“鹿鳴館の華”と称された貴婦人で、慈善活動も積極的に行っている大山捨松。りん(見上愛)と直美(上坂樹里)の資質を見抜き、トレインドナース(正規に訓練された看護師)になる道を示した人物だ。2人の人生に大きな転機をもたらす存在を、多部未華子が演じている。主演を務めた連続テレビ小説「つばさ」(2009年放送)以来の朝ドラ出演となる多部に、実在の人物を演じるにあたっての心構えや、捨松のりんと直美に対する思いなどを語ってもらった。
捨松は、自分がしたいことに向けて、しっかりと歩んでいった人

――今回演じている大山捨松の人物像をどのように捉えましたか?
とても魅力的なキャラクターですよね。実在の人物ですが、生き方そのものがとても素敵だなと思いました。男性に頼らず、女性としてどう生きるか、自分が何をしたいのかをしっかり持っていらした人。明治という時代の中で、周囲に多くの影響を与えながら、時には世間の反発も受け、それでも自分がやりたいことに向かって着実に歩んでいく。捨松の姿は本当にかっこいいと思いました。主人公の2人に大きな影響を与える役なので、シーンの中でも“いいこと”をたくさん言うんです(笑)。でも、それがお説教のようにならないように、自然に伝わればいいなと思いながら演じています。
――捨松が少女時代に経験した、戊辰戦争での鶴ヶ城籠城(会津戦争)も壮絶ですよね。
ドラマではセリフ4行ほどで語られるだけですが、私は彼女について書かれた本を読んで、実際には過酷な体験をされていたことを知りました。その4行を、どう声に乗せるかはすごく悩みましたね。そうした壮絶な過去がありながらも、未来を見据えて自分の夢を掴みに行く強さを持っていた。その精神力は本当にすごいなと感じました。
あと、あくまで本から受けた印象ですが……捨松のほうが(夫の大山)巌さん(大山巌/髙嶋政宏)にベタ惚れだったんじゃないかな、なんて思ったりして(笑)。本当に巌さんを愛していて、捨松のそういう人間的な部分も大事にして演じられたらいいなと思っています。
いろいろな経験をしてきた捨松を多面的に見えるように演じたい

――大山巌にベタ惚れ、という話でしたが、劇中の捨松は「結婚は私の人生を生きるための手段」と直美に語っていました。
私も、台本を読んだときはそう捉えていたんですけれど、捨松さんにまつわる書籍には、巌さんの没後に“捨松は立っていられないほど落ち込み、晩年を過ごしていた”とあって「そんなに好きだったんだ」と知りました。“結婚も利用した”と言葉では言っていても、巌さんに対しての全ての思いがそこに表れているわけではないのだと。人は一面だけでは計れないですよね。単純に「こういう人」って思われない捨松でいたいと思います。看護の道で人のことを救いたいと思うようになった経緯も、プロテスタントとしての信仰、戦争、留学など、いろんなことを経験してきたからこそ生まれたもの。捨松の人間性が多面的に見えてくるといいなと思っています。
――捨松がなぜそこまで看護に熱を持って取り組もうとしたのか、多部さんはどう感じていますか?
真意は想像するしかないのですが、彼女が会津戦争に巻き込まれ、12歳で官費留学して10年近くアメリカで暮らした経験は大きいですよね。アメリカの考え方に触れたことで、「自分が行動すれば、誰かを救える」という意識を強く持ったのではないでしょうか。

――捨松は、りんと直美に「力を貸してください」と頭を下げます。彼女たちを見込んだきっかけはどこにあったと思いますか?
それはやっぱり、貧民街の炊き出しの場面ですよね。具合の悪い少年を、躊躇なく助けようとする姿を見て「この2人と関わりたい」と思ったのかもしれません。りんと那須で出会ったときは、まさか将来ここまで関わるとは考えてもいなかったはずです。
貧民街のシーンは私のクランクイン初日だったんです。見上さんと上坂さんはすでにりんと直美の役がしっかり入っていて。
見上さんはりんさんとしてとても柔和な雰囲気で、上坂さんは直美さんとして少しトゲがある印象でした。看護は、優しさだけでは成り立たちません。たくましさや強さも必要なので、そのバランスが2人でちょうど補い合える。とてもいいコンビになるのではないかと感じ取ったのではと思います。

――連続テレビ小説に主演した先輩として、何かアドバイスなどは?
全然ないですよ。りんは見上さんの立ち振る舞いが正解だと思うし、直美は上坂さんが全て。
私も「つばさ」の主演を務めていたとき、いちばん自分が(主人公の)つばさ目線で台本を読んでいるし、理解している、と自信を持つようにして撮影に臨んでいました。
見上さんと上坂さんが感じたものをそのままセリフとして喋ったら、それだけで素敵な作品になるだろうな、と信じています。
華やかな衣装が、とにかく素敵です

――捨松は、英語にフランス語、会津ことばを話すし、さらにダンスも上手という役柄ですが、どんな準備をされましたか?
英語とフランス語は、マンツーマンでレッスンを受けました。会津ことばは「さすけねぇ」(問題ない、大丈夫の意)しか言ってないので、大丈夫でした(笑)。
ダンスは、難しかったですねぇ……。ワルツが難しくて、特にペアダンスはほぼ初体験。捨松は“鹿鳴館の華”と言われているだけあって、人目を引く存在としての振る舞いは、どの場面でも意識していました。
――大山巌を演じる髙嶋政宏さんもダンスをされますが?
髙嶋さんは……、ずっとダンスの練習を1人でクルクルひたすら回って……されてました……だめだ、思い出しただけで笑っちゃう(笑) 。普段の髙嶋さん自身が巌さんに通じるところがあって、面白かったです。本当に真面目な方で、ご自身でダンス指導の先生のスタジオまで何度も自主練習に行かれていて、さらにNHKでも私より2度、3度ほど多く練習されて、「僕がリードする」という覚悟を感じました。
――ダンスシーンの衣装も素敵でしたね。
全部素敵なんです。特に、鹿鳴館で皆さんにご挨拶するカドリールという踊りのときに着ていた青いドレスが、お気に入りでした。あの一場面だけなのがもったいないぐらいで、着ることができて嬉しかったですね。
――最後に、これからの「風、薫る」の展開について、期待をお聞かせください。
これからりんと直美がトレインドナースになる道のりが描かれていきますが、看護婦養成所に入所してから、さらに病院勤務へと、物語は大きく変わっていくと思います。2人がどう信頼し合い、バディとして成長していくのか。その過程がどのように描かれるのか、とても楽しみです。