親友・槇村(林裕太)が書いた小説が文芸同人誌で高く評価される一方で、自分の小説の出来に納得できず、苦悩を深めていくシマケンこと島田健次郎。佐野晶哉は、そんなシマケンの葛藤をどんな思いで演じているのか。インタビュー後編では、槇村との関係性、看護の道に邁進するりん(見上愛)に向ける眼差しや、語学が堪能な役を演じるうえでの心構えを語ってもらった。
槇村が評価されて、シマケンは前を向けなくなってしまう

――シマケンと同じ小説家志望の槇村は世間に認められました。一方、シマケンはまだ「何者でもない」状態です。2人の関係を、佐野さんはどのように受け止めていますか?
良きライバルですね、本当に。槇村もそうなのかもしれませんが、シマケンはとにかく槇村を意識しまくっていて、「絶対、槇村よりも先に売れたい」という思いがあったはずなんです。だからこそ、同じ道を目指していた親友に先を越された悔しさは、相当大きかったと思います。場を明るくしようとする軽やかさを持つ槇村のキャラクターがあるから真正面から言い合うことにもならないし、槇村はシマケンに気を遣っているセリフもある。その気を遣われている事実すら、シマケンにはつらいんですよね。

――シマケンは、「自分は何者でもない」という葛藤を抱え続けています。そこに共感する部分はありますか?
あります、めちゃくちゃあります。シマケンは新聞社で活字拾いをしながら小説を書いているけれど、なかなか筆が進まない。だから「小説家を目指しているだけの人」でしかないと、自分に言い聞かせている。その感覚はすごくわかります。僕もアイドルという仕事をしながら、一歩外に出ると自分は「何者でもない」と感じていた時期がありました。バラエティーでは芸人さん、芝居では役者さん、歌ではアーティストさんへのリスペクトが強くて、どの現場でも「自分は本職じゃない」「中途半端やな」と思ってしまっていたんです。今はそこまで感じないようになりましたが、当時はずっとそんな感覚を抱えていました。
――今は変わりましたか?
今は、アイドルとして何万人の前に立ってきた自分にしか出せないきらめきや、芝居や、立ち振る舞いがあると感じています。それを視聴者やスタッフの方も求めてくれていると思えたとき、自信を取り戻して一歩進めた気がしました。
――シマケンにも、そんな日が来る?
今、僕が読んでいる台本では、なかなか来なさそうですけれど(笑)。早く一歩進めるようになってほしいですね。
フランス語の長ゼリフ、言い方や文脈を考えている時間が楽しい

――シマケンは“語学マニア”で、外国語や長ゼリフも多くて大変だと思うのですが、そのあたりはいかがですか?
台本を読んで「やっば!」と思いました(笑)。1回登場すると「まだ帰らへんのか?」と思うくらい、ずっとその場にいるんですよ。でも、「朝ドラでこんなに喋れて幸せやな」と思いながらやっています。
セリフを覚えるのは確かに大変です。対話というより、自分の知識を語る長ゼリフが多いので。でも、シマケンとしての言い方や文脈を考えている時間は、めちゃくちゃ楽しいですね。
――フランス語のレッスンも受けられたそうですね。
最初の顔合わせで、「シマケンのフランス語のレベルは、本だけで学んだだけか、それとも、耳でも学習していて発音もできるのか」という話になって、心の中で「本だけにしてくれ!」って思っていました(笑)。
結果的には耳でも学んでいるということになって、「頑張らなあかん」と。明治時代だからネイティブまでいかないとしても外国の方も入ってきているから、気合いを入れ直しました。
ある撮影では、直前にA4の紙1枚分のフランス語が追加されたことがあって(笑)。なかなかハードでした。

――シマケンが語学を好きになった理由について、佐野さんはどう思いますか?
めちゃくちゃわかります。それしかすることがなくて、それを好きになる、という感覚。りんさんに、自分が言葉に詳しくなった理由を語るシーンでは、シマケンの優しさがすごく出ていると思いました。落ち込んでいるりんさんを前に、自分の過去を語っていくので、「シマケン、こういう優しさもあるんや」と思いながら演じていました。
新しいことにチャレンジしていく、りんさんのように生きたい

――そんなシマケンの優しさに、りんは何度も救われていますね。
そうですね。きっとシマケンも、りんさんの真っ直ぐさにたくさん救われていると思います。自分が小説家志望だということすら隠して打ち明けられなかったシマケンが、りんさんの姿から勇気をもらって、少しずつ変わっていく。
一方で、シマケンはすごく遠回しにりんさんを励ましていて、結果として勇気を与えている。そんな関係性も、表現できたらいいなと思っています。

――りんは新しいことに、次々とチャレンジしていきます。彼女のような女性像については、どう受け止めていますか?
やっぱり、たくましいなと思います。シマケンも外国や言語に詳しく、当時の最先端を走っている人物ではありますが、それはあくまで「好きでやっていること」。それに対して、りんさんは「やらなければ生きていけない」という切実なところから始まっているんですよね。そこから、少しずつ看護師としてのやりがいや希望を見つけて、今やっていることを好きになっていく。その姿勢がすごくかっこいいと思いましたし、僕自身もそうありたいと感じました。
――シマケンも、言語に強い興味を持っている、好奇心旺盛な人物ですよね。
好奇心はものすごくあると思いますし、興味だけでなく、実力もあると思います。ただ、それをまだ小説にうまく活かせていない。その点は、演じている僕としては少し悔しいところでもありますけどね(笑)。