1月2、3日に放送される東野圭吾スペシャルドラマ「雪煙チェイス」は、東野圭吾の“雪山シリーズ”として知られる人気作が原作だ。殺人の容疑をかけられた大学生が、犯行時刻に殺害現場にいなかったことを証明してくれる“アリバイの証人”を探すために、日本最大級のスキー場に向かう。それを追うのは、所轄の刑事・小杉。警視庁捜査一課よりも先に手柄を挙げたいという所轄の上司のちゃりで、警察であることを隠してスキー場に向かい、極秘捜査を行うことになる。そんな小杉を演じるのはムロツヨシ。どんな気持ちで演じたか、ロケ地の野沢温泉村の思い出などを語った。


刑事として謎を追い、ストーリーとともに歩ける役割

――東野圭吾作品に出演するのは映画『疾風ロンド』(2016年)以来、2作目ですね。

ムロ 『疾風ロンド』も本作も、小説では別の地名になっていますが、野沢温泉村を舞台にしています。東野さんだからこそ描ける世界観や構成、展開力がすごいんですよね。今回は刑事として謎を追い、ストーリーとともに歩ける役割を演じられたのはうれしかったです。

事件の真相がわからない中、話の展開とともに謎への距離感が変わっていく面白さや、真相に近づいていくことで新たな謎が生まれるところを演じるのは、やりがいがありましたね。

――野沢温泉村での撮影は、いかがでしたか?

ムロ 『疾風ロンド』の撮影がきっかけでスキーが好きになったのですが、気がつけば、野沢温泉自体が好きになっていましたね。みなさんの人柄がよく、滞在中もよくしてくださったんです。

映画の撮影時、僕はまだそんなにテレビに出ていなかったんです。今回、当時よく行っていたジンギスカンのお店にまた行ったら、大将に「こんなに売れると思わなかったから、もっと大事にしときゃよかった」なんて言われました(笑)。大事にしてなかったのかよ! とツッコミを入れたくなりましたが、「よくしておけばよかった」という大将の言い方が面白くて。

――小杉もスキーで滑るシーンがありますね。実際の腕前はどうなのでしょうか?

ムロ 仲間(由紀恵)さん演じる女将おかみが、元アルペンスキーの選手ですごく上手な役柄で、僕は必死に彼女についていくというシーンでした。小杉がうまく滑ってはいけないので、わざと下手に演じましたが、本当はもうちょっとだけうまいです。

――撮影で2回滞在して、野沢温泉村が大好きになったということですが、どんなところに魅力を感じましたか?

ムロ 野沢温泉は冬季オリンピックの会場になったぐらいなので、コースの数が豊富です。
で、上に行けば行くほど景色が壮大です。雪質ももちろんいいですよね。スキーは言わずもがなですけど、スキー場から村に降りると、いたるとこに温泉があって、ご飯屋さんが多いし、人もいい。そりゃみんな行きますよね。居心地いいなって思いますね。

今回のドラマの撮影で滞在した宿がシェアハウスみたいなところで、共演者のみなさんとリビングに集まることが出来たんです。今日の撮影の感想を言ったり、今後の改善点をどうしたらいいかなどを話したりしました。また、若い世代の共演者のみなさんに、自分の成功体験や失敗談を伝えたりすることもできました。ロケ先ということもあり、夜などに時間があったので、いろんな思いを交換しあえたのもよかったです。


ベテラン勢と若手の“板挟み”でできることとは?

――今回、ロケで大変だったことはありましたか?

ムロ 演技で雪の中を走るシーンがありましたが、それは体力的にきつかっただけでむしろ、スタッフさんの機材移動が大変だったと思います。

ほかに困ったことは……所轄の警察署の捜査会議シーンの撮影で、空き時間にずっと八嶋(智人)さんがしゃべっていたんで、そのお相手をするのが大変だったかな。そうなると、ただの先輩への文句になっちゃいますね(笑)。

――今回、仲間由紀恵さんとの共演は初めてだったそうですね。

ムロ 仲間さんとしっかりお芝居をご一緒するのは間違いなく初めてです。「仲間由紀恵だ〜!」って思ったし、一緒に写真撮らせてもらい、「ごくせん」(仲間さん主演のドラマ)で生徒役をやっていた俳優に「やっと会えたぜ!」って送りましたもん。

仲間さんはあまり雪山に来たことがなかったようで、目を輝かせて「すごいね!」と言っていたのが印象的でした。

――小杉という刑事は、所轄署の上司である大和田課長(吉田鋼太郎)と南原係長(八嶋智人)のベテラン勢と、殺人の容疑をかけられた大学生・脇坂(細田佳央太)と同級生の波川(醍醐虎汰朗)の若手の間で板挟みになる役どころですね。

ムロ 光栄なる板挟みでしたね。上の世代で手柄がほしい上司たちと、事件を無事に解決したい我らがいて、真実を知っている、もしくは真実のヒントをくれる若者たちがいます。上司の指示どおりに、大学生たちを発見して渡してしまえば、彼らの思いや彼らの言っていることなんてどうでもいいはずなのに、彼らを見ていると、彼らを渡してはいけないという思いが芽生えてくる。

板挟みだからこそ気づくことがある中で、僕にできることはなんだろう? と考えるところが、僕が演じる上での大事なところになります。でもそれは、共演者のみなさんがしっかりと“板挟んで”くれなきゃできないお芝居なので、先輩たちがいかに手柄を取りたがっているようにやってくれるか、大学生役の後輩たちはいかにピュアにやってくれるかが大きかったと思います。

――八嶋さん演じる南原係長が、何度も小杉に電話をかけてきてネチネチやるところは見どころの1つですね。

ムロ 何回か共演させていただいています。色気を出してちょっといい人を演じがちなところ、八嶋さんはその色気を一切捨てることができる方なんです。嫌な上司をあそこまでやりきってくれたからこそ小杉も苦悩できたので、感謝しかないですね。待ち時間の時の口数の多さ以外、ほんと最高だな! でもあの先輩はこういうネット記事とか読むんですよ。あとで「お前、あんなこと言ってたな」って。

――大学生コンビの細田さん、醍醐さんはいかがでしたか?

ムロ 僕たちには何周もして、失敗や成功を重ねて得られた経験値や技術などを持ってしまっています。細田くんたちはまだ1周終わって2周目くらいだと思うんです。何周も回っていないからこそのピュアさがあります。ピュアというとご本人たちは「何もできていない」と解釈してしまうかもしれませんが、そうではありません。その年齢だからこそ、これから長い芝居人生があるからこそ、思い切りやってほしいと思ってお芝居をしていました。僕に合わせてしまったら、小さい円に収まったものになってしまうかもしれないので、何角形になってもいいから、自分たちのやりたいことをやってほしいと。そういう思いをお芝居で届けたつもりです。

上と下の世代の会話がうまくいかない時などに、“板挟み”世代の僕が、橋渡しになるように言語化したり、体制を整えたりすることはできるなと思っていて。今回、そういうところに僕のいる意味があるのかも、と感じていました。


改めて忘れちゃいけない理想を思い出すことができた

――小杉という刑事を演じるにあたって、どんなことを意識しましたか?

ムロ 最初は、それこそうだつの上がらない男。上司に言われたことをやれば給料をもらえるし、頭が切れるというよりは、小賢こざかしい感じ。大失敗だけはうまく逃れてきた男だと思います。上司の言うことを「はいはい」って聞いているから、一緒に行動している部下の刑事・白井(恒松祐里)にもちょっとだらしねえなと思われ、頼りにもされない男です。でも少しずつ、自分がどこかに追いやった正義感に気づき、このままじゃいけないと思って決断するようになります。それは演じていてよかったなと思いましたね。

自分の片隅に置いてあった夢や理想が、いろんなことに追われていつの間にか遠ざかってしまうことってあると思うんです。小杉は、事件や脇坂たちとの出会いがきっかけとなって、改めて忘れちゃいけない理想を思い出すことができた。自分の中にある信念を一度確認したほうがいいな、ということを小杉は思っただろうし、自分も野沢温泉の温泉にかりながら思った……かもしれないです(笑)。

――この作品が新年に放送されたあと、1月23日には50歳の誕生日を迎えられますね。

ムロ 自分のことは人から称されるものであり、自分から称すものではありませんが、喜劇役者として、役者ムロツヨシとして、50歳だからこそできることをしっかりやり、理想や思いをめていかなきゃなと思っています。50歳でこうなってほしいということをいま書きめていて、50歳になったらしっかりと、言葉で言えるようにしたいです。

――お正月にこの作品を観る視聴者へのメッセージをお願いします。

ムロ 僕らの世代だからこそわかる苦悩と、あるきっかけで目覚めることになる理想や正義感、夢が詰まっているドラマでございます。もちろん、どの世代の視点からも楽しめます。

しかもお正月! こたつに入りながら、みなさんがリビングでわちゃわちゃと楽しんでいる輪の中に、このドラマが加わってもいいかなと思える作品になっています。ぜひ、よかったらみなさんのお正月に参加させてください!


東野圭吾スペシャルドラマ「雪煙チェイス」(前編・後編 2夜連続放送)

2026年1月2日(金)・3日(土) 総合/BSP4K 午後10:00~11:13
NHK ONEでの同時・見逃し配信予定

【あらすじ】

大学生の脇坂竜実(細田佳央太)は、身に覚えのない強盗殺人の容疑をかけられていた。被害者は、竜実がアルバイトで通っていた一軒家の主人(平泉成)。竜実には犯行時刻に、殺害現場から遠く離れた新月高原スキー場にいたというアリバイがあった。しかし、スキー場には1人で行っていたためにアリバイを証明してくれる人物はいない。証人の心当たりは、スキー場で出会った女性スノーボーダーだけだが、素性も名前さえもわからず、手がかりは、「明日以降、里沢温泉スキー場で滑る」という言葉だけだった。
竜実が友人で法学部に通う波川(醍醐虎汰朗)に相談すると、「このまま警察に連行されると無実の罪で捕まるかもしれない」と助言を受ける。竜実は、謎の女性ボーダーに自分のアリバイを証言してもらおうと、波川とともに里沢温泉スキー場へ向かい、彼女の捜索を開始する。彼らは、スキー場のパトロール隊員(前田公輝)や関係者たちの協力を得つつ、少しずつアリバイの証人に近づいていくのだが……
そのころ東京では、警視庁本部と所轄署との特別捜査本部が開設されていた。所轄の刑事・小杉(ムロツヨシ)は、竜実が里沢温泉スキー場に向かったという情報をつかむ。すると、“本庁を出し抜き所轄で手柄を取りたい”と考える上司(吉田鋼太郎・八嶋智人)から、里沢温泉スキー場で竜実たちの極秘捜査をするよう命じられてしまう。刑事であるということを隠して、部下の白井(恒松祐里)とたった2人でスキー場に向かった小杉は、偶然知り合った元スキー選手の居酒屋のおかみ(仲間由紀恵)の協力を得て、竜実たちの捜索を開始する。一方、警視庁本部(高橋ひとみ・白洲迅)も竜実たちの行方をつかみつつあった。広大な雪山を舞台にした“チェイス”の火ぶたが切られるのだった。

原作:東野圭吾『雪煙チェイス』
脚本:森ハヤシ
音楽:大間々昂
出演:細田佳央太、ムロツヨシ、醍醐虎汰朗、恒松祐里、前田公輝、武田玲奈、白洲迅、中山優馬、小林涼子、高田夏帆、吉田健悟、なえなの、丈太郎、六平直政、山下容莉枝、伊藤修子、高野正成/平泉成、高橋ひとみ/八嶋智人、吉田鋼太郎、仲間由紀恵 ほか
制作統括:木次谷良助(東映東京撮影所)、高橋練(NHKエンタープライズ)、磯智明(NHK)
プロデューサー:加地源一郎(NHKエンタープライズ)、吉崎秀一(東映東京撮影所)
演出:一色隆司、船谷純矢(NHKエンタープライズ)

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。

NHK公式サイトはこちら ※ステラnetを離れます。