連続テレビ小説「ブラッサム」は、明治、大正、昭和を駆け抜け、自由を求め続けた作家・宇野千代をモデルに描く物語。山口・岩国の葉野家に生まれた主人公の珠たま(石橋静河)が、やがて“書く”喜びに目覚め、作家への道を歩み始める。

主演を務める石橋静河は、珠という人物とどのように向き合い、役作りに取り組んでいるのか。インタビュー前編では、激動の時代を生きる珠の魅力や、宇野千代をモデルにした人物を演じる思い、撮影現場で意識していることについて話を聞いた。


いろんな出来事を“自分の糧”にできる人

――珠は宇野千代さんをモデルにしています。どのように役作りを進めましたか?

まずは宇野千代さんのエッセーや小説をとにかく読むところから始めました。ご自身の人生についてたくさん書かれているので、その言葉に触れることで人物像を知ろうと思いました。読んでいると、印象的な言葉が本当にたくさんありました。なぜその言葉が出てきたんだろう? と解明したくなるほどです。

例えば、「私、なんだか死なないような気がするの」という言葉からは、千代さんらしいユーモアを感じました。でも、千代さんがどうしてそこまで突き抜けた境地に辿たどり着いたのか、最初はわかりませんでした。

ただ本を読み進めるうちに、千代さんが父親との関係性について何度も書いていることに気づきました。千代さんの人生に大きな影響を与えた存在で、きっと書くことで気持ちの整理を重ね、その末に印象的な言葉へと研ぎ澄まされていったのだと思います。

そうした千代さんの人生に触れるなかで、多くの経験を自分の糧にしながら前へ進んでいく強さを感じました。珠は宇野千代さんをモデルにした人物ですが、ドラマオリジナルの要素もたくさんあります。さまざまな経験を重ねながら自分らしい生き方を見つけていく珠の歩みを大切に演じていきたいと思っています。

――そうした千代さんの人生観や価値観は、珠を演じるうえでも参考になっていますか?

千代さんは探究心があって前向きな方ですが、決して楽しいことばかりの人生ではなかったし、最初からポジティブだったわけでもない。悩んだり、悲しんだりしながらも、「自分はこう生きたい」というものを見つけていった方だと思います。

脚本を読んでいると、珠は千代さんと同じように、子どもの頃からいろんな出来事の中から学びを見いだせる人なんですね。悲しいことや苦しいこととして記憶に残すこともできるけど、そこから何かを学び取って自分の中に蓄えていく。珠はきっとそういう力を持った人なのだろうな、と感じています。

――日頃から意識していることはありますか?

千代さんは、どんなときでも「最高です!」と言っていたそうです。けがをして入院しているときでさえも、おっしゃっていたと聞きました。それから毎日、鏡の中の自分を見て、「きれいだ」とおっしゃっていたそうです。だから私も毎朝「最高です!」と言う練習をしていますし、忘れないように洗面台の鏡に「きれいだ!」と書いた付箋を貼っています(笑)。

――演じる珠の魅力はどんなところにありますか?

珠は明るくて、朗らかで、飾らない魅力のある女性。宇野千代さんも、激動の時代の中でさまざまな経験を重ねてこられましたが、不思議と悲壮感がないです。そこは珠を演じるうえで大事にしたい要素です。


全ての選択を自分で選んでいるからこそ、後悔はない

――さまざまな資料を読み込む中で、千代さんに共感した部分はありますか?

千代さんは、自分で自分の人生を選び取っていく人。激動の人生を歩まれていますが、その選択を自分自身でしていることをちゃんと自覚しているところが、すごく素敵すてきだなと思っています。

戦争や災害など、自分ではコントロールできない出来事もあります。でも、故郷・岩国を出ることや結婚、そして別れといった人生の大きな選択は、千代さんご自身が決断してきたことなんです。もちろん、それには痛みも伴ったと思います。でも、全ての選択を自分で選んでいるからこそ、そこに後悔や誰かを恨む気持ちが全然ないんです。とても自立した方ですし、苦しい出来事があっても誰かのせいにしなかったところがかっこいいなと思います。

――千代さんの人生をたどる中で、特に印象に残った生き方はありますか?

宇野千代さんと聞くと、多くの方が「派手で濃い人生を送った人」という印象を持たれると思います。今でも4回の結婚は珍しいと思いますが、当時はなおさら世間の厳しい目があったはず。

でも、千代さん自身の目線で人生をたどっていくと、その瞬間その瞬間で、目の前にいる人を本当に大切にしていることが伝わってきます。夢中になれる人と出会ったら一途いちずに向き合い、相手に没頭する。そこにはものすごいエネルギーが必要ですし、苦しみも伴ったと思います。そして、自分の心が離れたこと、あるいは相手の心が離れていったことを感じたときには、「ありがとう」と言って前へ進んでいく。そういう勇気のある選択を重ねてきた人なのだろうなと思います。


セリフは目で見るよりも、音で聞いたほうが覚えやすい

――実際に撮影が始まって、思っていた以上に大変だったことはありますか?

一日中撮影をするというのは、本当にへとへとになります。今まで“朝ドラ”をやってこられた皆さんは本当にすごいなと思います。

――岩国ことばのセリフもありますが、そちらの習得はいかがですか?

私はセリフを目で見て覚えるよりも、音で聞いた方が覚えやすいタイプ。なので、音源をいただけるほうが、“耳コピ”のような感覚でできるのでありがたいです。岩国ことばはとても柔らかくて、話しやすい言葉でした。今は東京編の撮影なので(取材時)、むしろ東京ことばに苦労しています(笑)。

――衣装やヘアスタイルの変化も見どころの1つですよね。

先日、フィンガーウェーブ(髪にS字の波状を作るクラシックなヘアスタイル)の髪型で撮影をしました。独特ですごくかわいくて。当時は西洋の文化が次々と入ってきて、和と洋がまぜこぜになっていく感じがすごく楽しいです。時代とともに変化する珠の衣装や髪型にも注目していただきたいです。

――主人公を半年間演じる、というのは長丁場ですが、演じるうえで心がけていることはありますか?

私にとって初めての経験なので、今も探りながら進んでいるところがあります。この役を通して何を伝えたいのか、それは千代さんが伝えたかったことと重なるのか――。そういったことは常に意識して演じたいと思っています。

撮影が続くと、どうしても目の前のことで一杯いっぱいになりがちです。でも、千代さんは、「私は最高です」という気持ちを大切にしながら、最高の人生を生きようとしてきた人。だから私自身も、「こんな思いを届けたい!」という気持ちを大切にしながら、珠の苦しみや悩み、喜びを演じていけたらと思っています。

――「ブラッサム」をご覧になる視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。

珠は、さまざまな苦しみや悲しみを経験しながらも、その一つ一つを糧にして前へ進んでいく女性です。激動の時代の中で、自分らしい生き方を模索し続けながら、ときには勇気のいる選択を重ねていきます。珠の姿に、きっと共感したり、勇気をもらったりする瞬間があると思います。
登場人物それぞれが悩み、迷いながら懸命に生きる姿を、ぜひ温かく見守っていただけたらうれしいです。