3月30日(月)にスタートする連続テレビ小説「風、薫る」。看護がまだ職業として確立していなかった明治時代、ついに日本でもトレインドナース(正規に訓練された看護師)が生まれる。ドラマはその黎明れいめい期に2人の主人公、いちりん(見上愛)とおおなお(上坂樹里)が、看護の世界で奮闘する姿を描く。脚本を手がける吉澤智子は、執筆にあたって何を考え、物語にどんな思いを込めたのか。インタビュー前編では、明治という激動の時代を生きた主人公2人のキャラクター造形などについて語ってもらった。


念願の“バディもの”を書ける! しかも“朝ドラ”で!!

――まず、「風、薫る」脚本の執筆に至った経緯を教えてください。

制作統括の松園武大プロデューサーから声をかけていただいた時点で、「おおぜきちかさんとすずまささんをモチーフにした、明治期の看護の世界を描く物語に」という方向性は決まっていました。そのときに「できればバディものにしたい」と言われたんです。私は、脚本家になってからずっと女性2人のバディものを書きたいと思っていて、企画書をいろんなところに出し続けていました。でも、なかなか通らなくて……。気づけば恋愛ドラマばかり書くようになっていました。「好き」とか「嫌い」とか……(笑)。
やっとバディものが書ける、しかも“朝ドラ”で! なんて、ちょっと震える思いで喜んでお引き受けしました。

――医療をテーマにした作品は、これまでも手がけてこられましたよね?

医療ものは今までいくつか手がけてきました。今回のお話をいただいたのは、ちょうどコロナ禍が明けたころ。あの時期を経験して、看護と医療、公共の福祉、そして医療と社会のバランスの難しさを改めて強く感じていました。それを踏まえて、世の中に「看護」という概念が日本に根付き始めたときの難しさや、看護学の発展の原点を描きながら、今に通じる物語を描くのは面白いのではと思いました。

――明治を生きた女性2人を主人公にした物語を執筆するうえで、どんなところに面白さを感じていますか?

幸せな結婚をして誰かの奥さんとして人生を送ることが当たり前という明治の時代に、“働く女性の始まり”と、“看護師の始まり”が重なっていて……。言わば“パイオニアの物語”にもなり得るので、ドラマとして描き甲斐がいがあるなと思っています。令和のドラマではなかなか描きづらい本質的なテーマもビビッドに描ける時代設定だと受け止めています。


まっすぐで“うかつ”なりんと “あまのじゃく”な直美

――主人公たちのモチーフである大関和さんと鈴木雅さんの姿からどのように物語を考えていったのですか?

興味深いなと感じたのは、お2人ともシングルマザーであり、結婚していることが女性の当たり前とされていた当時の状況からは外れたところにいて、社会から落ちこぼれた人であるかのように見られていた、という点です。そういう女性たちが、看護という新しい世界を広げていったことに、設定として大きなヒントをいただき、キャラクター造形に生かしています。

――一ノ瀬りんはどのようなイメージで書かれているのでしょうか?

彼女は「心で思ったことがすぐ口に出てしまう」まっすぐな人物です。物語の前半では、当時の女性の幸せの象徴とされていた“奥様”という言葉がキーワードになっています。現代でも結婚こそが幸せという人はたくさんいると思いますが、りんは、あの時代に「あれ、本当にそうなのかな?」と何気なく思ったことを口に出せてしまう。だから、まっすぐで素直だけど、ちょっと“うかつな”人。清く正しいヒロインというよりも、欠点もある女性として描いています。
スーパーヒロインではなく、どこにでもいる女性が、コレラ(コロリ)などの疫病がまんえんする時代を経験して、少しずつ大人になっていく物語でもありたいと考えています。

――一方の大家直美は、りんとは真逆な境遇で、自分の目的のためには多少のうそやズルもいとわないという、複雑な性格を持った女性として描かれていますね。

言葉では表現しづらいですが、あえて言葉にするとしたら、“あまのじゃく”な女性です。子ども時代に愛情を注がれていたりんとは違い、生後まもなく親に捨てられた直美は早く大人にならなければいけなかった。そうでないと生きてこられなかった。そんな直美が、りんと交流することによって本来持っている素直さを出せるようになって成長していくイメージで描いています。

――りんと直美を演じている、見上愛さんと上坂樹里さんのお芝居をご覧になった印象は?

実際の見上さんはとてもクレバーな人だと感じています。ですが、りんを演じるときは、「うかつで、なにかと間違えるけれど、まっすぐで素直だ」ということを表現してくださっています。とても目の表情が豊かな方で、セリフがないシーンでも雄弁に表情で語ってくれています。

上坂さんは、たたずまいの空気感がまるで空気清浄機みたいです(笑)。彼女がいると、そこだけイオンが発生しているかのような清潔感があります。そんな上坂さんの空気感が、周囲に毒づく直美を「根っこは善良で、誠実な人なんだ」という“愛すべきひねくれ者”にしてくれているのかなと。直美なりに頑張っている、その健気けなげさみたいなものを、セリフではなく佇まいで表現してくださっていると感じています。


真面目に扱うべきテーマだからこそ、明るく書くようにしたい

――脚本を書かれる中で、大変だなと感じるのは、どんなところですか?

1回15分という放送時間に主人公2人のストーリーを収めるのが大変です(笑)。松園プロデューサーから「多くの朝ドラは後半になると、話が足りなくなる」と聞いていましたが、今回はどの部分を削っていくかという話になっています。全体の構成や毎日の内容、1週間の中でのバランスなど本当に難しいですね。15分という中で、どのように2人にスポットライトを当てていくか、みんなで知恵を出し合いながら、時間配分や見せ方の工夫を試行錯誤しながら進めています。

――2人のキャラクターの書き分けなどの苦労はありますか?

書き分けという意味では特に苦労はしていません。りんと直美の会話や、女性同士の会話をこれだけ書けるのはすごく楽しいです。自分としてはずっと書いていたいですが、女子トークばかりですと、ストーリーが進まなくなるので渋々しぶしぶ切り上げています(笑)。やっぱり皆さんに「次はどうなるんだろう?」と思っていただくことが大事ですからね。

――今回の物語で心がけている部分、苦労されていることはありますか?

扱っている内容が看護や命に関わるシリアスなテーマなので、すごく気をつけながら書いています。真面目に扱うべき重いテーマだからこそ、明るく書くようにすることはずっと心がけています。
りんと直美は看護の道を進む中で多くの挫折を経験し、何が正しいことなのかわからない、という状態が出てきます。人として正しいことと、看護として正しいことがぶつかってしまうシーンも出てきます。そこはしっかりと時間をかけて丁寧に描いていければと思います。

――この「風、薫る」を楽しみにしている方々に、どんな思いを届けたいですか?

私は高校生のときにバスケ部で、高3の秋に部活を引退して朝練がなくなり、そのころから朝ドラを見るようになりました。その時に放送されていたのが「かりん」(平成5年度後期)という作品で、毎日楽しみで見続けていました。それくらい朝ドラにきつけられていたので、脚本家になったらいつかはと思っていました。
依頼を受けて、うれしくて最初は喜んでいましたが、いざ書き始めて、撮影があって、オンエアが近づいてくると……今は恐怖半分、喜び半分というか。責任の重さに、恐れおののいています(笑)。
かつての私のような人たちや、学校や会社に行こうとする人たちが「よし、きょうも頑張ろう」という気持ちになっていただければいいな、と思いながら取り組んでいます。楽しんでいただけることを、心から願っています。

【プロフィール】
よしざわ・ともこ

神奈川県生まれ。明治学院大学社会学部卒業後、CATVアナウンサー兼記者や新聞社などで勤務。2008年に脚本家デビュー。コメディーからホームドラマ、医療ドラマ、時代劇など幅広いジャンルを手掛ける。コミカルかつ繊細な人物描写には定評があり、特に女性のリアルな本音を感じさせる台詞せりふが共感を得ている。
これまでの主な執筆作
ドラマ「広重ぶるう」「幸運なひと」「まんぞくまんぞく」「ダルマさんが笑った。」「Dr.DMAT」「あなたのことはそれほど」「初めて恋をした日に読む話」「病室で念仏を唱えないでください」ほか多数