京都府立鳥羽高等学校で、大学や博物館と連携した探究学習の授業が行われました。本授業は高校1年生を対象に、「テーマを調べ、問いを立て、さらに問いを深めていく力」を育てることを目的として実施されたものです。

鳥羽高校では、学校の所在地域である京都を題材とした探究を出発点として、2年次・3年次へと段階的に学びを発展させていく体系的な教育が展開されています。知識の習得にとどまらず、生徒一人ひとりが自ら課題を見つけ、仮説を立て、検証していく力を養う点に大きな特徴があります。
(※NHK財団は出前授業の開催に協力しました)


問いはどのように生まれるのか

はじめに、講義の前半を担当された東京大学地震研究所の大邑潤三助教より、「現代の鴨川の景観はどのように形成されたのか」というテーマが提示されました。

ここで重要になるのが、「景観」という言葉の捉え方です。景観とは単なる見た目の風景ではなく、自然環境と人間の営みが重なり合って生まれた空間であり、その土地の歴史や文化、暮らしが反映されたものとされています。 この視点に立つと、鴨川の風景は単に「きれいな川」として見るだけではなく、「なぜこの形になっているのか」という問いへとつながっていきます。

講義では、次のような問いが例として示されました。

  • 鴨川はいつから現在のような姿になったのでしょうか
  • かつてはどのような景観だったのでしょうか
  • なぜ人々に親しまれているのでしょうか

同じ風景を見ていても、人によって思い浮かぶ問いは異なります。その違いこそが探究の出発点になる、というメッセージが伝えられました。


歴史がつくってきた鴨川の姿

続けて、鴨川の歴史的な変遷が具体的に紹介されました。江戸時代以前、鴨川は現在とは大きく異なる姿をしていました。川幅が広く、土砂がたまりやすいため洪水が頻発し、周辺には畑が広がるような「河原」の風景が見られたとされています。

「加茂川筋高野川筋水垂迄絵図」 館古023,中井家文書402,京都府立歴彩館所蔵

その流れを変えたのが、17世紀後半に整備された「かんぶんしんてい」です。この整備によって、河原は単なる自然空間から、人が集まり利用する都市空間へと変化していきました。

やがて川沿いには建物が立ち並び、四条河原周辺では夕涼みや飲食、芝居などが行われるにぎわいの場が生まれます。川は生活や文化と密接に結びついた空間へと変わっていったのです。

「新板平安城東西南北町并洛外之圖」,京都府立歴彩館所蔵(左)、[京繪圖],京都府立歴彩館所蔵(右)
『都林泉名勝図会』四条河原夕涼 其一,国際日本文化研究センター所蔵

さらに近代以降は、治水や交通といったインフラの整備が進みます。昭和の水害をきっかけに河川構造も見直され、流れを調整するための設備が設置されるなど、安全性の向上が図られてきました。

その結果、現在の鴨川は「安全」「美しさ」「人が親しめる空間」といった要素がバランスよく共存する形へと整えられてきました。


調べることは「行ってみること」から

こうした歴史は、どのようにして明らかになるのでしょうか。

講義では、探究の方法として2つの柱が示されました。ひとつは文献や古地図、写真などの史料を調べること。そしてもうひとつは、実際に現地を訪れて観察することです。

特に印象的だったのは、現地調査の重要性です。現地では風の音や水の流れ、空間の広がりなど、五感を通してさまざまな情報を得ることができます。また、人によって着目するポイントが異なるため、多様な見方が生まれるきっかけにもなります。

鴨川護岸の石積み

さらに、思いがけない発見が新しい問いを生むこともあります。こうした経験が、探究をより深いものへと導いていきます。


「問い」と「調査」が循環していく

今回の授業で強く印象に残るのは、「問いと調査は繰り返されるもの」であるという考え方です。まず疑問を持ち、調べる方法を考えます。調査をして新しい情報を得ると、そこからさらに別の疑問が浮かびます。そしてまた調べる——この循環によって、探究は次第に深まっていきます。

どのような問いを立てるかは、その人の興味やこれまでの経験によって変わります。同じ史料を見ても視点は1つではなく、それぞれの気づきが新しい研究の出発点になります。


高校生が体験した「問いを育てる時間」

授業の後半では、京都文化博物館・有賀茜学芸員のリードのもと、実際の災害歴史史料を使ったワークショップが行われました。生徒たちはグループに分かれて史料を観察し、「気になる点」を出し合いながら問いを考えます。そして、その問いを共有し、よりよい問いへと磨いていくプロセスを体験しました。

グループワークにあたっては、あいおいニッセイ同和損保様所蔵の災害歴史史料の実物に加え、タブレット端末で細部まで確認できるデジタル史料が10点用意されハイブリッド形式で進められていました。これらの史料は、紙の史料では見落としがちな細かな情報も画面上で拡大しながら確かめることができ、生徒たちはそれぞれの関心に応じて観察を深めていきます。

また、講義の合間には、これらの実物史料を自由に閲覧できる時間も設けられていました。生徒たちは実物の史料に触れながら、気になった点をその場で確認していきます。特に印象的だったのは、史料を前にして生まれた疑問を、講演者に直接問いかける場面が多く見られたことです。

授業後に生徒の皆さんから、

「1つの絵でも、班のメンバーで意見を出して色んな解釈が出てきたから、とても興味深いと感じた。地震などの自然災害はいつの時代も人々に恐れられていて、現代に生きていても、自然災害がなくなった訳ではないから、対策をしっかりしておきたい。災害に対する心構えが変わりました。」

「探究とは、疑問についてただ単に考えていくだけだと思っていたが、その場所に行ってみたり、人に話を聞いてみたりして、疑問と考察などをたくさん繰り返して考えをまとめるものだと分かった。自分の班の課題は、フィールドワークなどはないかもしれないけれど、たくさんの人に話を聞いて、それぞれに疑問を持ち出してその結果や考察をまとめてというように良い探究ができれば良いなと思った。」

といった感想が聞かれ、自然な対話の中で理解が少しずつ深まり、講義と実物史料の体験が結びついていく様子がうかがえました。

学校関係者からは、生徒にとって普段見ることがない本物の災害史料を目の前にして、こうした外部講師と直接ふれあいながら学ぶ機会は非常に貴重であり、生徒が主体的に考えるきっかけとして大きな意味を持つ、との声も聞かれました。日常の授業とは異なる刺激を受けることで、生徒の関心や問いの質が一段と高まっていくことが期待されています。

講義による知識のインプットと、史料を手がかりにした対話的な学びが重なることで、「問いを持つこと」と「問いを深めること」が実感を伴って理解できる時間となっていました。ここでは、正解を導き出すこと以上に、「どのように問いをつくるか」が大切にされています。


問いのつづき

鴨川の景観は、自然の変化だけでなく、人々の暮らしや社会の仕組み、災害への対応など、さまざまな要素が積み重なって形づくられてきました。その背景を読み解くことは、過去を知るだけでなく、これからの社会のあり方を考える視点にもつながっていきます。

そして、その出発点となるのが「問い」です。身近な風景に目を向け、違和感や疑問を持ち、調べ、考え、さらに問い直す。この積み重ねこそが、これからの時代に求められる探究の力といえるでしょう。

今回の鳥羽高校での取り組みは、その第一歩を生徒たちが実感をもって体験する貴重な機会となっていました。

NHK財団では、社会貢献事業の一環として、大学・企業・NPO法人との連携事業を通した、防災・減災活動に積極的に取り組んできました。こうした学びの機会にも、これまで培ってきたバーチャルミュージアム技術なども活用しながら、災害の記憶や教訓を次世代へと分かりやすく伝える取り組みを進めていきます。 本取り組みは、単なる授業の枠を超えた、地域・教育・技術をつなぐ新たな挑戦といえるでしょう。今後のさらなる展開に注目が集まります。

(取材/文 社会貢献・開発推進室 石井啓二)