8月20日(水)、日本橋三越で連続テレビ小説「あんぱん」脚本家・中園ミホさんのトークショーが行われました。会場となったデパートは、やなせたかしさんがかつて勤めていたところで、ドラマでは「三星百貨店」として描かれています。
会場には多くの「あんぱん」ファンの皆さんにお集まりいただきましたが、その様子をご紹介します。 (NHK財団はこのイベントの制作を担当しました)


トークショーの聞き手は「あんぱん」の大ファンであるという塚原愛アナウンサー。朝からドラマを見て涙しているそうです。

中園さんご自身が、幼いころやなせたかしさんと交流があったことをご存じの方も多いと思います。トークはまず、そのころの話からスタートしました。

小学校4年生の時に、父親を亡くして悲しんでいる時にやなせさんの詩を読み、救われた気持ちになり、手紙を送ったところ、すぐに返事が来て驚いたこと。それから文通が始まったり、いずみたくさんとの音楽会に招待してもらったりなど、長く親交が続いたこと。お会いするといつも「元気ですか、おなかすいてませんか?」と言葉をかけてくれたことなどの思い出を話しました。
連続テレビ小説の脚本の仕事は「花子とアン」で経験し、とても大変だったので、二度と引き受けないつもりだったそうですが、「やなせ夫妻のドラマ」であれば、自分が絶対に描きたい!と思ったとか。
中園さんと会っているときのやなせさんは、声が大きくハキハキして朗らかな楽しいオジサン……という印象だったそうですが、脚本を書くうえで、生い立ち、思春期、戦争体験などを調べていくうちに、自分が見ていたのはよそ行きの顔だったのかなと思ったそうです。こうして北村匠海さん演じるドラマの中の柳井嵩は、ただ明るいだけではない、つらさやかなしさ、寂しさを抱えた人物となったのでしょう。

のぶさんについての資料はあまり残されていないのですが、“はちきんおのぶ”と呼ばれ、新聞社時代に広告料を払わない顧客に厳しく対応するしっかり者でした。一方、ドラマの中で、取材で上京したとき、のぶ以外がおでんでお腹を壊すシーンがありましたが、実際、暢さんは遠慮して大根しか食べておらず、それで助かり皆を介抱したそうです。またやなせさんが漫画家一本で勝負するかどうか悩んでいた時、「私が食べさせてあげるから」と後押ししたそうです。実際のエピソードがドラマの中にも盛り込まれ、気が強く、やさしい素敵すてきな方として描かれました。

ドラマをご覧のみなさんはお気づきだと思いますが、この「あんぱん」は、ドラマの登場人物とアンパンマンのキャラクターが重なっています。
中園さんによれば、朝ドラの脚本の仕事は苦しいことが分かっていたので、自分の楽しみのために考えていたんだそうです。
わかりやすいところで言えばヤムおんちゃん=ジャムおじさん、羽多子さん=バタコさん。
始めは内輪の打ち合わせで話していたところ、そのうちに美術スタッフさんなどにも伝わって、蘭子がロールパンナちゃんで青色、メイコがメロンパンナちゃんで緑色など洋服の色も決まってきて、現場でも盛り上がっていったそうです。
ちなみに、今田美桜さんがのぶにキャスティングされた後に、中園さんは、かつてやなせさんが“ドキンちゃんのモデルは暢さん”と言っていたのを思い出し、今田さんとドキンちゃんの写真を並べてみると、あまりにそっくりで驚いた、というお話もありました。

ドラマは「正義は逆転する」で始まりました。
中園さんが出会った当初、やなせさんは戦争の話はされなかったそうです。ですが、晩年にやなせさんは戦争の本をたくさん書かれていて、中園さんは大人になってから、やなせさんの強い反戦の思いを感じたとのこと。また「逆転しない正義は何か。それはお腹がすいて困っている人にひときれのパンを届けることだ」というやなせさんの言葉はアンパンマンそのもの。やなせさんを描くということは戦争を描くということだと思っていることなど、やなせさんの思い出とドラマへのつながりについても話しました。

これまで朝ドラで戦争を取り上げる場合、(放送期間として)2週間くらいのことが多かったようですが、「あんぱん」では約6週間も使って丁寧に描いています。中園さんは見ている人たちに敬遠されるのではないかと心配だったそうですが、ついてきてもらえて感謝している、と話しました。また大陸戦線でのゆで卵のシーンでは北村匠海さんはじめ俳優たちが殻ごと食べる演技に驚き感心したそうです。皆さんはこのシーンの撮影にあたり厳しい食事制限をするなどの努力をされていたということで、視聴者にもその熱意が伝わったのだと思う、と中園さんは話しました。

今後、ドラマはアンパンマンの誕生に向かうわけですが「成功までにはまだまだ紆余うよきょくせつがあるので楽しみにしてください」とのことでした。
やなせたかしさんとのエピソードあり、「あんぱん」撮影の舞台裏あり、あっという間の40分でした。

なお会場では9月2日(火)まで連続テレビ小説「あんぱん」展を開催中です。出演者の衣装や小道具、朝田パンの旗がついたヤムおんちゃんの自転車や、三星百貨店時代のたかしの仕事机なども展示しています。また9月10日(水)から29日(月)までは、名古屋栄三越でも展示されます。是非ごらんください。

(取材・文 展開・広報事業部 冨澤緑)