはじめる……。

端的に書くと、「互いに嫌われていると思い込むなど、接し方がわからなかった祖母と孫がわかり合い、2人で家族を変えていく」という優しい物語でした。特に印象的だったのは、失恋の経緯を語った詩乃に満江が「偉かったね。自分の大事な部分ば、守り通したのは偉かった」と語りかけるシーン。自分がそれをできずに後悔していることを明かして励ます姿は慈愛に満ちていました。
さらに満江の名言は続きます。「人を好きになるってよかことよ。相手だけやなくてその人ば好いとる自分までも好いとることになれたらよかと思う。そういう好きにめぐり合えたらきっと幸せ。詩乃の歳ならこれからいくらでもそういう人にめぐり合えるさ」と続けました。
これを受けた詩乃も「私、全力で応援するから。おばあちゃんがおしゃれすることも、(三彦の)ファンクラブ活動することも全部応援する」と全力で返し、満江は「うれしかよ。それだけでばあちゃん、もう十分ここに来てよかったと思う。こげなきれいな服着て、孫と恋の話できてホントに幸せ。人生っちゃ、いつでもやり直しが効くとやね」と笑顔で締めくくりました。
特筆すべきは「住み慣れた土地や友人との別れ」「移住の難しさ」「手痛い失恋」などの身近な悩みを扱いつつ、過不足なく1話にまとめ上げた脚本と、それに応える余貴美子さんと中井友望さんの演技。3世代どの年齢層が見ても共感できるようなエピソードになっていました。
第3話以降ジワジワと増える共感

これまでのエピソードを振り返ると、特に称賛のコメントが目立ったのは女子中学生のカーストといじめを扱った第3話。中学生の友情と成長の物語がさわやかに描かれ、人気子役・稲垣来泉さんと新津ちせさんの熱演も目を引きました。
さらに第4話ではコンビニ嫌いの高齢者・大塚多喜二(光石研)と孤独な小学生・南方ひかる(渋谷いる太)が運動会の二人三脚に挑むエピソード、第5話では高校生の三角関係をめぐる恋のエピソードが描かれ、どちらもおおむね好評。ネット上のコメントを見ても「放送を重ねるたびにハートフルなエピソードの精度が上がり、視聴者を引きつけている」というムードを感じさせられます。

各話で共通しているのは「テンダネス」という店名の通り、コンビニが単なる買い物の場ではなく、「悩みを抱えた人がふっと立ち寄れる優しい居場所」として描かれていること。「コンビニ兄弟」は三彦と二彦、店員、常連客らの優しさで悩みを解決していく癒しがベースの作品であり、個人の尊重が叫ばれる令和にふさわしい人生賛歌と言ってもよさそうです。
ネット上には「近くにこんなコンビニがあったら……」という声があがり、なかには「近所のコンビニが開いていることのありがたさに気付いた」という声もありました。殺人などの大事件、不倫や復讐などの愛憎劇、タイムリープや転生などのSFといった刺激の強い作品が大半を占める中、当作のような何気ない日常を描いた物語は貴重。しかも「スーパーヒーローではない普通の人々が悩みに寄り添うことが解決につながっていく」という流れに引きつけられます。
惜しむらくは序盤の1・2話が響きにくいエピソードだった感があること。第1話は気難しい高齢者とコンビニ店員の関係性、第2話は塾講師の「漫画家になりたい」という夢と現実が描かれましたが、第3話以降ほどの共感は得られませんでした。もし放送順が違ったら、作品そのものに寄せられる共感の声はもっと多かったのかもしれません。
続編を制作するほど課題解決?

否定的な声で多かった「店長のキャラが見ていられない」「1人2役にする必要あった?」という指摘は、制作サイドも賛否を承知で決断したのではないでしょうか。
「中島健人へのあて書きみたい」という声が散見された三彦のフェロモンキャラと1人2役が「アイドルドラマ」という先入観を誘ったのは間違いないでしょう。作家・町田そのこさんの小説を実写化した作品ではあるものの、「僕にとってお客さまは全員“ハニー”ですから」などのセリフやメイクをした顔を際立たせるような演出に戸惑う声も散見されました。そんな作品の入口が気になってハートフルな各話のエピソードに注目するところまでたどり着けなかったという視聴者もいたようです。
「主演俳優のアイドル性を生かした強烈な主人公」「さまざまな人々の悩みを解決していくハートフルな物語」という点は同じ「ドラマ10」で放送された山下智久さんの「正直不動産」と共通しています。さらに、どちらの作品もエピソードの1つ1つはよく練られ、1話45分でまとまっていることも共通点の1つでしょう。ヒット作との共通点があるだけに「コンビニ兄弟」も中盤から終盤にかけて右肩上がりで支持を集める可能性を感じさせられます。

もしかしたら、否定的な声のもととなっている三彦のキャラも、「僕はいつもここにいますから」などの決めゼリフも、続編を制作するなど放送を重ねるほうがジワジワと支持を得ていくのかもしれません。
また、「コンビニ兄弟」にはコンビニグルメという要素もあり、実際にここまで“ツギのアレンジメニュー”として「キムカツマヨ丼」「福神漬け入りたまごサンド」「焼きチーズ肉まん」「コンビニおにぎり茶漬け」などが紹介されました。ただ、「これを今すぐに食べたい」と思わせるようなグルメドラマにおける「飯テロ」の吸引力は少なく、やはり食べ物より人がメインの物語なのでしょう。

最後にもう1つあげておきたいのは放送枠について。昨年末に放送された「ひらやすみ」のような何気ない日常を描いた物語だけに「ドラマフリークのシビアな視線が集まり、社会派作品の多い「ドラマ10」より、「夜ドラ」の平日15分のほうがハマるのでは」と感じました。
門司港の景色はただただ美しく、テレビの連ドラでここまでロケーションを生かした撮影をやり切れるのはNHKだけでしょう。残り3話にして「もっともっとよくなるドラマかもしれない」「原作者と調整して続編を手がけては?」と思わせる稀有な作品であることは確かです。
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。
NHK公式サイトはこちら ※ステラnetを離れます