ドラマの出演者やスタッフが「この回のあの人、あのシーン」について語ったコメントを不定期で配信するコーナー。今回は、「あんぱん」作者の中園ミホさんによる第105回の振り返りをご紹介!
中園ミホさん振り返り

――嵩(北村匠海)が多方面で活躍する一方で、のぶ(今田美桜)が自分は何者にもなれなかったと苦悩する場面がありましたが、ヒロインののぶをこのように造形した意図はどこにあったのでしょうか?
これは企画の段階からやりたかったことのひとつで、のぶのような女性は、私の周りにはたくさんいるんです。みんな夢を描いていたのに、結局、夫のため、子どものために“支える人”になって、自分は何者にもなっていない、と考えている人たちが。のぶは自分のやりたいことをかなり叶えてきたし、ずっと嵩のことも支えていました。それでも父・結太郎(加瀬亮)から言われた「女子こそ大志を抱きや」という言葉を自分は叶えられただろうか? と、立ち止まってしまうこともあったのではないかと思いました。
そのように、真面目に一生懸命に生きてきたはずなのに「あれっ? こんなはずじゃなかったんだけど」と思う瞬間は、女性に限らず多くの方たちにあるのではないでしょうか。それは決して非難されることではなく、その心の叫びをちゃんと書きたいなと思い、あのセリフを描きました。

――モデルになった、やなせたかしさんの奥さん、暢さんからインスピレーションを受けた部分もありますか?
暢さんは年齢を重ねて、すごくおしとやかになられていったのではないかなと思います。山登りはずっと続けていらしたけど、最後はお茶の先生になるなど、高知新聞時代に広告費を払わなかった人にハンドバッグを投げつけたようなハチキンからは、随分キャラが変わった感じでしょうか。やなせさんを陰で支えることに一生懸命だったと思いますし、ほとんど表に出てこない方になっていたようです。
「あんぱん」を手がけるにあたって、暢さんを知る人に取材しようと考えていろいろ取材しましたが、『詩とメルヘン』の編集者としてやなせさんと同じ時間を過ごされたノンフィクション作家・梯久美子さんも、アンパンマンの声優・戸田恵子さんも、やなせさん担当の編集者の方たちも、ほとんどお会いしたことがないという状況でした。その中で数少ない声を集めながら、やなせさんのことを徹底的に陰でサポートしていたんだな、ということを考えているうちに「ひょっとしたら暢さんも『何者にもならなかった自分』を反省する日もあったんじゃないのかな」と思い、その気持ちを思い浮かべながら台本を書いていきました。