尾張と美濃の国境を流れる木曽川沿いに勢力を持った川並衆の棟梁とうりょうであるはち須賀すか正勝まさかつ。墨俣にとりでを作るため、力を貸して欲しいと頼む小一郎(仲野太賀)と藤吉郎(池松壮亮)に最初は反発するが、ふたりの誠意を感じて力を貸す。正勝はそのまま、藤吉郎のりきとして、竹中半兵衛(菅田将暉)とともに豊臣兄弟を支えていく。生涯にわたり豊臣兄弟を支え続けた正勝はどのような人物だったのか、演じる高橋努に聞いた。


いい出会いによって今日の自分がある、そこが自分と蜂須賀の共通点

――第14回の金ヶ崎の戦いのシーンでは、松明たいまつを持つ正勝が印象的でした。台本でも「不動明王のようにも見える」というト書きがあったそうですが。

正勝は戦の時に「ろうがしら兜」という珍しい兜をかぶっているんです。兜の上に髪みたいなのを結ってある兜なので、たぶんビジュアル的にはすごく不動明王に見えると思います。でも、不動明王って怖いイメージがあったんですけど、今回調べてみたら、人々の怒りや苦しみを救ってあげる存在なんだと知って、それってまさに正勝なんじゃないかなと思いました。ただ、八津さんはなぜそれをト書きに書いたのか、どれだけ僕にプレッシャーをかけてくるのかと思いましたけど(笑)。

――正勝は過去の大河ドラマにも何度も登場してきた人物ですが、オファーがあった時のお気持ちをお聞かせください。

もう単純に「キターーーー!」って感じでしたね。歴史も好きなので、豊臣家の話に関われるのはうれしかったです。その中でも蜂須賀正勝役だと聞いて、それは僕がピッタリでしょう?って(笑)。それは言い過ぎかもしれないですが、僕に合っている役だなと感じました。過去に数々の先輩方が演じてきた役柄ですが、豊臣兄弟役のふたりをはじめ、共演者はよく知る人が多いので、プレッシャーを感じることなく、力まず現場に入ることができました。

――ご自身が正勝にピッタリだと思われるポイントはどこですか?

泥臭いところでしょうか(笑)。役者を始めたのは24歳と遅かったのですが、フリーとして活動していく中で、いい出会いに恵まれて俳優として引っ張り上げてもらってきました。もちろん自分でも努力はしてきたつもりですけど、そういう出会いによって今日の自分があるというところが、まさに正勝と同じなんじゃないかなって。川並衆という荒くれ者たちを率いていた正勝が、のちに天下人となる秀吉と出会う。その出会いも彼の才能だと思うんです。

――豊臣兄弟との出会いが大きな転機になった正勝にはどんな魅力があったのでしょうか。

強さはもちろん、川並衆を引っ張る統率力や、川や海を使った貿易にけていたところも豊臣兄弟にとっては魅力だったんじゃないでしょうか。一方で、僕が感じる正勝の魅力は「可愛かわいげ」かな。演じる時には“男の中の男”みたいなイメージを大切にしていますが、ただの怖い男ではなく、おちゃな部分も持っていたいと思っているんです。一緒に豊臣兄弟を支える竹中半兵衛は正勝とは真逆の冷静沈着タイプ。正勝と半兵衛はボケとツッコミのように対になっている感覚があるので、正勝は一生懸命やっているんだけど間違えちゃうとか、そういう可愛げが見せられたらいいなと思っています。

――正勝の“男の中の男”のような熱い部分はどのように表現したいと考えていますか?

たぶん現場で、僕は一番声が大きいと思うんです。怒っても驚いても大声を出しています(笑)。だから、正勝の熱さは出せているんじゃないかと思うんですけど、特に第7回の「この蜂須賀正勝と川並衆が、お主らに力を貸す」というセリフはとくに熱く演じようと意識しました。豊臣兄弟に力を貸すと決意する場面で、それがあの回の締めのセリフだったので、すごく難しいなと感じていたんです。カッコよく言うだけなら簡単だと思うのですが、このセリフはカッコいいというトーンではないなと思って。リハーサルの時に自分の熱い思いを言葉に乗せてみたら、みんながすごく盛り上がってくれたので、その方向で行こうと決めました。


キャラクターを表現するために長い太刀を使っています

――小一郎と藤吉郎を演じる仲野太賀さんと池松壮亮さんとのこれまでのシーンで、印象に残っていることはありますか?

小一郎と藤吉郎から、一緒に行こうと口説かれるシーン(第7回)ですね。あのふたりは、誠意みたいなものをチラッと垣間かいま見せるんじゃなくて、ドカンと見せてくるんです。太賀と池松の笑顔が本当によくて、ふたりにニコッと笑われたらすぐOKしちゃう。彼らの人のよさとか可愛げが、人を引き込む力を持っているんですよね。最初、正勝はかたくなに拒否するんですけど、あれだけ誠意を見せられたら、「うん」と言うしかないなと感じました。

――勇猛果敢なイメージの正勝ですが、殺陣たてのシーンで特に意識されていることはありますか?

殺陣師の先生とも相談して、正勝の男らしさを表現するために、僕の太刀だけ人よりすごく長くなっています。最初は「めっちゃいいですね」と言っていたんですけど、太刀が長いので、すごく足を引かないと抜けないんですよ。だから、殺陣の時に誰かを怪我けがさせてしまうんじゃないかと心配していたのですが、ようやく扱いに慣れてきました。あと、正勝は小刀じゃなくて、兜割りという武具を持っています。兜割りは、刀のように斬るのではなく、兜を突き刺したりする打撃用の武器なんです。それは持ち道具さんがアイデアを出してくれて、僕だけが使っています。

――撮影が始まる前に特に準備したことはありますか?

正勝が上半身裸で侍女に怪我の治療をしてもらうシーンがあったのですが、そのために撮影の1か月半くらい前から脂質を抑えました(笑)。体を鍛えて、筋肉が見えるようにしないと説得力がないかなと思って。首から上はこういう顔なので、男らしさが出ていると思うんですけど、体は別人みたいに色白でツルツルなんです。だから、そのシーンの時はメークさんに体をメークしてもらいつつ、中身だけは自分でなんとか作ろうと思って頑張りました。


八津さんのセンスが生きていて、今まで演じてきた時代劇とは全然違う脚本です

――八津弘幸さんの脚本についての印象は?

最初に準備稿を読んでワクワクしていたら、決定稿はそのワクワクを超えてきましたね。超面白いし、泣けるんです。八津さんは「時代劇のセオリーではないこと」を書いているつもりはないと思うんですけど、砕けたセリフとかト書きとか、そういう中で八津さんのセンスが生きていて、今まで演じてきた時代劇とは全然違う脚本だと感じました。役者は言いやすいし、演じやすいし、少し砕いたセリフまわしなので、アドリブも出しやすいんですよね。だから、太賀と池松と菅田将暉と僕のシーンは、カットがかかるまでずっとしゃべっていられますね。それは全部、八津さんの脚本のおかげだなって思います。

――高橋さんが脚本を読んでワクワクした部分はどこですか?

とうの展開は、1つの魅力だと思います。視聴者の皆さんを飽きさせない脚本になっていますし、単純に読み物としても面白いです。それから、その時の感情を直接的なセリフや言葉で表現するのではなくて、シーン全体で見せている感覚があるんです。だから、その感情を逃さずに、1シーン1シーンしっかりと演じているつもりです。

――1年間、正勝を演じていく中で、視聴者にどんなキャラクターとして浸透していってほしいですか?

1年以上同じ役として生きられるというのは、俳優にとって贅沢ぜいたくなことだと思います。でも、視聴者の皆さんには「あの野蛮な人」くらいの感じで覚えていただければ、僕としては光栄です(笑)。僕は俳優として、どんなふうに見せたいかといった感覚はあまりなくて、僕が演じる役が作品のいいスパイスになって、そのシーンに1つでも2つでも味つけができればいいなと思っているんです。だから「あのちょっと顔が汚い人」と思ってもらえたら、まず1つ、スパイスの役目を果たせたのかなと。そこから、あいつ偉くなったなとか、れいになったなって、長く見ていただけたらうれしいなと思っています。