地震や津波などの災害が起きた時、どのようにペットを守りますか?
NHK財団では、日本動物愛護協会とともに全国で防災ワークショップを開催しています。
次の開催は、富山会場です。
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災害の発生で避難しなければならなくなった時、大切なペットと一緒に安全な場所に向かうことを「同行避難」と言います。環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン」では「指定緊急避難場所や指定避難所などに移動する際、飼い主はペットと一緒に同行避難する」と推奨しています。しかし、避難所の多くは「ペットはケージに入れ、人とは別の空間で過ごす」としていて、前述のガイドラインも「同行避難とは避難行動を示す言葉であり、指定避難所でペットを人間と同室で飼養管理することを意味するものではない」と説明しています。

ペットシェルターで過ごす能登半島地震で被災した猫 

こうした避難所の実情をどう受け止めればいいのか。「私はペットと一時も離れたくない」「同じ空間で過ごせないなら避難所には行きたくない」そう考える飼い主も少なくありません。防災ワークショップ「災害からペットを守る」愛知県会場(安城市民会館・2/21開催)では、災害とペット避難の課題がクローズアップされました。

日頃の備えや適切な避難方法など、ペット防災の知識を会場全体で学んだ
司会の滝島雅子さん(左)と監修の平井潤子さん(右)

避難所はペットを受け入れるのか

そもそも、災害時に避難所はペットを受け入れてくれるのでしょうか。今回、会場にお集まりの皆さんに「ワークショップで知りたいことは何ですか」とたずねたところ、最も多かったのが「私の町の避難所はペットを受け入れてくれるのですか」という疑問でした。そこで、会場となった安城市の危機管理課に対応を訊ねました。

最も多かった質問は「避難所のペット受け入れ」

安城市によると、市内62か所にある「指定避難所」の全てで「犬や猫などのペットを受け入れる」としています。ただし、犬や猫などはケージに入れ、人が過ごす空間とは別の「雨風をしのげる屋外」に置いて「飼い主が世話をする」のが原則です。

安城市の対応は環境省のガイドラインに準じた内容

こうした安城市の対応ついて、ワークショップの監修役でNPO法人「人と動物の防災を考える市民ネットワーク=ANICEアナイス」の平井潤子代表は「環境省の『人とペットの災害対策ガイドライン』に準じた対応だと思います」として、次のように解説しました。

平井さんは環境省のガイドライン編集委員を務める

「避難所は不特定多数の人が集まる公共の施設です。人と同じ空間に犬や猫を連れてきてしまうと、抜け毛が舞ったり、匂いが漂ったり、人によってはアレルギー症状が引き起こされたり、様々さまざまな問題が生じる可能性があります。ですので、人が過ごす空間とペットが過ごす空間を分けざるを得ないのです」。

避難所は不特定多数の人が集まる「公共の場所」

近年の犬猫の飼い方は「飼い主と室内で同居」が主流です。環境省も「動物の安全、健康、周囲への迷惑防止」の観点から室内飼育を推奨しています。そうした飼い方を通じてペットと飼い主の間には、強い「心理的な結びつき」が生まれます。それだけに「避難所ではペットと生活空間を分ける」という対応を「理屈ではわかっていても受け入れがたい」と考える飼い主は少なくありません。


ペットと45日間の避難生活を経験した子浦幸子さん

事例1・子浦幸子さん「離ればなれの避難は考えられない」

2025年1月の能登半島地震で富山県氷見市の自宅が準半壊した子浦幸子さんは、2頭のポメラニアンと2羽のインコを連れて、避難先を転々とする日々を過ごしました。
車中泊⇒近所の小学校⇒車中泊⇒ペットカフェ⇒壊れかけた自宅⇒旅館⇒動物病院⇒ペンション⇒新居と、ペットと一緒に身を寄せた避難先は9か所に上り、避難生活は45日間に及びました。

第3部「災害現場に学ぶQ&A」にゲスト出演し、体験を語る子浦さん

子浦さんは「犬やインコと別々に避難するという選択肢は、私にはありませんでした」と当時の心境を語りました。

インコの世話をする子浦さん

「インコたちは寒がりですし、環境の変化に敏感なので、不慣れな場所で過ごすと体調を崩す心配がありました。犬たちはケージに慣れていませんし、警戒心が強いので、他の犬や猫と一緒に未知の場所で過ごすのは、ハードルが高すぎると思いました。私自身も、動物たちと離ればなれになったら、心配で仕方しかたがありません。ですので、犬やインコを連れて一緒に避難するという選択肢しか、私には思い浮かびませんでした」。

立ち入り制限の貼り紙(提供/氷見市ふれあいスポーツセンター)

地震の直後、子浦さんは、避難所となった氷見市のスポーツ施設を訪ねますが、ペットと同じ部屋で過ごすことを断られます。そこで駐車場にマイカーをめ、「車中泊」を選択。しかし、クルマで過ごすことがストレスになったのか、2頭のポメラニアンは体調を崩してしまいます。「食欲が落ちたり、下痢をしたり、神経が高ぶってみつくようになったり、とても苦労しました」。

オムツをして車中泊する子浦さんの愛犬(ルイちゃん・ルカちゃん)

車中泊に疲れた子浦さんは、NPO法人が運営するペットカフェに、数日、身を寄せます。しかし、来店する客に犬たちがえるようになり、「お店に迷惑をかけるのは忍びない」と、犬とインコを連れて壊れかけた自宅に戻ることにしました。

準半壊と判定された富山県氷見市にある子浦さんの自宅

「当時、まだ余震が続いていて、とても危険な判断だったと思います。けれど、犬やインコたちと一緒に避難生活を続けるには、他に選択肢が無かったのです」。

子浦さんの「危険な避難」を知った勤務先は、ペットと宿泊できる旅館やペンションを探して避難生活を支え、子浦さんは地震から45日後に新居に移り住みました。「職場のサポートでなんとか落ち着きましたが、今、思い返しても大変な日々でした」と当時を振り返ります。

旅館で過ごす子浦さんの愛犬(ルイちゃん・ルカちゃん)

事例2・坂谷悟美さん「動物病院に預けて良かった」

石川県輪島市の坂谷悟美さんは、元日の午後、母親と近所の温泉を訪ね、入浴中に震度7の揺れに襲われました。慌てて浴衣を羽織り、外に出たところ、通りがかった知人のトラックに助けられ、避難所に身を寄せました。自宅には7頭のプードルを残したままでした。 

坂谷悟美さん(右)と母親の豊恵さん(左)

坂谷さんは、避難所で調達した食料と水を背負い、地割れや土砂崩れで寸断された「道なき道」を、片道3時間かけて歩き、犬たちの待つ自宅に通いました。そうした日々を1か月余り続けるうちに心身ともに疲れ果てた坂谷さんは、石川県獣医師会が始めた「犬猫の一時預かりサービス」を利用することにしました。

坂谷さんと愛犬(アメルちゃん)

「獣医師の先生が動物病院で預かってくれると聞いて、それなら安心だと考えました。もちろん、犬たちと一緒に過ごせることが一番ですが、避難生活が長引く中、壊れた家の修繕や、高齢の母親の通院の付き添いなど、やらなければならないことが数多くありました。犬の世話も加わって疲れ果てていたので、信頼できる動物病院に預けることが出来たのは、とても助かりました」と語ります。

坂谷さんの愛犬(ラッキーくんとハッピーくん)

坂谷さんは、その後、獣医師会が開設したペットシェルター「ワンにゃんハウスのと」に犬たちを預け、自宅の補修を進めました。「地震の後、元の生活を取り戻すには、時間も体力も必要です。犬たちを預けて良かったと思っています」と坂谷さんは言います。


第3部「災害現場に学ぶQ&A」の様子

監修役の 平井潤子さん「状況に応じて臨機応変な対応を」

犬やインコと一緒に避難することを選択した子浦さんと、ペットを預けることを選択した坂谷さん。被災地では、この他にも、飼い主が亡くなったり、長期の入院を余儀なくされ、やむを得ずペットを譲渡するケースなど、多様な事例があります。

ワークショップの監修役の平井潤子さんは「状況に応じた臨機応変な対応が求められます」と呼びかけました。

NPO法人「ANICE」平井潤子代表

「かけがえのない家族である犬や猫、ペットたちと片時も離れたくないという気持ちは、私自身、猫の飼い主なのでよくわかります。ですが、そうであるならば、平時のうちに災害への備えを進めてください。望ましいのは在宅避難ですが、そのためには耐震補強をしっかりしておくこと。火事を出さない心構えも大切です。食べ慣れたフードや好物のおやつは1か月分を目安に用意して、ローリングストックしてください」。

能登半島地震で子浦さんが車中泊に使用したクルマ

「マイカー避難を考えるなら、シートがフラットになる、室内が広めのクルマを用意することをお勧めします。ポップアップテントを持っていると、季節が良ければ避難先でペットと過ごすのに役立ちます。そうした備えをしていても、状況によっては避難所のお世話にならざるを得ない場合があるかも知れません。そのために長期の使用に耐えられるケージを用意しておく。ケージで過ごすのに慣らしておくことも必要です。災害は、私たちの予測を超える形でやってきます。やむを得ない場合には、大切なペットを預ける覚悟も含めて、臨機応変な対応が求められことを、心構えとして持っておいてください」。

トレスくん(愛知県刈谷市「よこやま動物病院」看板犬)

災害時に大切なペットをどう守るのか。平時のうちに十分な備えと心の準備をしておくことの大切さを、平井さんは「飼い主力と防災力」というキーワードを示して、飼い主の皆さんに訴えました。


柴田理恵さんと愛犬・はるすけくん

次回は富山会場(4/18[土])、ゲストは柴田理恵さん

次回の防災ワークショップ「災害からペットを守る」は、富山駅前にあるオーバード・ホール(中ホール)で4月18日(土)に開催します。

ゲストは富山県出身のタレント・柴田理恵さん。保護犬を大切に育てているエピソードなど、動物への愛情にあふれるお話を聞かせて頂きます。NHKの番組でお馴染なじみのチコちゃんが出題者となる気象災害クイズや、MISIAの歌で大ヒットした「Everything」の作曲家・松本俊明さんのピアノ演奏など、災害への備えや心構えを楽しく学べる3時間のプログラムです。

チコちゃんが出演する気象災害クイズコーナー
松本俊明さんのライブパフォーマンスも必聴です

入場は無料(ペット同伴不可)。観覧ご希望の方は、お早めにお申し込み下さい(定員600人に達し次第、締め切ります)

(取材・文/NHK財団 社会貢献事業本部・星野豊)

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