連続テレビ小説「あんぱん」のヒロインとして、およそ1年間に及ぶ撮影の日々を駆け抜けた今田美桜。クランクアップを迎えて、その胸に去来した思いはどんなものだったのか? なじみから人生のパートナーとなる柳井嵩を演じた北村匠海と過ごした日々や、物語のターニング・ポイントについて、話を聞いた。今田にとって「あんぱん」とは?


最後まで北村匠海さんに支えられました

――嵩役の北村匠海さんとは「あんぱん」が6度目の共演となりましたが、今回の撮影を通じて感じた印象を聞かせてください。

今までの作品では“昔の彼女”とか、そういう関係性だったのですが、「あんぱん」では幼なじみから夫婦になっていくということで、2人の距離がいちばん近い役だったと思います。これまでに見てきた、私が知っていた北村さんとは全然違う瞬間もいっぱい見ることができました。すごく大人びていて、何事もかんしてクールに見ていらっしゃるのかなという印象でしたが、そういう部分がありつつも、意外とひょうきんな部分もあることを知りました。撮影の合間に“小ぼけ”も口にされていましたし(笑)。多分、幼なじみや夫婦という距離感だったからこそ見えた部分もあるでしょうし、1年という時間もあったので、それで知ることができた部分もいっぱいあったと思いました。

――北村さん自身に、嵩らしさみたいなところを感じたりもしましたか?

最終週の撮影では、北村さんの演じている姿が、晩年のやなせたかしさんにしか見えませんでした。前半の嵩よりも、後半の「嵩さん」のほうがすごく似ていらして。嵩さんには、昔の「たっすいがー」な瞬間もありますが、いせたくや(大森元貴)さんや六原永輔(藤堂日向)さんに出会ってからは、ちょっととぼける瞬間もあって。いろいろ気持ちが外に向き始めたと感じました。内に入りすぎない嵩さんがいて、そういう部分は似ているのかな、と思いました。

――嵩役が北村さんで良かったな、と感じた瞬間を教えてください。

1年間撮影をしてきた中で、楽しかった瞬間がたくさんありましたが、やはり迷ったり、少し難しいなと感じたりする瞬間もありました。北村さんはすごく周りを見ていらっしゃる方なので、さっとサポートしてくださることがありました。シーンの中で迷っているときに「これ、どう思う?」と聞いたことが何度かあって、そのときにも一緒になって考えてくださって、すごく助かりました。さりげなく行動されるところがすごく尊敬できるなと思いましたし、最初から最後までずっと支えていただきました。

――後半は、あ・うんの呼吸のようなものも出てきましたか?

どうでしょう。でも後半のほうが、いろいろなアドリブが多くなりましたし、あったと信じたいですね。


のぶと嵩にとってのターニング・ポイントは

――「ハチキン」ののぶと「たっすいがー」な嵩の夫婦のバランスがいい感じに見えましたが、今田さんはこの2人の夫婦から、夫婦仲良しのけつを感じたとか、自分の将来に向けて「こんな夫婦でありたいな」という理想像が浮かんだとか、そういったことはありますか?

のぶと嵩は、お互いにない部分を絶対的に認め合って、尊敬し合って、というところがありますよね。「ハチキン」と「たっすいがー」だから、すれ違う瞬間もありましたけど、お互いを思うところは似ていて、そういう2人というのはとても素敵すてきだなと、撮影をとおして思いました。この先そういう機会が訪れるのであれば、やはり尊敬し合える関係が作れるよう自分も頑張りたいですね。

2人とも「自分のために」というよりは、やっぱり「人のために」と考えて行動するところに大きな愛を感じて、素敵だなと思いました。これは結婚生活とかそういうものに限らず、人として、誰かに思いやりを持って、愛を持って接していきたいというのは、のぶをとおして強く感じました。

――のぶと嵩の夫婦生活で、思わず“キュン”としてしまったシーンはありますか?

いろいろありますけれど、のぶの誕生日に自費出版の詩集をもらったときは、とてもキュンとしました。サプライズでもありましたし、嵩さんなりにプレゼントのアイデアをたくさん考えて、その結果、ああいう形でプレゼントしてくれたということが伝わってきましたので。

――嵩は作詞家としても活躍していたので、詩集もアリだと思うのですが、今田さんは誕生日に自作の詩をプレゼントされたら、どう思います?

確かにそうですよね(笑)。プレゼントされたことがないからわかりませんが、普段から詩を書いている方ではなくて、それも一冊となると、びっくりするかもしれないですね。でも、自分のことを考えて、思って書いてくれたものというのは、お手紙と同じだと思っていて。そう考えると、すごくうれしいし、特別感を感じるかな……。やっぱり嬉しいと思いますね。

――放送の中に、夫婦の関係も徐々に変わってきたと思うのですが、晩年に至るのぶと嵩の関係をどのように捉えていましたか?

ひとつのターニング・ポイントと言えるのが、のぶがこれまで抱えていた思い、葛藤を嵩さんに吐き出すシーンだったと思います。自分は何者にもなれなかったこと、嵩さんとの間に子どもができなかったことを悔やむように告げたのですが、それを嵩さんが「そのままで最高だよ」と受け止めてくれて……。のぶとしては本当にその言葉で救われて、それからは自分らしく、生きやすくなったと思いますね。ここが自分の居場所なんだ、嵩さんを支える、嵩さんのおかみさんであることに誇りを持って生きるようになっていったのかな、と思っています。

――ちなみに晩年ののぶを“老けメイク”をして演じた、ご自身の印象は?

老けメイクをするのは初めてでしたし、後半はかなり先、のぶが70歳を超えてからも描かれているので、段階を経て老けていくんですよ。こうやってシワを入れるのか! とか、こうやってシミを飛ばすんだ! とか、シンプルにメイクの技術に驚きましたし、自分の変化が楽しかったですね。

――一時期、髪の毛がサラサラのストレートになって「若返った!?」と感じたこともあったのですが、あの髪型はどういうふうに選択されたのですか?

当時の髪型という部分で、いろいろ流行はやりがあって、その都度つどメイクさんと一緒に話し合いながら選んでいきました。当時はカールの時代が少し落ち着いて、ストレートが主流になっていました。あの髪型にするうえで、前髪をどうするか? というところにすごく悩んで、ストレートでストンと落とす方法もあったのですが、「前髪が上がっていたほうが、のぶらしいよね」ということになりました。

――前髪をグッと上げるのは、女性としてはまあまあ勇気がいりませんか?

私は、前髪が上がっていることも多いので、そこはあまり気にならなかったです。役として考えたときに、上がっていて顔が見えているのと、流しているのでは、見比べたときにハツラツ感もちょっと違うなと思ったので、今回の形になりました。パッと見のところはあるのですが、「流していると、ちょっとしっとりしちゃうね」という意見もありましたので。


「おつかれさま」の言葉をもらって、実感が湧きました

――クランクアップの日、最後に撮影したカットに「OK」の声がかかった瞬間は、どんな気持ちになりましたか?

最後に撮影したのは、嵩さんとのぶにとってすごく大事なシーンで、カメラ3台で一連の流れを撮って1回で「OK」が出たんですけれど、ちょっと涙があふれてしまうようなシーンだったので、より感傷的になってしまって……。OKをもらった瞬間は、とにかくホッとしました。2人で撮影するシーンで、北村さんと一緒に終われたことも良かったなと思いました。

――振り返ってみて、1年間は長かったですか? それとも短かった?

撮影している間は「長いな」と思う瞬間、撮影が終わる8月末が「なかなか遠いな」と感じる瞬間もありましたけれど、振り返ってみると、本当にあっという間で、全部ひっくるめて楽しかったです。

――クランクアップから少し時間が経過した今の気持ちと、今後「これをやりたい」と考えていることがあれば教えてください。

撮影の終わりがだんだん見えてきたときに「終わったら、どういう感情になるんだろう?」「そもそも、実感ってあるのかな?」と、キャストみんなで話す機会が何度かあったんですけれど、クランクアップして1週間経ちましたが、本当に終わっているのかな、まだ撮影が続くような気がしなくもない、というような気持ちになっています。

やっぱり1年間皆さんと過ごしてきたので、もう完全に終わってしまったということが、実感できていないのかもしれません。撮り終わったことでの達成感は確かにありますし、クランクアップしたことがニュースとして取り上げられていたので、それを見てたくさんの方から「おつかれさま」と連絡をいただいて、それがもしかしたら実感なのかな、というところで感情が行ったり来たりしています。でも、そうやってお言葉をいただいたことで、すごく心晴れやかな気持ちでいます。

やりたいこととしては、やっぱり旅行に行きたいですね。行く先はまだ決まっていないのですが、もう少ししたらお休みをいただける予定なので、どこかに行きたいなと。

――土佐ことばについて、のぶが発する「たまるかぁ」や「ほいたらね」が話題になりましたが、今田さんの周囲でも反響がありましたか? また舞台地のひとつである高知には、今どんな思いを持っていますか?

それこそ「あんぱん」以外の現場に行ったときにも、「たまるか」「ほいたらね」という言葉を言ってもらえて、共通の話題としてそのセリフが出てくることに、それだけ愛してもらえているんだな、物語に共感してもらえているんだなと感じて、すごく嬉しかったです。

高知は、のぶが薪鉄子先生(戸田恵子)の事務所で働くまで暮らしていたところで、幼少期の思い出や学校の先生として子どもたちが好きだった気持ち、次郎(中島歩)さんとの結婚生活、戦争というとても苦しい時代を生き抜いてきた場所で、のぶの人生を形成するものがいっぱい詰まっている場所なんです。一言では言い表せなくて、簡単な言葉になってしまいますが「とても大事な場所」。常に気持ちが向いている場所なのかな、と思いました。応援していただいたことに感謝したいし、また高知に遊びに行って、現地の皆さんと土佐ことばでお話ししたいですね。

――「あんぱん」という作品を通じて、今田さんご自身が得たもの、成長したところなどを教えてください。また、ご覧になっている視聴者の皆さんへのメッセージもお願いします。

それに関しては、きっとこれから少しずつ実感していくところではあるのかな、と思っています。この「あんぱん」の現場を離れて、また違うお仕事をしたときに、そういったことを感じるのではないか、と。でも1年間にわたって役と向き合うことは、今後もなかなかないことだと思いますし、そういう時間を過ごせたことで、自分に対する自信はついたのかな、とは思っています。

この1年間、すごく笑った記憶と、ときどき大変だった記憶と、その全部がいとおしくて……。のぶを演じられて本当に良かったと心から思いますし、素晴すばらしいキャスト、スタッフの皆さんと一緒に「あんぱん」を作れたことは、私にとってかけがえのない財産になりました。とても幸せです。ラストシーンまで、ぜひ放送を楽しんでください!

今田美桜 インタビュー(前編)