NHK財団では「スマホ時代の情報との上手なつきあい方」をテーマに、各地で出前授業を行っています。
こども家庭庁の調査によると、11~12歳のインターネット利用時間は1日平均4時間21分。7時間以上利用する子どもも、一定数にのぼります。こうした環境の中で、子どもたちは情報とどう向き合っているのか――。
2026年6月、世田谷区立松沢小学校の6年生と保護者を対象に、学びの時間を設けました。教室で交わされたのは、難しい理屈ではなく、日常の中で感じている率直な声。そこから見えてきたのは、情報との距離を、すでに自分なりに考え始めている子どもたちの姿でした。
情報にも健康はあるか?――「バズる」「止まらない」から見えるもの

授業の冒頭、同校の家庭科・小林友紀教諭がこう問いかけました。
「家庭科では自分の生活をもっと安全、安心、健康、快適にするために色々なことを学んでいます。では、情報についてはどうでしょうか。安全・安心は保たれているか、健康であるか、快適に過ごせているか――」
日々、当たり前のように触れている“情報”も、食事と同じように、その状態を問い直す必要があるのではないか――そんな視点から、授業は始まりました。
まず、子どもたちに聞いたのは、「いいね」やシェアをした経験と、その理由です。
「面白いから」「かわいいから」といった直感的な理由に加え、「みんなが見ていたから」「再生数が多かったから」などといった、広がりやすさ(拡散性)に関わる要素も多く挙げられました。
さらに、「なぜバズるのか」という問いには、「びっくりするものは見ちゃう」「リアクションが大きいと面白い」といった声が続きます。
子どもたちはすでに、“どうすれば広がるのか”を感覚的に理解している様子がうかがえました。
一方で、こんな意見も出てきます。
「バズっているものでも、人を傷つけていることもある」
人気と正しさは同じではない――。その違和感も、自然に芽生えていました。
また、多くの子どもが共通して語ったのが、「止まらない」という体験です。「気づいたら時間が経っている」「次の動画が出てきて止まらない」。その理由として挙がったのは、「同じような動画ばかり出てくる」「好きなものだけになる」といった感覚でした。
“アルゴリズム”や“フィルターバブル”という言葉を知らなくても、情報が偏っていく仕組みを、すでに実感として捉えていることがわかりました。
「使わない」から「向き合う」へ――子どもと保護者の視点の変化

では、どうすれば情報と適切な距離を保てるのか。リアルタイム投票ツールを活用しながら子どもたちの声をその場で可視化し、友達同士で意見を共有しながら、考えを深めていきました。
子どもたちからは、
・時間を決める
・アプリの制限を使う
・見えない場所に置く
・別のことをする
といった、具体的な工夫が挙げられました。
中でも印象的だったのは、「親に言われる前に、自分でやめたい」という言葉です。そこには、「制限される」のではなく、自分でコントロールしたいという主体的な意識が表れていました。
一方、保護者からは、
「必要なものになってきているので、使わせないわけにはいかない」
「注意すると対立になってしまう」
といった悩みが語られます。
ペアレンタルコントロール機能*などを活用する家庭も一定程度見られましたが、それだけでは解決できない難しさも共有されました。
* 子どもが安全にインターネット利用ができるよう、保護者が利用時間や閲覧内容などを制限・管理できる機能。
授業後には、
「なぜ注意しているのか、構造や背景も一緒に伝えたい」
「自分も同じ仕組みの中にいると気づいた」
といった声も聞かれました。
“使わせない”ではなく、どう向き合うかを共有する視点へ――。親子双方に、小さな変化が生まれていました。
教室から見える社会――「守る」から「設計する」へ

教室での対話は、決して特別なものではありません。
子どもたちを取り巻く情報環境そのものが、大きく変化しています。スマートフォンやソーシャルメディアは、視聴・投稿・交流の場となり、子どもは“受け手”であると同時に“発信者”にもなりました。
さらに近年は、生成AIの普及により、画像や動画、文章までもが簡単に「作られる」時代に入っています。
その結果、誹謗中傷や過度な拡散、依存といった従来の問題に加え、
・AIによる偽画像やディープフェイク
・事実か創作か判別が難しい情報
・アルゴリズムによって増幅される誤情報
など、リスクはより複雑化しています。
こうした課題に対し、各国の対応も変化しています。オーストラリアでは、16歳未満のSNSアカウントを制限する制度が導入され、企業に年齢管理の責任が課されました。
EUではデジタルサービス法(DSA)により、アルゴリズムや無限スクロール、生成AI機能に対するリスク評価が求められています。
アメリカでは、ソーシャルメディアが若者を依存状態にさせ、精神的健康を損なったとして、企業の責任を問う訴訟が相次いでいます。
インドネシアでも、サービスの危険度に応じて未成年の利用を制限するなど、環境そのものを調整する動きが進められています。これらに共通するのは、「利用者の問題」だけでなく、情報がどのように作られ、届けられるかという“設計”そのものを問い直す視点です。
日本でも、議論は進みつつあります。
従来の「有害なものを見せない」対策から、
・長時間利用
・依存
・発信リスク
・アルゴリズムによる偏り
さらに、
・生成AIによる偽情報や誤認
といった、より構造的な問題へと焦点が移り始めています。ただし、共通して指摘されているのは、「技術だけで全ては防げない」という現実です。
自分で気づき、選ぶ――教室から始まるリテラシー

今回の授業で見えてきたのは、子どもたちがすでに持っている感覚です。
・バズる仕組みを理解している
・人気と正しさを切り分けている
・止まらない構造を感じている
・情報の偏りに気づいている
そして、これからはさらに、「それは本当に人が作ったのか」という問いも加わっていきます。つまり、知らないのではなく、言葉にされてこなかっただけとも言えます。
それを、「言葉にする、共有する、日常に持ち帰る」。その積み重ねこそが、情報時代のリテラシーの基盤になります。松沢小学校での取り組みは、その入り口でした。
こうした日常の気づきや家庭での工夫は、小さな実践として積み重なっていきます。
「インフォメーション・ヘルスAWARD」では、その一つひとつが応募という形でつながり始めています。
「第4回インフォメーション・ヘルスAWARD」では、情報空間を“健康に”生きるためのアイデア・取り組みを募集しています。応募方法などの詳細は、公式サイト(※ステラnetを離れます)でご案内しています。
NHK財団の出前授業では、冒頭に必ずお伝えしていることがあります。
それが、この一文です。
「食事は体を育み、情報は心や思考を育む大切なもの」。
この言葉が示しているのは、「情報的健康」という視点の重要性です。それは特別な知識ではなく、日々の暮らしの中で問い続けていくもの――。その第一歩が、すでに教室の中で始まっていました。
(取材・文 社会貢献事業部 木村与志子/写真 展開・広報事業部 江嶋理)
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