スマートフォンやSNS、生成AIが日常に深く入り込むいま、私たちは情報を「受け取る側」であると同時に、誰かに届ける側、そして情報空間をつくる側にもなっています。
これから技術を学び、社会の仕組みを設計していく若い世代は、情報社会をどのように見ているのでしょうか。

2026年8月、NHK財団は宮城県名取市にある仙台高等専門学校名取キャンパスで、ロボティクスコース3年生(学科指導:若生 一広教授、櫻井祥平技術専門職員)を対象に出前授業を行いました。テーマは「スマホの時代の情報との向き合い方」。学生の皆さんのスマホ利用実態やSNS、生成AIへの意識を出発点に、「情報的健康」についてともに考えました。


「信頼できる情報源はない」というリアル

授業に先立ち実施したアンケートでは、参加学生の1日の平均スマートフォン利用時間は7.97時間でした。一方で、平均勉強時間は1.24時間、睡眠時間は6.28時間という結果でした。

数字だけで単純な比較はできませんが、スマートフォンが学習やコミュニケーション、娯楽、情報収集など、生活のさまざまな場面を支える存在になっていることがうかがえます。
また、「世の中の動きやトレンドを知る方法」として最も多かった回答はSNSでした。しかし、「信頼できる情報源は何か」という問いに対しては、「特に信頼しているものはない」という回答が最も多く寄せられました。

多くの学生がSNSから情報を得ている一方で、その情報を無条件に信頼しているわけではありません。情報に触れる機会は多いものの、何を信じ、どう判断すればよいのかを模索している姿が見えてきました。


情報にも「健康」がある

健康を考えるとき、私たちは食事や睡眠、運動に気を配ります。しかし、毎日大量に取り込んでいる情報については、何をどれだけ受け取り、それが自分の判断や社会への見方にどう影響しているのかを振り返る機会は多くありません。
SNSや動画配信サービスでは、アルゴリズムによって一人ひとりに最適化された情報が届きます。便利である一方、似た考え方の情報ばかりに囲まれるフィルターバブルや、同じ意見ばかりが共鳴し合うエコーチェンバーが生じることもあります。

そこで授業では、学生の皆さんにこう問いかけました。

「これは誰が、なぜ見せている情報なのか」

情報的健康とは、情報をただ疑うことではありません。情報が届く仕組みに気づき、多様な情報に触れ、自分で選び、判断する力を持つことです。

アンケートでは、生成AIに対する皆さんの率直な声も多く寄せられました。

「情報漏えいが心配」 「ハルシネーションにだまされたくない」 「答えをそのまま使う人が増えるのではないか不安」 「有名人を使ったAI動画で誤情報が広がることがある」

など、技術的な利便性だけでなく、社会的な影響にまで関心を持っていることが分かりました。

授業では、「AIの回答は結論ではなく仮説として扱う」「重要な情報は複数の情報源で確認する」「最終的な判断は人間が行う」といった視点を紹介しました。
AIを遠ざけるのではなく、どう使い、どう疑い、どう責任を持つのか。技術を学ぶ学生たちにとって、生成AIは単なるツールではなく、これから自分たちが向き合う社会的課題でもあります。


情報空間で失われがちな“対話” グループワークで学生たちが気付いたことは?

グループワークをする学生たち。左は、櫻井祥平 技術専門職員。

授業後半では、インフォメーション・ヘルスAWARDのこれまでの受賞作品を題材にグループワークを実施しました。

参加した学生は、「心組成計」「インフォメーション・フードのリスク成分表示」「ニュースの答え合わせ365」の過去の3つの選奨作品について、

  • どのような課題に着目しているのか
  • 2026年の社会では何が変化したのか
  • 自分たちならどのようにアップデートするか

を議論しました。

話し合いでは、「誤情報を見抜く仕組み」「生成AI時代に対応した機能」「SNS上で異なる意見に触れるための仕掛け」など、多様なアイデアが生まれました。
特に印象的だったのは、学生の皆さんの議論が情報空間の問題を単なる批判の対象ではなく、「技術によって改善できる課題」として捉えていたことです。

ロボティクスや情報技術を学ぶ学生の皆さんは、将来、新しいサービスやシステムを生み出す側になる可能性があります。だからこそ、「どう使うか」だけではなく、「どう設計するか」という視点が自然に育まれていたのかもしれません。

授業後のアンケートからは皆さんの情報社会に対する意識の変化が見てとれました。

「課題があることを知るだけではなく、どのように解決していくかを考えたいと思った」
「多様な情報を集め、多角的な視点から物事を判断する力を身につけていかなければならないと感じた」
「危機感をもってこれからの社会に接していこうという気持ちが高まった」

自らの行動を見直そうとする感想もありました。

「より一層ネットリテラシーを身につけたい」
「これからはAIの使い方に気をつけるべきだと思った」
「何を信じてよいのか、その情報をもとにどう行動するのかを深く考えさせられた」

特にグループワークについては、

「意見交流によって様々さまざまな考え方を知ることができた」
「友達と話し合うことで理解が深まった」
「自分たちで課題と解決策を考えることができて楽しかった」

といった声が寄せられ、議論する中で理解が深まることを感じてもらえたようでした。

現在の情報空間では、SNSや動画配信サービスのアルゴリズムによって、一人ひとりの関心に合った情報が届けられるようになっています。その一方で、自分とは異なる価値観や考え方に偶然出会う機会は少なくなりつつあります。

しかし、社会にはさまざまな立場や意見を持つ人がいます。異なる考え方に触れ、ときには意見をぶつけ合いながらも、互いに納得できる折り合いの点を探していくことは、民主主義社会を支える基本的な営みです。

今回のグループワークでは、多くの学生が互いの意見に耳を傾けながら議論を重ね、多様な視点から課題や解決策を考えていました。パーソナライズ化が進む情報空間のなかで失われがちな「対話」や「偶然の出会い」の価値を、学生たち自身が実感してくれたことに、大きな意義を感じました。


情報社会の未来をともに考える

今回の授業を通じて見えてきたのは、参加した学生の世代が情報社会の課題に決して無関心ではないということです。

「SNSの情報は本当に正しいのだろうか」
「なぜ同じ情報ばかり表示されるのだろうか」
「AIにどこまで任せてよいのだろうか」

そうした問いを、学生の皆さんはすでに日常の中で感じ取っていました。必要なのは、正解を一方的に伝えることではなく、その問いを言葉にし、他者と共有し、考え続ける場をつくることです。

情報的健康とは、正しい情報を見極める力だけではありません。多様な価値観に触れ、異なる意見を持つ人と対話しながら、よりよい社会のあり方をともに考えていく力でもあります。

技術を学ぶ高専生の皆さんとの対話は、情報社会の未来を考えるうえで、私たちにとっても多くの示唆を与えてくれました。NHK財団では今後も「情報的健康」という視点を通じて、次世代を担う若い世代とともに、より健全な情報空間のあり方を考える機会を広げていきたいと思います。


(文・写真:NHK財団 社会貢献・開発推進室 石井啓二、木村与志子)

(お問い合わせはこちら) ※ステラnetを離れます