日本史上最大のミステリーである「本能寺の変」。新しい世を目指した織田信長だったが、家臣である明智光秀(要潤)に討たれる。天下一統の夢半ばで散った信長を小栗旬は、どのように演じたのだろうか。また、仲野太賀と池松壮亮との共演で小栗が得たものとは?
最期のシーンで、小栗が提案した信長の一言とは?
――「本能寺の変」を迎えました。描かれた信長の最期について、小栗さんご自身はどう思われましたか?
自分が信長について資料を読んできた中で、信長は逃げ足がものすごく早かったというエピソードがあって。だから「本能寺の変」で、信長はなぜ逃げられなかったのか謎だったんです。自分の中では、疲れてしまったのかなと解釈していて……。これ以上逃げた先に何があるんだろう? って、彼の中で終着点が見えてしまったというか。引退しても恨まれまくっているから、常にいつ殺されるかわからない不安の中で生き抜かなければいけないとも考えただろうし。
だから、脚本家の八津弘幸さんとお話しした時に、一度は思いっきり逃げようとしたいと伝えたんです。逃げようとするけど、逃げるのも諦めて、無様に死んでいく、というような……。今回は、それを汲んでいただいて折衷案みたいな形になっています。ちゃんとこの物語に則った上でメッセージを残して散っていけたのは、良かったと思います。

――「本能寺の変」で最期となった信長の思いとはどんなものだったのでしょうか?
資料を読むと、信長って裏切られた回数がかなり多い人なんですよね。だから疑心暗鬼になるだろうし、人を信じることが難しくなるだろうなと思うんです。この時代は兄弟で殺し合うこともあったし、そうでない兄弟ももちろんいたから、本当のところは分からないですが、最初に弟の信勝(中沢元紀)と家督争いをして、しかも、一度許したのにもう一度謀反を起こされる。これが1つめのダメージですよね。さらに市(宮﨑あおい)を挟んで、義理とはいえいい兄弟関係を築けると思った浅井長政(中島歩)にも裏切られる。

本能寺で死を覚悟した瞬間、信長の前に信勝や長政が現れます。それは全部、彼が勝手に作り上げた幻影で、自分の中にあったトラウマというか、清算したかったものだったんですよね。だから信長は最期に、なんて自分は弱い存在だったんだろうと思い知ったんじゃないでしょうか。そこで信勝に「我らの一生、ろくなものではござりませんでしたな」と言われるんですけど、監督ともお話をして、お前はそう思っているかもしれないけど、俺は違うんだと。未来を託せる人間が俺には1人いるから、余裕で死んでやるよっていう気持ちで最期を迎えたつもりです。
――信長の最期で、そこまで秀吉は大きい存在になっていたんですね。
裏切りばかりの人生の中で、自分を裏切らない秀吉という存在がいたことは、信長にとってものすごく強い、大きなものだったと思うんです。こいつと兄弟になれたら、俺の人生も違ったんじゃないかって思った瞬間もあったんじゃないでしょうか。だから、本能寺の時には、できれば秀吉に来てほしかった、そうしたら喜んで死ねた、それが彼の中で一番気持ちのいい人生の幕引きになったと思うんです。そういう気持ちに辿りつけたことで、「豊臣兄弟!」という作品の中で作り上げてきた織田信長という人物が、最初から最後まで1本筋の通ったものになったなと自分の中では思っています。だからこそ、本能寺で幻の明智光秀が現れた時に、「お前じゃない」と言わせてもらいました。
――「お前じゃない」というセリフは、もともと脚本にはなかったんですか?
そうですね。僕から提案させていただきました。光秀と向き合った時に、心の中から出た言葉だと感じています。目の前に秀吉が立って、「あなたが死んでくれないと、新しい世の中が来ません」と言われたら、喜んで席を譲るのに、なんだか気難しい光秀が来るから許せないんですよね。本当に、お前じゃないっていう(笑)。
――いままでの大河ドラマではあまり描かれてこなかった織田信澄(緒形敦)が、「本能寺の変」への大きな因縁として物語に絡んできたことにも驚きました。
僕も信澄が絡んでくるのは、すごく新鮮だなと感じました。結局、信勝という弟の存在から始まって、「本能寺の変」まで辿り着くというのは、兄弟関係のいろいろな形を描いてきた「豊臣兄弟!」において、すごく納得のいく展開だったな。「本能寺の変」には本当に諸説あって、いろんな解釈があって、織田信長が本当はそこで死んでいないという説までありますが、今回は確実にしっかり切腹をしているので、100%あそこで死んだと思っています。

信長を演じたことで感じた変化とは?
――「鎌倉殿の13人」(2022年放送)で主演して以来の大河ドラマ出演でした。織田信長という過去何度も描かれてきた有名武将を新たな魅力で演じられました。ご自身の中で発見はありましたか?
お芝居ってやっぱり共演者に引き出してもらうものが多くて。基本的に目の前にいる俳優さんからもらうものに応えていくしかないと思うんです。僕たち俳優の中では「ギフト」っていう言い方をしたりするんですけど、もしも、僕が演じる織田信長が魅力的に映っていたとしたら、ギフトをくれる俳優さんが多かった、ということだと思います。太賀くんや池松くんとお芝居をしていると、心が震える瞬間が何度もあるんです。ただ、その震えた心に素直に反応していいのか、いけないのかっていう選択が常に自分の中にありました。2人の味方として、もっと思うままに心を震わせながら演じられる役柄だったらよかったのにと思いましたし、豊臣家臣団の姿を見ていると、ちょっと羨ましかったですね。信長という人物は、たとえ琴線に触れる瞬間があっても、それを見せてはいけない部分があったので。

あとは、やっぱり「鎌倉殿の13人」で大河ドラマの主演をさせてもらった経験が、確実に自分の血肉となっています。さらに今回の経験が自分を俳優として逞しくしてくれるんじゃないでしょうか。ただ、「鎌倉殿の13人」に出演した時、めちゃくちゃしんどかったんです。それを忘れて、4年後にまた10か月くらい参加して、「だから、前もそう思ったじゃん、やっぱり大変なんだよ、大河ドラマって」と改めて感じて。今後はできれば、2、3か月参加する役でお世話になりたいなと思いました(笑)。
――「豊臣兄弟!」に参加されて、改めて振り返っていかがですか?
今回、参加することを決めた大きな理由は、やっぱり太賀くんと池松くんの存在です。言い方が難しいのですが、彼らは演じるということを、ある意味、すごく信じているんですよね。僕らは物語を紡いで、フィクションを作っているんですけど、そこに本当に真っ直ぐ向き合っている2人と、今回、お芝居ができたことで、改めて自分も演じること、お芝居をするということにもう一度ちゃんと向き合うことができました。そういう思いを抱くことができたのは、本当に僕にとって財産です。

これまで僕の中で、織田信長はすごく強い存在というイメージがありました。今回演じた信長というキャラクターは、あくまで一人の人間であり、胸の内にはものすごく大きな葛藤や迷いを抱えていて……僕らと何も変わらない存在だったんだと思えるようになりました。信長のような人が自分と変わらない同じ人間だと感じられたのは、いい経験だったと思っています。
