NHK財団では、情報空間の課題の解決方法や、一人ひとりが望む「情報的健康(インフォメーション・ヘルス)」を実現するためのアイデアを募集し、社会実装に向けての取り組みを進めています。
詳しくは財団の公式サイト「インフォメーション・ヘルスアワード」をご覧ください※ステラnetを離れます

昨年開催された「第3回インフォメーション・ヘルスアワード」のアイデア部門グランプリ「ニュースの答え合わせ365」ふるつきさんにお話を伺いました。
(グランプリ受賞アイデアはこちら ※ステラnetを離れます

古井さんのアイデア「ニュースの答え合わせ365」

1年前に報じられたニュースを現在の状況や結果と照らし合わせることで、報道の変化や社会の動きを検証し、時間の経過を通じて情報をあらためて捉え直すことを目的としています。こうしたプロセスを通じて、思い込みに左右されない判断力を養い、情報リテラシーの向上を目指すものです。


私たちは、そもそも違う情報に触れている

古井さんの経歴や、現在のお仕事について教えてください。

古井 生まれも育ちも京都です。現在は外資系のIT関連企業に所属し、社内システムをはじめとするさまざまな領域で、どのようにDXを進めていけるかを考えながら仕事をしています。

受賞アイデアとお仕事には、通じるところはあるのでしょうか。

古井 業務として直接結びついているわけではありませんが、アイデアのきっかけという点では、多国籍なメンバーが集まる業界で働いていることは大きいと思います。日常的にさまざまな国や地域の人たちと会話をする中で、人によって触れているメディアや情報源が大きく異なることを意識するようになりました。アメリカやヨーロッパなど、参照している情報源の違いによって、時事的な話題に対する意見の差を強く感じる場面も少なくありませんでした。

そうした経験から、「私たちは、そもそも接している情報自体が違うのではないか」という前提について考えるようになりました。

海外では、情報やニュースを振り返って考える機会が多いと感じますか。

古井 あくまで比較にはなりますが、海外の方々は、ニュース記事などを題材にした議論を、子どもの頃から日常的に行っている印象があります。特に教育の場面では、メディアで報じられている出来事をテーマに意見を交わす機会が、日本よりも多く設けられているように感じます。そうした環境の中で育つことで、受け取っている情報や考え方を“振り返る姿勢”が、自然と身についている人が多いのではないでしょうか。

「インフォメーション・ヘルスアワード」の募集を見たとき、自分の中にある課題意識と重なって今回提出したアイデアとなりました。特別に新しい発想というよりは、日常の生活や経験の中で感じてきたことを、そのまま形にしたものだと思っています。


情報とどう向き合うか ——「振り返る」「咀嚼する」という実践と思考

情報を振り返るために、何か工夫されていることはありますか。

古井 「振り返る」という行為そのものに、結構な労力がかかると感じています。その場では「これは気になるな」「面白いな」と思ってメモを取ることはあるのですが、「では、いつ振り返るのか」という点が、なかなか難しい課題でもあると思っています。

私の場合は、やり方を少し変えて、気になったニュースをメモする代わりに、スクリーンショットで保存するようにしています。専用のアプリを作ることも考えましたが、そこまで手間をかける余裕はなかったので、あくまで簡単な方法として取り入れました。

私はAndroid端末を使っているのですが、写真が「1年前のこの写真」といった形で自動的に表示される機能があります。それと同じ感覚でニュースのスクリーンショットが表示されると、「そういえばこんなニュースがあったな」「今はどうなっているんだろう」と、自然に振り返るきっかけが生まれます。振り返ること自体はやはり労力のいる行為なので、できるだけ自分から頑張らなくても、こうした“ポップアップ”に助けてもらう形で工夫しています。

表彰式での古井さんの言葉が印象的でしたので、ここに紹介します。

今回応募させていただいたアイデアは、私自身がこれまで取り組んできた実践をもとにしたものです。
そのきっかけとなったのは、先ほど徳永先生のお話にもありました、哲学者フランシス・ベーコンの言葉です。とりわけ、「咀嚼そしゃくする力」という考え方に強く心を動かされました。
情報過多の時代において、ただ情報を受け取るだけではなく、時間の経過の中で考え、立ち止まり、咀嚼する。そのプロセスを通して、自分自身の思考力や、情報を消化する力を少しずつ熟成させていくことが大切なのではないかと感じています。
慶應義塾大学文学部・徳永聡子教授による表彰式でのオープニングトークは、2月中にアワード公式サイトにて配信予定です。アワード公式サイト)※ステラnetを離れます

表彰式で古井さんが語っていた「言葉を咀嚼する力」についてもう少しお話しいただけますか?

古井 「咀嚼する」ということについて、私は自分が育った家庭でその大切さを意識するように言われてきました。そのまま鵜呑うのみにするのではなく、情報でも人から聞いた言葉も、一度自分の中で咀嚼し、吟味したうえで、自分の価値観として取り入れなさい、ということを教えられて育ったんです。

その延長線上に、今回の取り組みもあるのだと思います。特に「咀嚼する」という言葉は、私にとって情報と向き合ううえでのひとつのキーワードでした。表彰式で、徳永先生がオープニングトークの中でその言葉を使われたときに、「まさにその通りだな」と感じましたし、今回のアイデア自体も、その考え方に即した内容だと、あらためて思いました。


「答えを与えない」構造を工夫しました

アイデアをまとめる上での苦労はありましたか。

古井 もっとも難しかった点は、「正しさを示そうとしない」という設計でした。情報をテーマにした取り組みというと、どうしてもファクトチェックや是非の判断、つまり「正しい・間違っている」を明確に示す方向に寄りがちですし、それ自体を否定するつもりはありません。

ただ今回は、善悪や是非をすぐに判定するのではなく、あくまで本人の中に“気づき”を残すことを意識しました。時間差をもって、「こういう認識の仕方しかたもあるかもしれない」と気づける余白を残すことで、情報との向き合い方を考えてもらう設計にしたいと考えていたからです。

そのため、評価や結論を前面に出さず、「答えを与えない」構造にすることを大切にしました。応募用紙を書く段階でも、考え方を説明しすぎたり、読み手を誘導しすぎたりしないよう工夫しました。どこまで書くべきかについては正直かなり試行錯誤しましたが、その「書きすぎない」「決めつけない」という姿勢自体が、今回のアイデアの考え方をよく表しているのではないかと感じています。


第3回インフォメーション・ヘルスアワード表彰式(2025.12.27)

日常の違和感から、問いを立てる ——次の応募者へのメッセージ

次回、第4回アワードに応募を考えている方へのメッセージをお願いします。

古井 私自身、今回のアイデアについては、日常の中で取り組んできた等身大の実践を、そのまま応募させていただいた、という感覚があります。その経験から強く感じたのが、このアワードにおける「問いの設定」の大切さです。

完成度の高さや規模の大きさ以上に、「どのような問いを立てているのか」「どんな問題意識から出発しているのか」が重要なのではないかと思います。日常では、SNSを見る、テレビでニュースを見るといった行動が当たり前のように繰り返されていますが、その中で生まれるわずかな違和感を、そのまま流さずに一度立ち止まって考えてみることが大切なのではないでしょうか。たとえば、「このニュースは、どんな情報に基づいて報じられているのだろうか」と分解して考えてみることで、「一次情報と二次情報では、少し印象が違う」といった小さな気づきが生まれることがあります。

一見すると些細ささいな違和感でも、それは多くの人にとって共有可能な学びにつながり得ますし、磨いていくことで汎用はんよう性の高いアイデアへと広げることもできると思っています。
そうした個人の等身大の経験や日常の気づきを起点に企画をまとめていくアプローチを受け止めてもらえるのが、このアワードの魅力ですし、より幅広い提案につながっていくのではないかと感じています。 


次回の「インフォメーション・ヘルスアワード」は、2026年春からの募集開始を予定しています。応募方法などの詳細は、今後アワード公式サイト(※ステラnetを離れます)でご案内していきますので、ぜひチェックしてみてください。

(取材・文 社会貢献事業部 木村与志子)
お問い合わせはこちら)。※ステラnetを離れます