2025年12月27日、NHK財団主催「第3回インフォメーション・ヘルスアワード」表彰式・シンポジウムが東京都内のホールで開催されました。
(この日の模様は当日夕方のNHKニュースでも紹介されました)

午後1時、NHK財団・松尾剛アナウンサーの司会でスタート。
オープニングトークは慶應義塾大学文学部教授・徳永聡子さん。 “情報爆発”は活版印刷の開発の際にも言われたことなど歴史的な視点も織り交ぜながら、現代社会における情報の“偏食”や“暴飲暴食”が、私たちの知性や批判的思考力、さらにはメンタルヘルスに悪影響を及ぼしている現状について、指摘しました。

続いて表彰式が始まりました。今年度は10代から60代まで幅広い世代から過去最多の246件の応募があり、その中から選ばれたアイデアが表彰されました。
受賞作品の一覧はこちら ※ステラnetを離れます
まずアイデア部門のグランプリには「ニュースの答え合わせ365」(古井菜月さん)が選ばれました。この作品では、1年前に報じられたニュースを現在の結果と照らし合わせ、報道の変化や社会の動きを検証することで、思い込みに左右されない判断力と情報リテラシーを養うことを目指しています。

準グランプリ「インフォメーション・フードのリスク成分表示」(東京大学大学院・小林千晃さん)は、文章に含まれる過度なレトリックや誤謬といった情報操作のテクニックを“食品成分表示”のように可視化するアイデアで、危険性を直感的に判断できる仕組みが評価されました。
特別賞は6作品が受賞しました。「広告のすき間で、ちょっとだけ社会知っとく?」(同志社大学・佐野美颯さん)、「ニュース多角メガネ~ニュースの偏りを見抜くカードゲーム~」(駒場学園高等学校・戸田悠豊さん)、「Web記事の品質を報酬に反映する新しい情報生態系の提案」(中村実樹さん)、「『多対一』を可視化する投稿前ピクトグラムUI」(藤田亜由美さん)、「FOMOをJOMOへ転換するメッセージ施策」(大阪大学社会心理学研究室・阪大社心2025)、「特別支援学級における情報的健康教育の実践」(仙台市立郡山中学校・高橋香織さん)が受賞しました。

社会実装部門のグランプリは「Think Critical: 認知の罠を見抜くLLM」(株式会社TDAI Lab・福馬智生さん)です。表彰式には、CTO(技術責任者)の野田昂希さんが登壇しました。SNS投稿に潜む感情的訴求や論理的誤謬をAIが自動検出し、拡張機能やボットで可視化して批判的思考を促すリテラシー支援ツールで、実装可能性と社会的意義が高く評価されました。

優秀賞には、子どもが情報空間の多様さやトラブル対応力を学べるカードゲーム「インフォボンバー」(モノづくり大作戦・北島慶士さん)が選ばれ、教育現場での活用に期待が寄せられました。
表彰式後のシンポジウムでは、過去受賞作品の社会実装報告が行われました。第1回グランプリ「心組成計」については大阪大学大学院 人間科学研究科・三浦麻子教授がビデオで登壇し、ネット上の“こころの健康”をチェックするトライアルの結果を紹介しました。
第1回準グランプリ「フェイクニュースを身近に感じるワークショップ」は、法政大学や高校での実践例が報告され、高校生がアテンション・エコノミーを楽しく学ぶ様子が伝えられました。

さらに第2回社会実装部門グランプリ「ブラウザ上で動作する情報リテラシー支援ツール」について、チームみたほり(堀川祐生さん、小關則統さん、小林千晃さん)から進捗が共有されました。

基調講演は、東京大学大学院工学系研究科システム創生学専攻教授・鳥海不二夫さんが担当しました。「情報的健康とAI時代の情報空間」をテーマに、AIやSNSがもたらす情報環境の変化と、情報リテラシー教育の重要性、そして私たち一人ひとりが社会の中で果たす役割について、専門的な視点から話しました。
また、プラットフォームからのプログレスリポートとして、Yahoo!ニュース(LINEヤフー株式会社Yahoo!ニュース部門シニア トラスト&セーフティーマネージャー・今子さゆりさん)とYouTube(グーグル合同会社YouTube Japan Head of Health and Civics Partnership・片倉陽子さん)より、それぞれのサービスにおける「情報的健康」への取り組みについて発表がありました。

シンポジウム後半はパネルディスカッションが行われました。
「インフォメーション・ヘルスアワードを教育の現場で活用する~情報的健康を育む教育と社会の接点~」をテーマに、教育現場や自治体のリアルな声を起点に議論が展開されました。

モデレーターは慶應義塾大学大学院法務研究科教授・山本龍彦さん。
パネリストは、
鳥取県デジタル局長・下田耕作さん、
株式会社電通第4マーケティング局未来事業総研プロデューサー・千葉貴志さん、
名古屋市立菊里高等学校情報科教諭・蜷川裕子さん、
慶應義塾大学メディア・コミュニケーション・センター準教授・水谷瑛嗣郎さん、
今回の社会実装部門グランプリ受賞者の株式会社TDAI Lab CTO・野田昂希さん
が登壇しました。
議論は、教育現場におけるリアルな課題と受賞作品の活用、制度・企業・自治体・市民参加による社会への広がり方、そしてテクノロジーと情報リテラシー教育の未来という3つの観点から展開されました。
パネリストからは、次のような指摘がありました。
現代は、みんなが共感しやすい「ナラティブ=物語・語り口」が共感を集め広がる、「ナラティブ・エラ(Narrative Era=ナラティブの時代) 」と呼ばれる段階にあること。
またAIのハルシネーション(=幻覚・もっともらしいウソを出力すること)もあり、「何を信じていいかわからない」と感じる人が増えていること。
教育現場からは、子どもたちが「自分は(ネットなどを)使いすぎている」と理解していても、どう対処すればよいかわからない現状が語られました。
自治体の立場からも、「住民が偽情報や誤情報に惑わされないよう、ネット情報や仕組みへの理解を深め考える力を育てるとともに、地域を守るための正確な情報発信に努めている」などの発言がありました。
さらに、「わかりやすいものを求める傾向が強まり、“立ち止まる力” “自分の考えを自分で育てる力”が弱まっている」という懸念も示されました。
最後に「情報的健康」の観点から、わかりやすい例として
“「カニ」なのか「カニカマ」なのか、食べ物なら違いが分かる(=表示してある)が、情報はわからない。私たちは何を摂取しているのか、知るべきだ”
そして、なぜそのコンテンツが“自分に”流れてくるのか、を理解することの重要性が強調されました。
2025年は選挙・災害時のフェイクニュース、AIによる情報操作、ファクトチェック体制の強化と持続可能性、社会的・経済的影響への対応など、世界と日本で多様な課題が顕在化した一年でした。一方で、国内においては、教育現場・自治体・企業が連携し、社会課題の解決に向けた取り組みも増えています。
今回の応募作品には、批判的思考力の育成や情報のリスク成分表示、ユーザー主体の学び、多様な視点の導入など、実社会への応用を意識したアイデアが数多く見られました。
NHK財団では、今後も、情報リテラシーの向上や、健全な情報環境の構築、社会課題の解決に資する取り組みを進め、より良い情報社会の実現を目指します。
表彰式・シンポジウムの映像は2026年1月末(予定)より公式サイトで配信を開始します。詳細や受賞作品の内容も公式サイトでご覧いただけます。※ステラnetを離れます
なお、次回の「インフォメーション・ヘルスアワード」は2026年夏に開催予定です。募集方法などの詳細は、NHK財団のホームページで今後公開していきますので、ぜひご注目ください。※ステラnetを離れます
ステラnetでは、今回の選考委員や受賞者の方々のインタビューなどをこれからも掲載していく予定です。こちらもご期待ください。
(文・撮影:インフォメーション・ヘルスアワード事務局)
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