大河ドラマ「豊臣兄弟!」で小一郎(仲野太賀)、藤吉郎(池松壮亮)の主君となる織田信長を演じるのは、「鎌倉殿の13人」主人公・北条義時役の好演が印象的だった小栗旬。これまで多くの俳優たちが演じてきた信長役に小栗旬はどのように向き合い、どんな信長像を見せようとしているのか?


信長は目的に最短でたどり着く方法を模索した、合理的な人ではないか

――誰もが知る織田信長ですが、小栗さんは信長にどんなイメージを持っていましたか?

僕が感じているイメージは「きわめて合理的な人」で、自分の目的に最短でたどり着く方法を模索して生きていた人、というものです。ただ、戦国時代において、合理性を優先する彼の考え方は先進的、先鋭的すぎて、なかなか理解されなかったのではないかと思うんですよね。

皆が「そのやり方は、話を飛ばしすぎじゃないですか? あちらに話を通しておかなきゃいけないし、こちらにも……」となっているときに、先手必勝とばかりに従来の形をどんどん崩していった。それを周囲にわかってもらえない苦しさ、悔しさみたいなものが蓄積して、どんどん人を寄せ付けないようになっていったんじゃないかな、と僕は捉えています。

――信長はこれから天下統一の道を歩み始めるわけですが、その原動力は何だと思いますか?

これは僕の解釈かもしれませんが、信長というのは、実は規律を大事にしていたのではないかと思うんです。それをすごく気にしながら生きていたけれども、その一方で、日本という国を大きく飛躍させられる方法を自分はわかっている、と思っていたんじゃないでしょうか。

だから、自分が国を運営することが、いちばん重要であると考えた。そのときに足利将軍家や越前の朝倉氏といった保守派、従来の考え方や体制に縛られた人たちと向き合いながら先に進んでいくのは、あまりにも時間がかかります。だったら自分が統一するしかないというのが、彼の最終的なモチベーションだったんじゃないかなと思っています。

――そのイメージは、「豊臣兄弟!」での信長の役作りにも反映されていますか?

もちろん、そういう部分もあるのですが、今回は市(宮﨑あおい)との兄・妹という関係性の中で、少しフランクな部分も描かれているので、自分が持っていたイメージとはまた違うところで、役作りをしていかなければいけないな、と思いながらやっている部分もあります。


信長は、“織田信長”を演じなくてはいけなくなってしまった

――確かに、とても冷酷な表情を見せている一方で、カリスマ性があるけれども人間的な弱さも持っている感じが垣間見えたのですが……。

そう思いますし、そう見えればいいな、と思って演じています。家臣団といるときには「長」として過ごさなければいけないし、結局、信長って、どんどん“織田信長”を演じなければいけなくなってしまったんだと思うんです。「皆が俺のことを見ているから、こうあらねばならない。こういうふうに過ごさなければいけない。これこそ織田信長だろう」と自分を追い込んでしまった結果、本来の自分とのギャップ、かいが起きて、多分1人でいるときは相当苦しんでいたのでは、と思うんですよね。ある意味、自分にもうそをつかなければいけない瞬間がすごく増えていってしまったんじゃないかな、という気がしています。

――そんな信長に、小栗さん自身が共感する部分はありますか?

信長が信長を演じなければいけなくなっていく、という部分には、非常にシンパシーを感じるところがあります。自分もだんだん先輩になってきて、僕に憧れていたといって現場に来てくれる後輩たちが少なからずいて、そうすると「ちゃんとしていなければ」と思いながら、現場で過ごしてしまう。自分の中で大きなギャップがあるんですよ。20代のころの自分は先輩たちにみついたり甘えたりして、それでも皆さんはとても良くしてくれました。自分も年を重ねると「小栗旬と会ったら、全然イメージが違ったし、ちょっと幻滅したんだけど」と言われるのは嫌だし、ちゃんとした人を演じようとしてしまう(笑)。その度に「俺、一体何をしているんだろう」と思ってしまいます。

――信長という人物は大河ドラマでも多くの方が演じてこられましたが、小栗さんの信長像に大きな影響を与えたと思う方はいらっしゃいますか?

僕の中で、初めてまともに見た織田信長は大河ドラマ「秀吉」(1996年)のときの渡哲也さんで、すごく怖かったんですよ。そのイメージが強烈に残っている部分はあります。そこから同世代の俳優だったり、自分よりも若い染谷将太くんが演じた「麒麟がくる」(2020年度)など、いろいろ見てきました。でも結局、演じる人間によって変わるものだと思っていますし、同じように演じたとしても、何かしらの変化、違いは生まれるんじゃないかな、と思いながらやっています。シンプルに、できる限り台本に描かれている信長像を演じたいな、と。

信長が感じさせる恐怖、というのも難しいんですよね。自分がちょっと相手に怖いと思わせるような芝居をしても、結局それは相手のリアクションによって生まれていくものなので。だから、周りの皆さんが信長を恐れてくれていれば、僕が恐怖を表現しなくても怖い人になれると思うし、自分1人では作れないものなので皆さんのお力を借りながら、という感じですね。


信長は豊臣兄弟を見て、トラウマを刺激されてしまう

――「豊臣兄弟!」というタイトルにもあるように兄弟の絆が大きなテーマで、信長と市との兄妹愛も描かれています。小一郎・藤吉郎との対比ということで何か意識されている部分はありますか?

現場で感じることなのですが、あまりにも“きょうだい”の形が違うというか。今後の物語の中に、信長が小一郎と藤吉郎をふるいにかけ、そこで彼らがどういう行動をとるのか見ているような場面も出てきますが、その度に信長としては自分の予想を裏切られることになるんです。そうやって、自分が描いてきた兄弟像や家族の形とは違うものをもって突き進んでいく彼らを見て、自分の中にある後悔、ちょっとしたトラウマを刺激される瞬間が多々あるのだろうな、と考えています。

豊臣兄弟のことで言うと、本当にあのふたりの“サイズ感”が同じなのが(笑)、すごいなと思うんですよね。信長は「2匹の猿」という言い方をしていますけれど。ひたすら前を向いて走っていく藤吉郎がいて、それについていきながらも、どうすれば全員が納得できる形になるんだろうと模索しながら進んでいる小一郎がいて。その姿を見ていると、何よりも兄弟としての説得力を感じますね。

――信長も、市との間には他にはない信頼関係がありますよね?

そうですね。実際、宮﨑さんが演じる市といるときの信長は、普段よりも確実にリラックスした状態で居られていますし、そうあるよう意識しています。

――宮﨑さんとのお芝居はいかがですか?

楽しいですよ、すごく。とても繊細な市を作られているので、彼女の一つ一つがしっかり自分に届いてきます。今回の「豊臣兄弟!」においては、今のところ濃姫が出てこないので、いろいろな部分を市に背負ってもらっていると感じていて。それもあって、市の人生だけはどうにか守ってやりたいという気持ちが、今回の信長においてはすごく強いんじゃないかなと思っています。


「豊臣兄弟!」は、兄弟で上り詰めていく物語

――小栗さんの大河ドラマ出演は2022年の「鎌倉殿の13人」以来で、出演者発表時のコメントで「一度、出演を悩んだ」と話されていましたね。

「鎌倉殿の13人」で主演をやらせていただいて、短い間隔で主要な役として大河ドラマに戻ってくるというのはどうなんだろう? と、やはり自分の中で考えましたし、非常に悩んだんですよね。自分が参加することで、作品にちゃんと貢献できるのか、と考えてしまって。視聴者の皆さんに「また出ているのか」と思われて、面白みがないと感じられてしまうとしたら、それは作品に悪影響を与えると思いましたし。それでも、太賀くんと池松くんが作っていく「豊臣兄弟!」を誰よりも先に見ることができる喜びが勝ってしまって、今この場にいる、という感じですね。

――大河ドラマの主演を経験されているからこそ、仲野太賀さんに伝えたいメッセージはありますか?

プロデューサーや演出陣、太賀くんや池松くんと食事をしたときに話したのですが、今回はどこかふたりで分散できる部分があって、そこを池松くんも背負おうとしている姿勢をすごく感じるんですよ。だから、太賀くんがひとりで背負う必要はないというか、池松くんのそういう姿勢が、太賀くんにとってはものすごく心強いんじゃないかなと思います。
「豊臣兄弟!」は、もちろん小一郎の物語ではありますが、あの兄弟がふたりでどんどん上り詰めていく様が物語の要ですし、それがすごくいいバランスで表現されているから、あとは大いにふたりの能力を発揮してもらって、作品を引っ張っていってほしいと思っています。